レクサスの新しい価値を感じた「LEXUS SHOCASE 2023」…安東弘樹連載コラム

  • 左からレクサス新型LM(プロトタイプ)、レクサス新型LBX(プロトタイプ)、レクサス新型GX(プロトタイプ)

去る9月中旬、レクサスの新型車が一堂に会するショーケースに参加して来ました。海外のジャーナリストも招待し、富士スピードウェイホテル(以下FSH)を拠点に様々な車に実際に試乗する、というイベントです。

ホテルの広場には日本販売予定の、LBX、LMGXの3車種が展示されており、隣接するボールルームには、本革に替わる新しいシート素材やオーディオのサプライヤーのブースもあり、これからのレクサスの方向性を感じさせる内容になっていました。

朝8時にホテルに集合で17時30分まで昼食を挟むものの、基本的に休みなくコンテンツが続きます。

何人かのジャーナリストからは「これは1日で、こなす内容ではないよ…」と呟きが聞こえてきましたが、確かに、常に「満腹状態」と言えるほど、内容の濃いショーケースではありました。

ジャーナリストや媒体の方が数人毎いくつかのグループに分かれて、マイクロバスに乗りそれぞれの車の試乗会場に移動するという方法で、当該車に乗ったら撮影をしていく、という流れです。

まだナンバーが付いていない車が試乗対象ですので、運転出来るのはいずれもホテルや施設の敷地内のみ。更に、ドライブする時間が1台当たり、短かったのは残念でした。

  • レクサスインターナショナル プレジデントの渡辺剛氏

このショーケース、一日の流れは私のグループの場合、レクサスインターナショナル プレジデントの渡辺剛(たかし)さんの挨拶から始まり、まずサプライヤーのブースでのそれぞれ開発担当スタッフの方の取材へ。

繊維メーカーのブースでは、革に代わるシート表皮を作っているメーカーの方に、再生素材や植物由来の素材を使いながら、シートベンチレーション用の小さな穴(ディンプル)を開けても、耐久性を担保する方法などを聞きました。ちなみに、自分のクルマのシートも同様に再生素材を使い、ヒーターもベンチレーターも付いているので、ホテルに駐車していた自分のクルマ(某輸入SUV)まで来て頂き、素材の比較をして貰いました。

素材メーカーの方も興味津々で、シート表面を触ったり、撫でたりしながら、私に色々と質問をしてきます。再生素材の原料は?割合は?といった感じで私も分かる範囲でお答えした所、何と、「一社、心当たりがあります」と呟かれました。

「恐らく、我々の競合メーカー。しかも日本メーカーかもしれません」との事。

触っただけで分かってしまうのは流石です。
ただ、特に日本では本革人気がある上に、再生素材で革よりも高いオプション費用が掛かる為、同車の最新モデルでは、その再生素材のシートはオプションから外されてしまいましたので、今後は比較出来ないのが残念です。レクサスでは今後も、この素材を使ったシート表皮が採用されるそうです。触感はアルカンターラに近く、私は好感を持ちました。

その後、レクサス用ハイエンドオーディオメーカーのブースで、音を確認し、最初のセッションは終わりです。

次は、いよいよ試乗の時間となりました。マイクロバスで私のグループは富士スピードウェイ内のマルチパーパスドライビングコース、というショートサーキットを内包する広場に移動し、まず乗るのはレクサスのBEV(電気自動車)RZ。ステアバイワイヤーの非円形ステアリングモデルと通常の円形ステアリングモデル、両方をドライブします。

しかし、試乗コースは短く、最高速度は60km/hまで、という制約があり、正直クルマの素性を理解するには至りませんでしたが、それぞれのステアリングによる操舵感や操舵角の違いを体感する事は出来ました。開発担当の方も、一度バイワイヤーステアリングのクルマに慣れると、通常のステアリングのクルマを運転すると「こんなにステアリングって、ぐるぐる回してたっけ?」と思うそうです。好みは分かれるかと思いますが、皆さんも是非、一度お試し下さい。

1時間のセッションが終り、次はFSHに戻って、並べてある日本市場では初めてのレクサスのミニバンLM、コンパクトSUVのLBX、本格オフローダーGXの展示車の撮影。

