日本とドイツのモノ造り…安東弘樹連載コラム
皆さんはドイツのマイスター制度という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
簡単に言うと、さまざまな分野の「職人」を国が認定する制度です。
日本の場合、「職人技」等と何となく優れた技能を持った人、という意味合いや、その業種によっては、その業界で決まっている職位だったりしますが、ドイツでは、国があらゆる業種のマイスターを資格として定め、その地位や待遇などを保障しています。
もちろん、それは自動車業界にも存在し、数々の優れた技能を持ったマイスターが、それぞれのメーカーにいる訳です。
驚くべきは、そのマイスターを目指す時期が極めて早いことです。
ドイツの教育制度を少しご紹介しましょう。
まず日本の小学4年生にあたる年齢までは、日本と同じように基礎を学ぶため、基本的に全員が同じ教育を受けます。しかし10歳位から、進学する人、手工業と言われる伝統的な職人を目指す人、産業革命以降に発生した工業分野の職人を目指す人にコースが分かれていきます。
日本では、皆さんも経験されている、小中高、専門学校、大学、大学院というコースしかありません。
その中で、ある程度専門的な教育を受けることになりますが、「本格的な」専門知識を学ぶのは専門学校になってから、もしくは大学では理系で早くて大学から。いわゆる文系と言われる分野?では実質、会社等に入った後になります。
ドイツでは、早ければ10代が始まった頃から、それぞれの分野の専門知識や技能を学ぶことができるのです。
しかもその分野が自分に合わないと思えば、方向転換は自由にできますし、そこで「落ちぶれた」という認識をされることはありません。他のチャレンジを始めた、と自分も他者も感じるだけだそうです。
それは社会に出てからも同じで、セカンドチャンスが少ないと言われる日本との違いかもしれません。日本の場合、新卒で一斉に就職活動をして、たまたま、そこで成功した人は一生安泰で(最近はそうでもありませんが)、そこで失敗した人は、なかなか浮上できないという、ある種、特殊な社会構造になっていますが、彼の地では少し違うようです。
話が逸れましたが、やはり特技を自分のキャリアや社会貢献に繋げるには、早ければ早い方が良いのは明らかですし、それを国が保障してくれる、という安心感は専門知識を得る段階で大きいでしょう。
日本では将来の明確なビジョンが描けないまま、大学や大学院で専門知識を学び、研究する訳ですから、その差は歴然です。
そして、その差は会社に入ってからも続くようです。
これは日本を代表するスポーツカーを開発し、現在はフリーランスで活躍されている方から伺った話ですが、ドイツの各自動車メーカーには資格としてのマイスターが存在する他に、社内でのマイスターも育て、その継承も徹底的に行いますが、その資質を判断するのも早く、本当のマイスターのみを生み出し、待遇も分かりやすく変動するということです。
それはテストドライバーにしても設計、製造分野でも同じで、恐ろしく新陳代謝が激しいとのこと。
常に大きく企業内が動いており、日本企業とは比べ物にならないと仰っていました。
私も27年間、企業で働いていたので分かりますが、人の評価に企業は1番悩んでおり、終身雇用が基本であるが故に、適材適所の人事配置は日本企業の永遠の課題であるように思われます。
それぞれの分野でマイスターを雇い、育てる、というよりは、たった一回の面接や試験で、乱暴に言えば「雰囲気やイメージで」人を雇用し、基本、一生、働いて貰う訳ですから構造的に限界があるのは仕方がないのかもしれません。
もちろん、終身雇用が悪いという訳ではありませんが…。
それより、ある技術や知識が欲しいときに、欲しい技能を身に着けた人を雇用する方が健康的であるのは明らかです。
たまたまバブル期に就職活動していたか、氷河期だったかで、人材が大きく変わるような制度は、即刻変えた方が良いと個人的には思います。
今回は話が逸れてばかりですが(笑)、その違いがクルマ造りにも反映されているのではないか、というのが、これも私の意見です。
それぞれのマイスターが自分の威信と雇用、社内での待遇も掛けてクルマを造るのと、社員という枠の中でクルマを造るのとでは、内容が変わってくるのだと思います。
日本のクルマももちろん優秀ですが、それはあくまでこれまでの会社の枠組みの中での品質や性能の中で、ということになり、その職人の作品というものではないような気がするのです。
残念ながら、品質は認められても未だに「コストパフォーマンスの優秀さ」の粋をでる評価を受けるのは日本メーカー全体の車種でも数種だけであり、何と言っても、メーカー全体のクルマの価格を上げることが可能になるほどのブランド力を身に付けるには至っていません。
前述のスポーツカー開発主査の方は、元日本メーカーの社員です。
社内では、かなり異端扱いされていて所謂、出世「ライン」には乗っていなかったそうですが(笑)、その方が開発したクルマが、そのメーカーに存在していなかったら、現在のそのメーカーのブランド力は現在より相当下がっていたでしょう。ドイツメーカーであったら社長になっていてもおかしくありません。
今、まさに自動車の変革期であり、これまでの常識ではクルマを造れなくなるのは間違いありません。
そうなったときに、益々これまでと違った専門知識や経験が必要になってきますので、これからの雇用や教育システムが問われるようになってくるでしょう。
現在、クルマを含むモノ造りに大きく寄与しているドイツのマイスター制度も、ITの波によって今、変革を迫られていると聞きます。
自分も企業を離れて物事を客観的に見てみて、やはり社員時代は「枠」の中で物事を考えていたことを痛感しています。
もちろん、企業に居ながらにして視野が広い方や変革的な考え方ができる方も少なくないのですが、その才能を商品に具現化するときに、現在の企業の構造や思想ではさまざまな弊害があるのも確かです。
これから、クルマメーカーだけではなく日本企業に求められるのは、これまでの「枠」を超えた思想や行動力を持った社員を雇い、育てることではないでしょうか?
品行方正な社員としての存在に対してではなく、その卓越した技術に対価を払えるようになったときに、これまで想像もしなかった魅力的な商品が誕生するのだと思います。
先日、ドイツメーカーのクルマ造りについて伺う機会に何度か恵まれ、強く感じたことをしたためてみました。
日本メーカーの中には、私に言われずとも、さまざまなことを理解している方が多くいらっしゃいます。
ただ、多くの方が日本の大企業にまだまだ蔓延する機動性の悪さに悩んでおられるようです。
企業の体質に関わらず、ドイツのように国が、その技術を認定、待遇も含めて保障する制度、私はとても良いと思うのですが、皆さんはいかがでしょうか?
安東 弘樹
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