久しぶりにスーパーカーに乗りました!…安東弘樹連載コラム
ただものでないマクラーレンGTと720Sスパイダーとご対面
ここ10年から20年で、内燃機関のクルマを少なくともヨーロッパでは販売出来なくなる様です。そんな事も有ってか、欧米メーカーから百花繚乱(ひゃっかりょうらん)とも言えるスーパーカー、スポーツカーが、今は最後の打上げ花火とばかりにリリースされています。
良くも悪くも日本では来年でHONDAのNSXの生産中止が発表され、NISSANのGTRも、少なくとも、今の形でのモデルチェンジは無さそうです。今はNISSANの新しい「Z」に期待、といった所でしょうか?スーパーカーとまではいきませんが、、、
クルマ好きとしては内燃機関のスポーツカー、スーパーカーが消えていくのは寂しい面もありますが、時代の流れですので、今後は他の形での魅力的なスーパーカーの出現を待ちましょう。あ、私に購入する予定が有る訳ではありません(笑)
そんな折、マクラーレン(正式にはマクラーレン・オートモーティブ)の広報の方から、2台のクルマに乗って欲しい、とのメッセージが私のスマートフォンに複数回、入っておりました。
折り返して、お話を伺うと、現在販売されている、マクラーレンGTと720Sスパイダーを終日、貸せるので、自由に2台に乗って欲しい、との有難い御提案です。
しかも記事にするしないは特に指定は無いので、とにかく存分に味わって欲しい、との事でした。
これは購入に向けての「試乗」の色合いが有るのではないかと思い、恐る恐る(笑)「あのー私、御社のクルマを購入できるほどの経済的余裕はありませんが、それでも問題はないですか?」と尋ねてみた所、笑いながら、「勿論、今ご購入下さいという意味ではありませんので」との回答でしたので、安心して、お借りする事にしました。
ちなみにそれぞれのクルマの価格は
マクラーレンGTは2695万円~
マクラーレン720Sスパイダーは3859万円~
となっており、もちろん、私がドライブしたクルマには、それぞれオプション装備が付加されており、インポーター広報の方曰く、実際に購入する際の価格は、この基本価格に、大体500万円から1000万円プラスのイメージで「問題ありません」との事でした。
この価格帯のクルマを購入する方にとっては恐らく1000万円は「誤差」の範囲かもしれませんね…。
ここでマクラーレンというメーカーの基本を押さえておきましょう。
F1を観た事がある方にとって「マクラーレン」という名前に馴染みはあると思いますが、現在も参戦しているチームで、そのファクトリーがロードカーを造ったという通常と反対の成り立ちのメーカーです。設立は1989年でスーパーカーメーカーの中では比較的新しいメーカーと言えるでしょう。
現在は4つのシリーズのスポーツカー、スーパーカーを販売しており、そのシリーズ毎に車種をラインアップしています。価格的、性能的に、上から「アルティメット・シリーズ」「スーパーシリーズ」「スポーツ・シリーズ」そして新しく加わった「グランド・ツアラー」の4つとなります。
最高出力は1番低いモデルでスポーツシリーズの540Cが、540PS。最高はアルティメットシリーズのスピードテールが1070PSで、これはモーターも付いた「ハイブリッド車」。しかしアルティメットシリーズは全て限定販売になっており、この記事を読んで、購入したい、と思った方は残念ながら、新車購入は既に難しいかもしれません。
外観の特徴として挙げられるのが、全車ディヘドラル・ドアと呼ばれる上に向かって開くドアでしょう。これは「スポーツカー」とメーカーが呼ぶスポーツシリーズでも採用されています。
かくして、私は高級車、スーパーカーが、「普通に」駐車してある、というよりスーパーカーではないクルマを探すのに苦労する六本木ヒルズの駐車場で、スーパーシリーズの720SスパイダーとグランドツアラーであるマクラーレンGTと対面しました。
この駐車場は、高級車メーカーの広報車の置き場として使われる事が多い他、六本木ヒルズのレジデンス用の駐車場も有るので、フロア全体が、ちょっとした超高級車ショールームの様になっている事を付け加えておきましょう。ただ者ではないただずまいの2台のマクラーレンがキレイに並んでいる様は、圧巻でした。
GTは美しい紺色の外装に白に近いベージュの内装で、エレガンスの塊。
720Sスパイダーの方は黄金色と呼ぶのがふさわしい輝く外装にシックな黒の内装。
私は個人的にエレガントなGTの内外装に惹かれました。
マクラーレンGT 疲労感なしで1000kmドライブも可能?!
