【懐かしの名車をプレイバック】ソアラ4代目 華やかなクルマは人生をときめかせる
一世を風靡(ふうび)したあのクルマ、日本車の歴史を切り開いていったあのエポックメイキングなクルマを令和のいま振り返ってみれば、そこには懐かしさだけではない何か新しい発見があるかもしれない。今回は、当時最高のステータススシンボルとして君臨した、日本初の本格パーソナルクーペ「トヨタ・ソアラ」の歴代モデルに注目する。
目次
レクサスの国内展開に合わせ、後に北米と同じ「レクサスSC」を名乗ることになった4代目「ソアラ」。シリーズ初となるクーペとオープンカーという2つの顔を持つそのキャラクターとは?
カッコいいではないか!
そうきましたか……。というのが初めて4代目ソアラのニュースに接したときの感想だった。いや、正直に言おう。迷走極まれり、と感じたような気がする。それまでのソアラとはまったく違う成り立ちのクルマで、戸惑ってしまったのだ。高級パーソナルカーということではソアラの伝統が受け継がれているとはいえ、2ドアクーペとオープンカーはまったく別物だ。
“デートカー”や“ハイソカー”として一世を風靡(ふうび)したクルマであり、屋根が開くようになったのはある意味では正常進化なのかもしれない。初代と2代目は直線的なフォルムだったが、曲面を多用したふくよかな体形の3代目モデルを受け継いでいるともいえる。もやもやしながら実物に接したとき、しかし不安や懸念はすべて吹っ飛んだ。カッコいいではないか!
メタルトップを備えているから、デザインには厳しい制約が生じる。ルーフを畳んでトランクルームに収納するというミッションをこなしながら、エレガントなスタイルをつくり出さなければならない。4代目ソアラはオープン時に開放感のある伸びやかなイメージを浮かび上がらせ、その一方でルーフを上げてクーペスタイルになると小さなキャビンが引き締まったスポーティーが立ち現れる。
屈託のないアメリカンテイスト
当時は“クーペカブリオレ”と呼ばれるジャンルが活況を呈していたが、不自然さを隠せないモデルも見られた。ソアラの巧みなデザインを手がけたのは、初代「ヴィッツ」を担当したギリシャ人デザイナーのソティリス・コヴォス。どちらも官能的な曲面を使ってグラマラスな艶(あで)やかさを生み出している。
スタイルに振り切っているから、当然ながら実用性には乏しい。ルーフを格納すると、トランクは後部の狭いスペースしか使えなくなる。でも、心配は要らない。どうせリアシートに大人が乗るのは無理なので、荷物置き場として使えば問題は解決する。こういうクルマで物を運ぼうと考えるのが間違っているのだ。
インテリアは本革とウッドがぜいたくに使われていて、いかにもゴージャス。突き抜けた明るさがあり、屈託のないアメリカンテイストだ。オープンカーは内装も人々の目にさらすことになるから、見栄えが大切である。乗る人も、見られることを前提として着るものを選ぶ義務があるということを忘れてはならない。
むやみに飛ばすのはヤボ
残念ながら買うことはできなかったのだが、1年近くにわたってソアラと親密に過ごした時期がある。当時所属していたクルマ雑誌の編集部に、長期テスト車両として導入されていたのだ。担当者が決まっていたわけではなく誰でも乗れるようになっていて、いつも争奪戦だったことを覚えている。
ボディーカラーはシャンパンゴールドだった。派手すぎるなんて言ってはいけない。こういう浮世離れした色こそがソアラには似つかわしいのだ。気恥ずかしくなるぐらいがちょうどいいと考えるべきである。運転席に座ると、しっとりとした本革シートに包まれてなんとも言えない愉快な気分になった。クルマが上質だと、自分までランクが上がったような心持ちになるから不思議である。
エンジンは4.3リッターV8で、最高出力は280PS。アクセルを踏むと豪快に加速するが、むやみに飛ばすのはヤボである。街なかでは余裕たっぷりに流して走るのがいい。ギャラリーに見せつけるように、スカして運転するのが洒落(しゃれ)者の流儀だ。高速道路ではルーフを閉じて快適に巡航する。山道を走るのもいいが、やはりシャカリキにコーナーを攻めるのは禁物だ。景観を楽しみながら風を感じて走るのは至福の時間である。
レクサスの“華”を担当
ソアラは3代目から「レクサスSC」の名で北米に輸出されるようになった。SCとはSports Coupeのことである。レクサスは新しい高級車ブランドとして認知され、「LS」や「GS」といったセダンが走りの性能と高い品質で評価されていた。SCは、レクサスの“華”の部分を担当していたのだと思う。静粛性や高速性能、つくりの丁寧さが評判となっていたが、そこにエレガントでオシャレなSCが加わることによって、ブランドのプレミアム性を高めたのである。
2005年に日本でもレクサスが開業。ソアラは仕様を変更してSCとして販売されることになった。見た目は変わらないのに、開業当日に年内分の割り当てを売り切ってしまうディーラーが続出したというから、熱烈な支持者がいたのだろう。トヨタの歴史を眺めても、これほど胸を高鳴らせる粋なモデルはほかに見当たらない。
個人的な話で恐縮だが、3年ほど前に電動メタルトップのオープンカーを購入した。自分では気づいていなかったが、4代目ソアラへの憧れが持続していたから選んだのかもしれないと思う。キラキラとした華やかなクルマは、人生をときめかせる力を持っている。
(文=鈴木真人)
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- トヨタ・ソアラ 歴代モデルを解説
- 初代ソアラ 目の前に降臨したスーパーアイドル(清水草一)
- 2代目ソアラ 進化したアイデンティティー(河村康彦)
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