『いつかはクラウン』。若者からも支持されたクラウンやセドグロなどの高級セダン・・・1980~90年代に輝いた車&カルチャー
多くの若者がクルマに憧れた1980〜90年代。クルマは人や荷物を運ぶ道具としての役割だけでなく、若者たちのカルチャーを牽引する存在でした。そして、ドライブがデートの定番であり、クルマを持っていることがステータスでした。
だからこそ当時のクルマは、乗っていた人はもちろん、所有していなかった人、まだ運転免許すら持っていなかった人にも実体験として記憶に刻まれているのではないかと感じます。
そんな1980〜90年代の記憶に残るクルマたちを当時のカルチャーを添えながら振り返っていきましょう。
「いつかはクラウン」。実は憧れが少しだけ現実に近づいた
『いつかはクラウン』
1983年に登場した7代目クラウン(120系)のキャッチコピーは、コピーライター・宮崎 光さんの名作です。当時のクルマには明確なヒエラルキーがあり、人々は「次は上のクラスのクルマを選びたい」と頑張っていました。トヨタでヒエラルキーの頂点にいたのがクラウンです。
1960〜70年代だとどれだけ頑張っても一部の限られた人しか手に入れることができない高嶺の花でしたが、日本企業が世界の中で力をつけ、人々の所得も高くなっていく中で、「自分も頑張ればいつかはクラウンに乗れるかも」と思えるようになった。そんな世相を反映したキャッチコピーだったのでしょう。
世界最高級のプレステージサルーンをテーマに開発された120系クラウンは高級グレードの快適性や走行性の強化が図られるとともに、ハードトップとステーションワゴンはパーソナルユースを想定した装備が搭載されました。
フルフレーム4輪独立懸架サスペンションがクラウンのために開発され、エンジンはなんと11種類も用意されました。
当時のプレスリリースには『4ドアハードトップは、「ハイソサエティ オーナーカー」をテーマとし』と書かれています。1980年に登場した初代日産 レパード、1981年デビューの初代トヨタ ソアラなどとともに、“ハイソカー”としての確固たる地位を築いていきます。
1987年にフルモデルチェンジした8代目クラウン(130系)のハードトップには、初のワイドボディを設定。ステータスがさらに高まりました。
先進装備を多数搭載したY31型セドリック/グロリア
クラウンのライバルと言われて真っ先に思い浮かぶのが日産 セドリック/グロリアです。セドグロといえばいわゆる“兄弟車”ですが、兄弟車になったのは1971年に登場した3代目(グロリアは4代目)から。もともとセドリックは日産が開発したモデル、グロリアは日産との合併前のプリンス自動車が開発したモデルです。
(以降、紹介する代はセドリックのもので表記します)
1983年登場の6代目(Y30型)は日本初のV型6気筒エンジンを搭載。重厚感のある直線基調のデザインは、高級車としての風格を感じさせるものでした。ボディはハードトップ、セダン、ワゴン、バンを用意。人気を集めたのはやはり4ドアハードトップです。
セドリックの格子状グリル、グロリアの十字形グリル共にこのボディにマッチしていて、どちらの顔が好みかでセドグロのどちらを選ぶかを決めていた人も多かったはずです。
世界初搭載の雨滴感知式間欠オートワイパーやオートライトシステムなど、先進的な装備も搭載されました。
1987年登場の7代目(Y31型)はY30型のデザインイメージを踏襲。これまでのブロアム系に加え、スポーティ性を高めたグランツーリスモが新たに設定されました。インテリアは質感が大きく向上。これはライバルでありハイソカーとしての確固たる地位を築いたクラウンを意識してのことでしょう。
ブロアム系にオプション設定されたハンズフリー自動車電話や加湿器付きのオートエアコンなど、時代を感じさせるチャレンジングな装備も用意されていました。
“ツアラーV”という響きに憧れたマークII3兄弟
車格的にはクラウンより下になりますが、この時期のトヨタ マークII/チェイサー/クレスタの注目度も高かったですね。1988年に登場した6代目(80系)はボンネットが薄く流線的なボディが人気で、1990年のマイナーチェンジで追加された2.5GTツインターボは走り好きからも注目されます。
上級グレードは左右のドアミラーを見るガラス部分にワイパーが付けられていて、雨天時の視認性を高める工夫がされています。今思えばパワーウインドウをちょっと開ければずいぶん水滴を落とすことができるのですが、まだ他メーカーがやっていない機能を取り入れて主導権を握ろうという想いが伝わってくる装備でした。
1992年に登場した7代目(90系)は、スポーティなマークII、コンサバティブなクレスタ、エレガントなチェイサーと、3車のキャラクターがより鮮明になりました。この代から全車3ナンバーサイズになり、280psを発揮する2.5LツインターボのツアラーVも用意されます。
まだクルマのヒエラルキーが明確にあった時代、クラウンよりも下に位置していたこの3兄弟(中でもマークII)は、クラウンを求める層より若い人たちを意識していたのは明白です。ただ、1996年に登場した8代目(100系)では、チェイサーのスポーツ度が高められて3兄弟の中で最も人気があるモデルになりました。
品があって乗り心地が良いハードトップはデートでも人気のクルマ
これら4ドアハードトップは、年配の方だけでなく比較的若い人たちからも人気がありました。80年代後半からはクロカンブームやワゴンブーム、そして90年代中盤にはミニバンブームがあり、海や山に遊びに行く人たちには荷物がたくさん積めるアクティブなクルマが支持されます。
とくにミニバンが注目されるようになった90年代中盤頃からは「セダン(やハードトップ)は終わった」と言われることもありました。それでもスタイリッシュなハードトップは街に映えるし、クロカンやミニバンでは行くのに気が引ける高級感のある場所にも様になる。カッコいいクルマに乗りたいという人からは一定の支持を受けていたのです。乗り心地がいいのでデートに誘われる女性たちも悪い気はしなかったはずです。
筆者の周りにも90系マークIIのツアラーVに乗る同世代のゴルフ好きや、Y31型セドリックに乗るB-BOYがいました。彼らは冬になるとルーフにキャリアを付け、マークIIやセドリックでゲレンデに向かいます。ハイパワーのFR車にチェーンを巻いて、なれない雪道を走るのは相当怖かったはず。それでも気にせず雪山に向かう姿は、自分のスタイルを貫いている感じがしてカッコよかったですね。
国産車の最高峰に位置するハイソカーは新車価格が高く、若者が気軽に買えるものではありません。当然狙うのは中古車です。クラウンやマークIIは人気があるため中古車相場が高めで推移していて、みんな結構無理をして手に入れていたと記憶しています。
90年代後半頃からは、トヨタ セルシオや日産 シーマなどの高級車をローダウンして大きなホイールを履き、エアロパーツを装着するVIPカーが流行。クラウンやセドグロもVIPカーのベース車として注目されます。そのため中古車市場にはど派手な改造を施したものが多くなりました。それもあり、残念ながらこの時代のハードトップの中古車は現在では流通量がかなり少なくなっています。
(文:高橋 満<BRIDGE MAN> 写真:トヨタ自動車、日産自動車)
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