原点回帰…安東弘樹連載コラム
以前のコラムで2月の青森県に雪が全く無かったことで気候変動を肌で感じ、より燃費の良いクルマに買い替えた話をさせていただきましたが、そのクルマが先日、納車されました。
今回もローンを組まざるを得なかったので、私のクルマローン人生は、またしても更新されました。
まだ数日しか経っていないので、走行距離も200kmほどなのですが、さまざまなことを感じましたので、その報告をさせていただきます。
そのクルマは、小さなスポーツカーで2人乗り。エンジンが車体の中央に位置する「ミッドシップ」と言われるレイアウトで、排気量は1800cc。以前の所有車は3800ccでしたから、排気量は半分以下ということになります。
そして何よりクルマの重量が900Kgと最近のクルマの中では極めて軽いのが特徴です。
軽いということは余計なものが付いていないということで、装備と言えるのはエアコンとパワーウィンドーくらいでしょうか。オーディオは最近、すっかり目にすることが減った
AM、FMラジオ付随のCDプレイヤーが、ちょこんとエアコンの上に張り付いています。
もちろん、3ペダルのMTで、自動ブレーキや車線維持、前車追随クルーズコントロールなどの安全装備も付いていませんし、オプションの設定もありません。あ、ステアリングにはパワーアシストが付いておりませんので(いわゆるオモステ)、停まっている時に方向転換しようとしてもステアリング操作をするのは、ほとんど不可能でした(笑)。
その代わり、とにかく軽快に自分の操作どおりにクルマが動いてくれますので、運転しているときは「楽しい」の一言です。
運転しながら何度も「ヤベー、楽しすぎる」と呟いている自分に気付きました。その感覚は、人生初の自分のクルマを購入して初めて運転したときとかなり似ていて、久しく感じていなかった快感でした。
初めて買った、その中古のクルマもほとんど何も付いていないクルマでしたが、純粋に運転することが楽しく、音楽すらほとんど聴くことは無かったと記憶しています。
その後、スポーツカーでもさまざまな快適装備が付いているのが当たり前になり、私も気付けば、ナビはもちろん、Bluetoothオーディオ、電動シート、シートヒーター、シートベンチレーション、USBポートの他、さまざまな運転支援電子デバイスも欲しくなり、MTだけは譲れないにしても、我ながら、いつのまに、そんなに欲張りになったのかと驚いてしまいます。
そんな自分に気付かせてくれたのが、雑誌の取材で出会った、今回購入したクルマでした。まだ「満タン法」で誤差修正した正確な燃費は計測していませんが、ここまでのトリップメーターと燃料計で簡単に計算しただけで、以前のクルマより遥かに燃費が良いということは推測できます。
モーターやアイドリングストップなど、特別な装置が付いている訳ではありませんが、燃費はもちろん「軽い」ということが、運転の楽しさを含めて車にとって、如何に恩恵を与えてくれるかを実感しました。
そしてクラッチペダルもある程度の重さがあり、バックをするときに便利なソナーの類も付いていないため、駐車するのも苦労します。しかし、初めて買ったクルマも同様でしたが、当時は特に不便だとも思っていなかったことを考えると、自分のドライバーとしての「退化」を自覚することにもなったのです。
新しいのに「純粋な」クルマのお陰で、また、以前の感覚を取り戻せるような気がしています。「クルマは便利な道具」という感覚で、普段使っている方が今やほとんどだと思いますし、それを否定は全くしません。
ただ私の場合、「趣味」としてクルマを捉えているばかりか自分で「マニア」を標榜しています。にもかかわらず、いつのまにか便利で快適な装備を追い求めていた自分を改めて見直す良い機会に恵まれ、実際に原点に戻ったようなクルマを操ることで、自分の純粋な運転欲を呼び覚ますことができました。
そこで皆さんにも提案です。かつてクルマ、いや運転好きだった方、一度、MT車など、以前、胸を熱くしたクルマに乗ってみませんか?
いきなり購入というわけにはいかないと思いますし、レンタカーでさえ、最近は便利で快適なクルマばかりがラインアップされています。
ですから、マニアックなクルマをラインアップしているブランドのショールームに行って、取りあえず「試乗」してみることをお勧めします。そのようなクルマのディーラーさんは、少しでも自分のブランドを普及させたいと思っているので、フラッと立ち寄っても歓迎してくれる筈です。
少し敷居は高く感じるかもしれませんが、行ってみると意外に「普通に」接客してくれますので、まずはマニアックでシンプルなクルマに触れてみてください。私がそうであったように、稲妻に打たれたような衝撃を受けるかもしれませんよ。独身の方でしたら、思わず買い替えを考えるかもしれませんし、ご家族が居る方でしたら、将来の目標ができるかもしれません。
最近、私の周りでも、クルマに興味を持っている方はかなりの少数派です。それは、本来の「クルマを運転する」という快感を得る機会がほとんど無くなったからだと思っています。
クルマのことしか考えていない、私でさえ装備や装置にときめくようになっていたこと
を鑑みると、それも無理はありませんが、多くの人に根源的な「クルマを操る」という楽しみを思い出していただきたいと切に願います。
その楽しさは、電気自動車になろうとも、一部自動運転になろうとも「人間の本能」として残るものだと私は信じています。将来は運転を楽しみながらも「リスク」だけは避けてくれるクルマが登場すると思います。
そうなったら、初心者から上級者まで、その楽しさを享受できるようになると思いますが、それまでは、昔取った杵柄を発揮できる方、一緒に原始的な楽しさを味わい直しておきませんか!
もちろん、十分、安全に配慮しながらですが、それが「大人の嗜み」というものです。
しばらくは、この新しい相棒に鍛えなおして貰おうかと思っています。いやー、運転って本当に楽しいですね!
安東 弘樹
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