ハリアー 開発責任者に聞く

2013年に登場した3代目ハリアーは、4年を経ても好調な販売成績を維持している。今回、プレミアムSUVの先駆けとなったモデルをさらに魅力的にするため、マイナーチェンジを実施した。キーワードは「スポーティ」と「本物」。1997年発売の初代からハリアーに関わり続けてきた石井 隆 技範に、改良のコンセプトについて聞いた。

ハリアーを「スポーティ」へ!「本物」へ

私は、入社当時はボデー設計に所属していました。自分が設計に関わった車両で初めて購入したクルマは初代ハリアーでした。それまではウィンダム、その前はクレスタに乗っていました。FRセダンが当たり前だった時代から、室内が広くて買いやすいFF車が広まっていく流れに沿った選択です。

ハリアー担当になった当時を思い出すと、セダンとはまったく違う斬新なクルマで、モデルを見てとにかくカッコいいと思い、「モデル通りのクルマを造らねば!」という責任を感じました。まだ、SUVという言葉は使われていなくて、RV(レクリエーショナルビークル)と呼ばれていました。四駆のオフローダーはそれまでにもありましたが、ハリアーはそこにフォーマルとアーバンを加えたところが新鮮だったんです。

タキシードを着たライオンが登場するCMもインパクトがありました。「WILD but FORMAL」というキャッチコピーは、ハリアーのコンセプトを見事に表していました。高級サルーンとSUVの融合です。20年前に登場しましたが、今では競争相手が大量に出てきました。

現在のハリアーブランドイメージは「高級」「先進」「洗練」、今回のマイナーチェンジでは、現ハリアーでやや欠けている2つのテーマを訴求しました。まずは「スポーティ」です。ハリアーが欲しいけれどもっとスポーティなモデルがあればと考えているお客さまに、2.0Lターボエンジンを用意しました。圧倒的に速くなりましたので十分満足していただけると思います。ハンドリングも改善しました。SUVでも、スポーティな走りができます。安心して走るには、カチッとした手応えがあったほうがいいですね。又、スポーツモードも設定しました。

もうひとつは「本物感から本物へ」。革シートはなめしのいいプレミアムナッパを採用しました。柔らかい感触の革で、高級感があります。加飾ではアルミのパネルを使っています。プレスが難しくて高価なんですが、触れた時のひんやりした感覚はやはり本物だからこそです。本当の高級感を作り出すには、本物を使うことがどうしても必要なんです。

写真:PROGRESS"Metal and Leather Package"(ターボ2WD車)/ プレミアムナッパ(ブラック×レッド)

すべての図面、部品を見る事がよいクルマに繋がる

私は、子供の頃はまったくクルマに興味がありませんでした。野球少年で、一日中グラウンドを駆け回り、中学ではエースとして県大会で準優勝するほどの腕前でした。高校は進学校に進み、そこでも野球部に入ったんですが年功序列のしきたりが嫌ですぐに辞めました。実力が評価されない環境だったんです。

医者にでもなろうかと思っていましたが、大学では工学部の機械科に。大学院までいって、麻雀仲間5人で入れる研究室に所属していました。トヨタに入ったのは1982年です。証券会社や銀行がもてはやされていた時代で、自動車会社はまだそれほど人気はありませんでした。

配属されたのはボデー設計でした。最初に関わったのはスープラ。新人ということもありBMWやベンツをベンチマークしたことが印象に残っています。ソアラ、カローラ、セルシオ、クラウンを担当し、その後ハリアー等の開発にて、一通りのボデーの知識はついたと思っています。製品企画に移ってからは、北米の車両をメインで担当しました。

トヨタ社内には運転のスキルを規定する制度があるのですが、ちょうどこの頃、上級運転免許を取得したのです。操縦安定性への理解が深まり、又製品企画でハリアーを立上げ、次のハイランダーではすべての性能が理解できたと思っています。

製品企画では、クルマの見方が設計とは違い、常にお客様目線で見ることです。又、全ての分野の図面、部品を見ることができたのはよかったと思います。今回のマイナーチェンジでは、徹底的に図面に目を通し、新設の部品は自分がOK判断をして出図させました。図面を見る能力は、製品企画の中でもトップクラスだと自負しています。