私は過去に、サーキットでスポーツシリーズの何台かを運転した事が有ったのですが、数年前の事でしたので、改めて、操作の基本や細かいギミックの説明を受け、まず、ドライバーに優しそうなGTのステアリングを握る事にしました。
エンジンは両車とも4LのV8ツインターボ。色々なサプライヤーとの共同開発とはいえ、基本的にはマクラーレン自社製のパワーユニットに火を入れる為に、エンジンスタートボタンを押します。すると地下駐車場に、その咆哮が響き渡りました。と言っても、広報の方と通常の声量でも会話できる程度ですので、現代のスーパーカーのアイドリングは、むやみに人を威圧しません。
ボタン一つでロードクリアランスを高く出来るとはいえ、若干、路面の段差に気を遣いながら少しづつ、身体に、このクルマをなじませていきます。
六本木ヒルズの駐車場のロータリーを抜けて、外に出た瞬間、強烈な日差しに、思わず目をしかめました。
やはり公道に出た瞬間に何人かの視線を受けましたが、最近、日本では、あまりクルマに関心が無いのか30年前の様に指を指す様な人は良くも悪くも殆どいません。もっとも、土地柄、皆さん、こういうクルマには慣れているのもあるかもしれませんが。
渋滞気味の国道246号線から首都高速3号線に乗り、東名高速に向かいます。
首都高では、特に気難しさも無く、一般的なクルマを運転するのとあまり変わらない感覚でした。勿論、車高は低いのですが、車内に響くエンジンの音も、隣に人が乗っていても会話には困らない程度でオーディオも楽しめます。
縦長のモニターも見やすく、各種操作も慣れれば問題は全くありません。正直、拍子抜けする程でした。
しかし首都高から東名高速に入り、ETCゲートで時速20km/hまで減速して、そこから620PS、630Nm・0-100km/h加速3.2秒の性能を確認すべく、一瞬だけガスペダルを床まで踏んでみました!先程までの「拍子抜け」は何処へやら、踏めたのは正しく2秒程、あっという間に法定速度到達。思わず笑ってしまいましたが、驚くのは、その加速感が、暴力的なものではなく、スムーズだった事です。メーターが無ければ、そのまま200km/hまで、何事も無く加速してしまうでしょう。流石「GT」の名を冠した味付けでした。
足もさほど硬くなく、何処まででも走って行けそうです。1000キロを、殆ど休憩なく運転し続けられるのが私の特徴ですが、このクルマであれば1000キロを疲労なく走り抜ける事が出来るでしょう。
首都高のタイトコーナーも微動だにせずレールの上を走っている様に曲がってくれますし、かと言って、不快な振動もありません。それは走りに振ったスポーツモードにしても変わりません。洗練、の一言です。
それにしても、ウットリする程、美しい内装です。私は、これまでスポーツカーと言えばMTのライトウェイトモデルにしか興味がありませんでしたが、このクルマに乗って、日本中、いや世界中を旅したら何と楽しいだろうと妄想していたら、あっという間に時間が過ぎてしまいました。100キロ、2時間ちょっとの時間をGTで堪能し、六本木ヒルズに戻り、今度は720Sスパイダーに乗り替えます。
何と贅沢な乗り替えでしょう(笑)。
早く走らせてくれと語りかけてくる720Sスパイダー
720Sスパイダーの方が外観からして少し攻撃的な佇まいになり、シートの形状もスポーツよりのタイトなものに感じました。シートの寸法を確認できなかったのですが、気分だけの差ではなかったと思います。
何故か車内での設置場所は違いますがGTと同じく赤く光るエンジンスタートボタンを押し、始動。GTより少し大きめの咆哮(ほうこう)でエンジンが目覚めました。しかし、耳をふさぐような下品な音ではありません。
こちらは、首都高に乗って、横浜方面に向かいます。
が、これが失敗でした、横羽線で、まさかの事故渋滞…。しかし、ここで、このスーパーカーの信頼性を確かめる事が出来ました。何と30分間に渉り、殆ど動かない時間も含め、ノロノロ運転が続く、という状況の中、エアコンも十分に効き、何も不具合は起こりません。当たり前と言えば当たり前ですが、何しろ720PS 770Nm 0-100km/h 加速2.9秒のクルマです。しかも興味深かったのがアイドリング時にフルディスプレイのメーターの針が昔のスポーツカーのタコメーターの様に小刻みに揺れていたのです。演出なのか、より細かい回転の変化も正確に表示する為なのかは分かりませんが、スポーツカー、スーパーカーとしては、素晴らしい要素だと感じました。
