ランドクルーザー70(30周年記念モデル)開発責任者に聞く(2/4) ― 平和の使者 ―

「働くクルマ」として世界中の道で活躍

“40 SERIES”(1960年)
“40 SERIES”(1960年)
高速走行の快適さも求める北米のニーズを重視して設計。以降24年間にわたり販売されたロングセラーモデル。
“70 SERIES”(2014年)
“70 SERIES”(2014年)
海外で専用車モデルとなっていた70系が誕生30周年を記念し、期間限定日本復活。

現在、中古車も含めると前述の170カ国の他にも、世界中でランクルは走っています。世界各国を旅しても、ランクルを見ない地域はないでしょう。中でも、販売台数が多いのは中近東が圧倒的で、次いで、欧州(そのほとんどはロシア)であり、オセアニア、中国、アフリカ、中南米と続きます。とくに新興国、資源国での需要が高く、その多くは「このクルマしかない」という必要性に迫られての熱烈な支持によるものです。いまでもこうした地域を訪れると、50年前の40系がバリバリ現役で頑張っていたりします。それだけ堅牢で壊れない。道がどこまで続いているのか?もしかしたら途中でなくなっているかもも分からないような場所でも、このクルマは行って、帰ってくる性能を持っている。こんなタフなクルマは地球上でランクルだけだ、他のメーカーには決して真似できないクルマだと自負しています。
中近東の灼熱の砂漠で、オーストラリアの鉱山の坑道の中で、富士山の頂上よりも高い高度3,500mを超えるコスタリカの大型農場で、氷点下40℃を超える極寒のシベリアで、広大な草原が拡がるケニアの自然公園で、さらには南極大陸の基地で…、世界中のあらゆる過酷な環境の中で、ランクル(とくにヘビーデューティの70系)が活躍しています。しかも、その使われ方も半端ではありません。
オーストラリアの鉱山では365日24時間フル稼働で使用されますが、「いままで他のクルマも試したけど、このクルマに勝るものは世界にひとつとしてない」と絶大な評価をいただいています。メルボルン郊外の広大な森林公園の管理に携わるパークレンジャーの人たちからは「道のない森の中を分け入って走ることができるランクルのおかげで安心して自然を守ることができる」「山火事の際も、このクルマなら猛烈な熱量の中、現場に行って、消火作業ができる」と感謝されています。また、ラクダとともに砂漠の中で生活している中近東のベドウィンと呼ばれる人たちにとって生活の足となり、広大な砂漠で信頼をおいて走行できる唯一のクルマはランクルだといいます。
また、アフリカで救急車といえば、ランクルですし、中近東のパトカーもランクルです。赤十字や国連でランクルが活躍しているのもご存知のとおりです。紛争地域などの子どもたちにはランクルは「平和の使者」「幸せを運んでくるクルマ」としてすごく人気があります。
さらには、中近東の沿岸では、地引網漁の網を引っ張るクルマとしてランクルが働いていたり、その魚を4トンもある水槽に入れて水槽ごと街に運搬していたりします(本来は1.5トンの積載が限度なのですが…)。こういう想定外の使用にも耐えうること、こうした架装や改造にも対応できるのはランクルならではの懐の深さがあるからです。これらがすべてランクルの信頼につながっています。

高い独自の評価基準

ランドクルーザーピックアップ。ボディーカラーはホワイト<058>
デッキスペース(ピックアップ)
デッキスペース(ピックアップ)
ロングホイールベースを最大限に活かした広いデッキスペース。デッキ前部にガードフレームを装着するとともに、徹底した防錆対策を施すなど、高度な堅牢性を追求しました。また、荷室固定用のロープフックやテールゲートチェーンを装備するなど、細部にまで配慮を施しています。

いまから60年以上前に誕生したトヨタジープBJ型。当時、目指していたのは「丈夫であり、壊れても直しやすいクルマ」でした。そして、大型トラック用のパワフルなエンジンに、堅牢なトランスミッションを組み合わせたそのパワーを証明するため富士山6合目までの登坂テストを敢行。さらには、水中テスト、ジャンプテスト、急旋回テスト、不整地/砂利道テストなどを徹底的に実施しました。この設計へのこだわりこそが、走破性、信頼性、耐久性を追求してきたランクルの原点です。
トヨタにはTS基準という評価基準がありますが、ランクルにはこれとは別に独自のランクル基準というものを設けています。それは通常の乗用車に比べ、厳しい、きわめて高い基準となっています。
なぜならランクルは前述のように、普通のクルマでは行かない、行けない過酷な道、環境の下、想定しきれないような使われ方をしても大丈夫なクルマでなければいけないからです。例えば、ランクルの長年のユーザーに、オーストラリアの大平原のど真ん中でホテルを経営されているおばあさんがいます。彼女は週1回、片道約400km離れた街までランクルで買い物に出かけています。万一、途中でクルマが故障して止まってしまったら…。街までの道のりの途中には、人も住んでいない、ひたすら何にもない大平原です。クルマの往来なんて、もちろんありません。運良く宿泊客のクルマと遭遇しない限り、彼女は救援を呼ぶことすらできません。そんなおばあさんにとっては生活を支えるクルマで、頼もしい家族の一員です。
アフリカに行くと未舗装率が95%以上ですから、街から5分も走ると、道はダートに変わります。途中、道が途切れていたり、川に橋が架かっていなかったり、大雨が降ると道は川に変化したり…。アフリカでは日常生活の中で普通に起こります。そんな環境の中をランクルはいつも走っているのです。ですから、評価基準も自ずと高くなるのは当然です。
クルマの開発においてどんなクルマでも耐久試験をおこないますが、とくにランクルの場合、トータルで約100万kmを超える耐久試験を行ってきました。ざっと地球25周分に相当します。
またランクルはこうした実際のクルマで必ず評価する「実車評価」に加えて、「現地現物」(現地に行って、現物を見て、現実を確認すること。ただ表面的な観察ではなく、事実の背後にある真実を発見することが重要。)ということを大切にしていて、最後は現地に行って、確認をおこないます。また、トラブルが起きたら、現地に急行して、自分の目で確認をすることを怠りません。
さらに「号口同等以上」という考え方もあって、新しいクルマには号口(いままで販売していたクルマ)同等もしくはそれを超える性能を使用する部品の一つひとつにまで要求する、ということを繰り返してきました。
こうした「現地現物」「実車評価」「号口同等以上」の考え方の下、積み上げられてきた高い目標値が現在のランクル基準となっているのです。