「自分の愛車」の開発を担当

初代のハリアーには10年乗りました。2008年には2代目を買って、その直後に、次のハリアー3代目を担当するように言われたんです。まったく予想していなかったので、驚きました。その結果、初代から3代目まですべて担当することになりました。自分の愛車なので、いつも乗っているクルマですから、弱点も知っているし、こうすれば良くなるということもわかっていました。

この3代目ハリアーは先進的で高級感のあるクルマですが、マイナーチェンジ前のモデルについては、スポーティさがやや欠けていると思っていました。だから今回の改良では、どうしても2.0Lターボが欲しかったんです。スポーツモードでは、非線形のアクセル制御と専用のEPS適合値を持ち、アクセルのレスポンス、及びステアリングフィーリングなどがよりスポーティな走行を可能にし、高級感のあるスポーティさを実現できたと思っています。クルマの挙動についても、パフォーマンスダンパーの設定や足回りの最適チューニング等により満足できるものになりました。

ターボの設定に関しては、システムはレクサスNXと同じですからそれほど苦労はないと思っていました。ところが、大間違いでNV(ノイズとバイブレーション)との戦いでした。最初は、低速のこもり音、なんとか直したら、パフォーマンスダンパー(走行時にボデー全体に発生する微振動を減衰・吸収する装置)の適合値が決まると共振でステアリング振動が発生。解決したと思ったら今度はアイドリング振動……という繰り返しでした。

全て対策完了と思ったら、エンジン生産工場が変更になることが決まり、またイチから確認。とにかくNV関係との戦いでした。

いいクルマづくりには“粘り強さ”が大事

デザイン面では、ランプにこだわりました。FRランプでは、AHSやシーケンシャルターン等を採用しました。リヤのコンビネーションランプは、目立たさせることを考えました。現行ハリアーは、ダーク系のボディカラーを多く買っていただいていますが、アウターレンズがクリアー、加飾は黒なのでランプの外形が分りづらくボディに溶け込んでしまうんです。今回は、レンズを赤くしてくっきりとした意匠にすることで、この問題を解決しました。又、LEDは価格が高いので多くは使えなく、数が少ないと均一に光らせるのが難しい。マイナーチェンジ前はその点、どうしてもムラができてしまうのを逆手に取って、陰影を日本的な風情として表現していました。今回は、赤レンズに変更することで、より均一な発光を狙いました。

とはいっても、最新型のハリアーは、お金はかなりかけました。内装のプレミアムナッパシートやアルミニウム加飾も、高価な素材です。先進安全装備では「Toyota Safety Sense P」や電動式パーキングブレーキを全車に設定しました。それでも販価はそんなには上げていませんので、かなりお買い得だと思います。営業サイドの方針で、1台あたりの収益が薄くても台数を売って利益を出すことにしました。

私のモットーとして、使えるお金は収益を傷めない範囲で使い、いいクルマを造って、お客さまに喜んでいただきたいことです。時間も同じです。いいクルマを出すには、ギリギリまで粘る。多くの設計者は変更を嫌いますが、間に合うなら、いいクルマにするためにとことん粘るべきと思っています。

ハリアーは20代、30代のお客さまが多く、ガソリン車に限ると、50%以上がその年代なんです。まさに「手の届く高級車」なんです。私もすでに契約しました。これで3代ずっとハリアーに乗ることになります。息子たちもハリアーに乗っていますから、家族ぐるみの愛車なんです。お客さまにも愛着を持って乗っていただけるクルマができたと思っています。

<プロフィール>
石井 隆(いしい・たかし)
名古屋大学工学部大学院卒。1982年トヨタ自動車入社。スープラ、ソアラ、カローラ、セルシオ、ハリアー等のボデー設計に携わった。製品企画に移ってからは北米車両がメイン。ハリアー(RX)、ハイランダーなどを担当した。2代目に続き3代目のハリアーにも関わり、マイナーチェンジではスポーティさにこだわってコンセプトを練り上げた。

[ガズー編集部]