レクサスの今の「本気」は十分に伝わってきました。…安東弘樹連載コラム

今回も前回からの続きでLEXUS SHOCASEの模様をお届けします。

LMに続いて試乗したのはコンパクトSUVのLBXです。
富士スピードウェイのショートサーキットを使って、2種類のLBXでコースを3周ずつ走る、というプログラムでした。乗ったのは欧州仕様、左ハンドルのLBX。

  • レクサス新型LBX プロトタイプ(欧州仕様)

    レクサス新型LBX プロトタイプ(欧州仕様)

一目見た時には現状、ラインアップされているUXと同じ様なサイズに見えたので、差別化はどうなるのか気になり、エンジニアの方に訊いたところ、サイズはLBXの方が30cmほど短いので、違うカテゴリーだという事です。(UXの全長は4495mmでLBXは4190mm)
ただ、どちらが「上級」という事ではない、との説明でした。

サイズ的にはレクサスのエントリーモデルになるLBX。トヨタのヤリス・クロスが元になるので、パワーユニットは1.5L直列3気筒エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッド。しかし、担当者が「相当やりました」という騒音対策は、ヤリス・クロスとは確かに違いが感じられました。

しかし普段、全長が殆ど変わらないサイズのBEV(電気自動車)に私が乗っているせいか、エンジン回転を上げると「静か」という風には感じられなかったのも確かです。しかし振動などは確実に抑えられていて、ステアリングフィールを含めて上質な乗り味は感じられました。またこれもBEVとの比較になってしまいますが、加速などの動力性能は痛快という所には至っておらず、当然ですが「ヤリス・クロス」と変わらない感覚です。

ショートサーキット3周で制限速度も設定されていたので、全てを感じ取るのは難しいですが、「ヤリス・クロスと比べると…」という感覚に、どうしてもなってしまい日本での価格にもよりますが、レクサスに関しては、「トヨタと比べて」という呪縛から離れて吟味してみたいと常日頃から思っています。

ちなみに試乗車はシート調整も手動でしたが日本で販売するグレードは電動シートが主流になるそうで、レクサスに期待しているユーザーを失望させない自信はある、との開発担当の方の説明でした。

そうそう、ハイブリッドシステムのエネルギーフローの表示がこれまでとは違い、ようやくフルグラフィックになっていた事もお伝えしておきます。室内はもちろん、それなりのサイズで伸び伸びは出来ませんが、後席には主にお子さんが乗るという使い方でしたら、困る事はないでしょう。ラゲッジルームもそれなりです。

自宅の駐車場事情によりコンパクトなクルマしか所有できないが、上質な車に乗りたいという方にはお勧めかもしれません。デザインは完全に好みによりますが、個人的にはもう少しシャープな方が好きです。UXのデザインが私は嫌いではないので、その流れを期待すると、少し可愛すぎると感じるかもしれません。

続いて、同じショートサーキットで乗ったのは日本への導入予定は無い、北米向けの3列シートを持ったSUV TXです。

エクステリアは新しい意匠のシンプルなスピンドルグリルが前面に鎮座しており、下品にならない程度に押し出しがあるので、私としては好印象。上品、とまでは言えませんが、アメリカでも好まれそうなデザインといえるでしょう。正直、内装の質感も「上質」とは言えませんが、家族でガンガン走る、というアメリカ的な使い方においては不満に思うユーザーは少ないと言えます。

試乗車は、2.4Lのターボエンジン+モーターのハイブリッド。スペックなどはアナウンスされていませんでしたが、ショートサーキットを走ったところ、必要十分の動力性能、といった感覚でした。いわゆる感動的、という類のものではありませんが、これも家族で移動する、という使い方を考えたら良い塩梅でしょう。個人的には北米用の3.5L V6エンジンのプラグインハイブリッドモデルが気になりました。

これは日本に導入予定が無いので、これ位にしておきましょう。

「水素エンジン」の本格オフロードバギーに興奮

最後は、オフロードコースでの本格オフローダーGXの試乗なのですが、その前に「番外編」として、細いガチの悪路コースを自分で運転して、更にインストラクター運転によるデモ走行を助手席で体験する、という「アトラクション」が用意されていました。

  • レクサスROV(コンセプトカー)

    レクサスROV(コンセプトカー)

このような本格オフロードバギー、更に水素エンジンのクルマを運転するのも初めてでしたのでこれには興奮しました。ちなみに「内燃機関」なのでガソリンエンジンと同じような「排気音」が出ます。それによりテンションも上がるというものです!

小径のステアリングホイールにシーケンシャルのトランスミッション!運転して楽しくない訳はありません!

