デリカミニに乗って思う、軽自動車の今後…安東弘樹連載コラム
三菱 デリカミニの試乗会に参加して来ました。2時間程じっくり乗れたので、様々な事を考えながらの試乗になりました。
デリカミニのコンセプトは勿論、「デリカD5を意識したオフロード性能にもこだわった軽自動車」。
本格的なオフロード走行が可能なD5には敵いませんが、積雪路やダートを意識した足回りや4駆の制御、ヒルディセントコントロールといった、基本的オフロード性能を担保しつつ、日常の使い勝手も犠牲にせず、デザインにもこだわった軽自動車です。
ただ、ベースは勿論、かつてのオフロード軽自動車パジェロミニ(懐かしい)、ではなくekクロススペース。
試乗したターボ付きの4駆モデルでも、CVTの典型的なラバーバンドフィールは健在?で、強めに加速したときに、CVT特有のエンジンの回転は上がるが、同時に加速を感じられないことがありました。加速を自在に操れないのはどうしても、もどかしいのです。
試乗コースは空いている一般道と10kmほどの高速道路区間、一瞬のダートでした。出来るだけ無駄なアクセルを踏まず、当然ですが制限速度も守り、コースティング出来るような下りの区間は、アクセルOFFの走行をできるだけ行いました。燃費は、写真の通り12.5km/L。
高速道路では気付いたら80km/hに達している、という程の力強さを示してくれましたが、そこから制限速度の100km/hまで速度を上げると、燃費はどんどん悪くなっていきました。
高速道路を降りてから燃費が良くなっていくのを期待しましたが、あまり良くならず最終的な燃費が前述した通りです。
私のMTのジムニーもほぼ同じ燃費ですが、どちらも4輪駆動とは言え、ジムニーは普段は2WDにしているので、この数字がターボ付きの軽自動車の平均燃費とは言わないまでも、軽ターボ車全体の平均は15km/L程度といったところでしょうか。
デリカミニは、デザインもコンセプトも良く、受注も好調という事です。自動車業界全体の事を考えたら良いニュースですが、この試乗会を通して日本の軽自動車全体について考えてしまいました。
日本の軽自動車全体について思うこと
それまでに無かった背の高いデザインで、最近の軽自動車人気のベースになった初代スズキ ワゴンRが発売されたのが1993年。ターボ車が登場したのは1995年。もう30年前です。
当時は3速AT(後に4速AT)でしたが、トランスミッションは後にCVTに変わったもののそれ以来、30年間乗って、「これは凄い!」という革新を少なくとも、軽自動車のエンジンから感じる事が無いのは少し残念です。
特に走りに関しては、スペックも1987年に64psの自主規制が始まって以来変わらず、燃費もカタログ値はともかく、実燃費は少なくともCVTが主流になって以降、20年間、劇的に改善される事はありませんでした。
もちろん、安全性や運転支援は進化しているのですが、3気筒エンジンのNAとターボにCVTの組み合わせという構成が、メーカーを問わず何十年も変わらない事に違和感を覚えるのは私だけでしょうか。
もう少し、パワートレーンでメーカー毎の特徴が出ても良いのではないかと思いますが、かつて、各社の上級車種で流行った4気筒エンジンも無くなり、今は本当にメーカー問わず、同じ様なラインナップになってしまいました。
コストが掛けられない、という条件はあるものの、日産サクラや三菱ekクロスevの様なBEVにスイッチしていくまで、このままずっと同じ様な車を作り続けていくのか、疑問に感じたのです。運転フィールや実燃費は、ずっと変わらないままですが、様々な安全性能や運転支援の進化についていく為に、オプション込みの価格はついに、300万円超。
デリカミニの場合、試乗車の本体価格は223万円程度ですが、ナビなどの機能オプションだけでなく、更にオフロード車のイメージを具現化する、パーツやデカール類のデコレーションを含めると、最高320万円になるのです。こうなると、一昔前の高級車レベルです。
前述した初代ワゴンRの価格は約78万円~135万円。オプション込みでも100万円~160万円程度でしたので、同じスズキの軽自動車で比較しても今の軽自動車は、倍の価格になっています。ちなみに参考までに1993年当時、トヨタ クラウンの新車価格が181万円~。売れ筋のグレードでも約250~400万円 でした。
そして問題は、日本人の平均賃金が初代ワゴンR発売の年の1993年から殆ど上がっていない、という事です。
価格という意味で少し切なかったのは、あるメーカーの開発担当の方と話していた時、「自分のメーカーの車の中で買える車種が、かなり限られるんですよね(笑)」と苦笑いされていたのを聞いた時です。今の日本の状況を如実に表している言葉でした。
様々な世情の影響もある中、コストが掛けられない上で、メーカーの努力や工夫は理解しているのですが、この価格でユーザーが納得する様なクルマを世に出す、開発意識のブレークスルーを期待するのは酷、というものでしょうか。
各社、マイルドハイブリッド機構を付帯するなど、涙ぐましい改良をしていますが、排気量が根本的な革新を邪魔しているとしたら、制限を少し変える等の、国のアシストも必要かもしれません。
何か革新的な事をしたいけれど、コストは掛けられない。しかし運転支援などは、しっかりと装備しなければならない。その上、利益は上げなければならない。これは軽自動車に限った話ではないと思いますが、特に軽自動車の開発・製造に関しては、メーカーの苦悩が垣間見えます。
かねて私は軽自動車こそ、BEVに向いていると主張してきましたが、各社、同じ様な3気筒のNAかターボのまま、軽自動車の内燃機関の歴史が終ってしまうのは寂しいというものです。
フィアットの様な2気筒の過給エンジンなのか、コンパクトで低コストのハイブリッド機構を付帯させるのか、トランスミッションの革新もまだあるのか。(ルノーのハイブリッド用ドグクラッチ式ATには目から鱗が落ちて、感心しました。高速道路走行を含めた実燃費はトヨタのアクアに迫ります)。
コストという大きな壁がある軽自動車ですが、オプション込みで300万円超えが現実となった今、ナビゲーション等はスマホのアプリで代用が出来る時代ですので、車両価格を少し上げて、大きな革新を断行するモデルと、スズキのアルトの様な徹底的にコスト管理をしたリーズナブルな価格のモデルと、両方あっても良いと私は思います。
横並びのまま、エンジンの歴史を終えるのか。もう一花、咲かせるのか。
個人的には、アッと驚くような軽自動車に会えるのを期待しています。
どう思う?デリ丸?
安東弘樹
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