その後、昼食を挟んで、待望の?レクサス初の(日本市場では)ミニバンLMの試乗へと移ります。

新型のLM、アジアは勿論、何といよいよヨーロッパへも導入するのですが、完全にショーファーカーとしての位置づけだそうです。ヨーロッパでは主に高級ホテルからの引き合いが多いとの事で、ゲストの空港、ホテル間の送迎に使うそうです。

LMは運転席と後席は完全に隔絶され、今回、試乗や撮影が出来た仕様は4人乗りの贅沢な造りのものでした。後席は正に二人だけの世界で、前席とは分厚いパーテーションで区切られ、会話の音も間に設置された小窓を電動で開けない限り聞こえません。もちろん、ドライバーに用事がある場合は後席から通話が出来る様にはなっていますが、こちらから合図をしない限り、小窓が閉じていれば、驚くほど運転席からは何も聞こえません。これなら秘密の商談?なども安心して移動しながら出来るでしょう。

LMは、運転試乗と後席のキャビンに乗って車内前方に設置された大きなモニターを観て、レクサス自慢のオーディオの音を聴きながらその快適性を味わうという2つのシチュエーションを体感する事が出来ました。LMのパワートレーンは、2.5L、4気筒NAエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドのみ。

クラウンなどにも搭載されているもので、過不足無く、重いLMを走らせます。

運転する楽しさも忘れずに開発した、という開発者の言葉通り、ショーファーカーの為、後輪は柔らかめのセッティングがされていましたが、決してふわふわして頼りないという事ではなく、思ったよりキビキビ走れたのは意外でした。

しかし、後席のキャビンに移動して、スタッフの方に運転してもらい、快適なシートに身を委ねたのは良いのですが、私は10分ほど、走ったところで人生初の「車酔い」に見舞われました。後席に乗ると足が柔らかすぎるのかと思ったのですが、すぐに原因が分かりました。

キャビンに乗っていると進行方向の光景は完全に見えません。私は普段、乗り物での移動は基本的に「自分が運転しているクルマ」が殆どです。ごく希にタクシーや他の方が運転するクルマに乗る場合も、運転している時と同じ感覚で前を見て、加減速時や曲がる時には、それに身体を備えさせる習慣が付いています。LMでは、その視覚情報が入ってこない為、身体を備えさせる前に加重が変わり、むしろ、ゆらゆらしてしまうのです。私にとって、それは恐怖に近く、早く降りたい、とさえ思ってしまいました(笑)。

私が、公共交通機関が好きではない理由の一つが正にそれで、しかも自分でコントロールしていない乗り物に乗っている事に対してのストレスを常に感じてしまうのです。

万が一、私がショーファー付きのクルマを購入する経済力を得たとしても、恐らく心身共に運転が出来なくなるまでは、常に自分で運転して移動する事になる、と確信しました。

LMの試乗を終えた、私以外のジャーナリストや媒体の方々が、「あー、このままLMの後席に乗って家に帰りたい」と口々に言っていましたが、私は「あー、早く自分のクルマを運転して家に帰りたい」と内心、思っていました(笑)。

これはLMが不快なクルマだったという事では無く、私、個人の問題ですので、参考にしないでください。停まっている時は、シート自体も快適ですしオーディオも素晴らしく、他にも様々なオモテナシで満載です。

このLM。個人的にもヨーロッパで、どのように受け入れられるか楽しみです。
ちなみに北米からの問い合わせは、あまり無かったとの事です。理由としては、彼の地では大型のSUVが、ショーファードリブンの役割を果たしているそうで、単に「このサイズのこの形のクルマに馴染みが無いからではないでしょうか」とレクサスの方の答えでした。何だか納得です…。

さて、まだまだショーケースは続きますが、ここで字数が尽きて来ました。

とにかく盛り沢山のコンテンツで、某ジャーナリストの方の先程の言葉に私も途中から深く共感していたのは言うまでもありません(笑)。そんな事もあり、続きは次回、お届けします!

  • レクサス新型LM(プロトタイプ)

安東弘樹

(写真:安東弘樹、トヨタ自動車)