最初に、隣に座ったインストラクターの指示に従って自分の運転でコースを走りました。アクセルを踏めば、水素エンジンは気持ちの良い音と共に力強くバギーを走らせ、人が歩くのも難しい悪路をものともせずにクリアしていきます。

興奮したままドライバーチェンジ。インストラクターは私の3倍以上のスピードで、悪路をクリアしていきます。上下左右に激しく揺れる助手席で、私は終始、笑っていました!しかし、その運転スキルを盗もうとペダルワークとステアリングワークからは目を離しません。

惚れ惚れする様なドライビングを堪能し、バギーから降りたらいよいよ「GX」の試乗です。

  • レクサス新型GX(プロトタイプ)

    レクサス新型GX(プロトタイプ)

以前、LXの試乗会の時にも走った、特設のオフロードコースが会場でした。
GXはLXと同じGA-Fプラットフォームを使用したオフロードモデルですが、LXより「硬派」にオフロードに寄った車で、大きな違いは、LXがエアサスなのに対してGXはコイルサスペンション。しかし悪路走破性能は全く負けていない、との説明でした。確かにメカニズムはシンプルになりますし重量も軽減できますので、敢えて、という判断は間違っていないと私も思います。

  • レクサス新型GX(プロトタイプ)運転席

    レクサス新型GX(プロトタイプ)運転席

新型ランドクルーザー、プラドがベースという事で、試乗車のパワーユニットは3.5Lのガソリン・ツインターボ。他に4気筒2.4Lターボハイブリッドの設定もありますが、個人的には、どうしてもオフロードにはディーゼルエンジンの特性が合っていると考えてしまいます。

しかし、レクサスはオフロード車にもディーゼルエンジンを組み合わせる事はない様です。燃費だけとっても、ディーゼルモデルが選べたら自分も乗ってみたいと思うのですが、こればかりは仕方がありません。説明はありませんでしたが、用意された試乗車は、「オーバートレイル」と呼ばれるオフロード性能を高めた仕様でした。まずインストラクター「匠」が運転して、それを助手席から見せて頂きます。各電子デバイスを説明しつつ、走行して下さいました。

  • レクサス新型GX(プロトタイプ)センターコンソール

    レクサス新型GX(プロトタイプ)センターコンソール

その説明を、そのまま、ここに書いてもアルファベットとカタカナの羅列になってしまいますので簡潔に申し上げるとマルチテレインセレクトという機構が、自動で道に応じてトラクションなどを最適化してくれますので、それをマルチテレインモニターで、リアルタイムのタイヤの向きを含めた足元の透過映像を見ながら運転できるのです。

更に大きな岩が高く積まれた「ロックセクション」では、手前で一度止まり「クロールコントロール」を時速1km/hにセット。(1~5km/hでセット可能)するとクルマがステアリング操作以外を全てやってくれます。空しか見えなくなる高さ、角度の岩の山を登り、同じ速度で下ってくれます。

続いて運転席に自分が座り同じコースを同じ方法で走ると「匠」と同じ様にハードなオフロードコースを走破出来てしまいました。もちろん、「GX」のおかげである事は言うまでもありません。

レクサスのさらなる本気が見たい!

まさに、お腹いっぱい!といったショーケースの一日が、こうして終わりました。一日でレクサスの今の「本気」は十分に伝わってきました。

しかし、長い一日を終えた感想を忖度無しに正直に申し上げますと、クルマの根幹であるパワーユニットは基本的TOYOTAと共用で、種類そのものも特にドイツのメーカーと比べると少ないままという印象でした。今回も新型車種はガソリンエンジンとガソリン・ハイブリッドのみ。

レクサスとしてBEVは現状、TOYOTAと共通のパワーユニットのRZのみ。今回のショーケースでのラインアップで言えば、ハイブリッドユニットはヤリス・クロスとクラウン。エンジンはランドクルーザーとの共用です。

例えばBMWはBEV一つとっても、日本市場だけで5車種あり、モーター出力やバッテリー容量も車種毎に違います。

PHEVは12車種、パワーユニット毎にスペックも違います。中でもXMというSUVはバッテリーの総電力量が約30kwhと小さいBEV並みで、総合出力は653馬力!もありながら、カタログ上は90kmほど電気だけで走ります。

ディーゼルエンジンも数種類。4気筒も6気筒も選べ、基本的にマイルドハイブリッド仕様。ガソリンエンジンもマイルドハイブリッドが主流ですが、中にはMモデルに搭載される様な純スポーツエンジンすら、種類が選べるのです。

新型M2のエンジンも完全新設計ではありませんが、正しく新しいエンジンで、そのMTモデルなどは、私が最も欲しいクルマの一つ。

更に水素燃料電池車も公道を走り始めました。正に「全部本気」といった状態です。私の夢は「トヨタと比べて」ではない、日本メーカー「レクサス」の「本気」を見る事です。経常利益も純利益も世界有数規模のクルマメーカーが「創る」「本気」皆さんは見たくないですか?!

安東弘樹

(写真:安東弘樹)