事故渋滞を抜けてからは五輪期間の1000円上乗せ料金の影響で空いていた首都高速を中心に横浜から湾岸線も走って高速走行時(このクルマにとって日本の法定速度は高速とは言えませんが)のスタビリティーを確認し、料金所では、やはり極短時間ではありますが、フル加速も試してみました。が、公道上ではGTの620PSと、こちらの720PSの差を明確に感じる事は不可能でした(笑)。どちらも、スムーズに速い、としか言いようがありません。
このクルマは、やはりサーキットで走ってみたいという妄想が頭をよぎります。
GTより疲れる、という事は無いのですが、耳に入るエグゾーストノートも小刻みに振れるタコメーターも、「速く走らせてくれ」とドライバーに語り掛けてきました。
かくして3時間弱、距離にして100キロ弱のドライブを終えて、720PSのジェントルなモンスターを六本木ヒルズの駐車場に戻します。
意外に普通に乗れるスーパーカー
実は途中PAに停めて、それぞれの写真を撮ったのですが、その際に、やはり路面の段差には気を遣いました。それから斜め上に開くディヘドラル・ドアは隣のクルマに当たらないかを気にしましたが大きなドアが横に開くより、合理的で意外と不便ではなかった事もお伝えしておきます。
しかし、車止めにタイヤが当たると、その瞬間、クルマに傷が付く事になりますので、いくら車高を上げるギミックが有ったとしても、駐車の際には、そこだけは注意が必要です。
更にバー付きのコインパークの精算はかなりのアクロバティックな姿勢を強要されますので、その覚悟は必要でしょう(笑)。逆に言えば、それ以外の場面では「普通に」乗れるというのが私の感想です。
もちろん、様々な視線に晒されるのは否定出来ません。最近は、どちらかと言えば、好意的ではない視線も多いでしょう。
ただ、あるジャーナリストの、ある言葉が印象に残っています。
「このご時世、スーパーカーに乗るなんて、環境を考えない愚行(ぐこう)だと言う人がいますが、こういうクルマに乗っている人は普段、“通勤”で使っている人は少なく、週末に乗るだけです。地方在住で毎日、クルマで通勤している人と生涯を通しての環境負荷を比べたら、必ずしもスーパーカーだけが悪者とは言えないのではないでしょうか」という内容でした。
スーパーカーで毎日、通勤している人が皆無だとは思いませんが、見方によって様々な考え方が出来るのだなと妙に納得したものです。
ちなみに今回の試乗での2台の燃費ですが、あくまでクルマのトリップコンピューターの数字で、どの程度正確かは分かりませんが、GTが8.8km/l 720Sスパイダーは首都高の渋滞も有ったので比較にはなりませんが7.9km/lで高速道路中心とは言え、一般道は、どちらもひどい渋滞だった事を考えると意外に好燃費、という印象を受けました。
マクラーレンを終日に渡って2台乗り継いだ、この日、2台のクルマの事を少し理解出来ただけではなく、良い意味での非日常を味わえた事は確かです。マクラーレン・オートモーティブの広報の皆様に感謝を申し上げます。
スポーツカーだけをつくってる自動車メーカー
それにしてもイギリスという国には今も、スポーツカーだけを造っているメーカーが数多く有ります。
今回、お借りしたマクラーレンはもとより、私が所有しているロータスもそうですが、走る事そのものを楽しむクルマを造るメーカーが存在し続けており、現在も様々な環境へのアプローチを考えながら日々、進んでいます。
恐らく内燃機関のクルマが無くなってもスポーツカー、スーパーカーだけを造るメーカーはイギリスから無くなる事はないでしょう。
翻って、クルマを造り始めて、100年前後になる日本には持続的に製造、販売をしているスーパーカー、スポーツカー専門メーカーは皆無です。
スポーツカーだけを造るのが偉い訳ではありませんが、一人のクルママニアとして、少し寂しいのは本音です。
今後、もしかしたらEVスポーツカーになるかもしれませんが、そんなメーカーが、ここ日本に誕生するのを密かに楽しみにしています。
安東 弘樹
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