「暖機」って今も必要!? “最近あまり聞かないクルマ用語”の今昔物語『エンジン編』①

  • スープラ(A70)のエンジン

「昔はよく耳にしたけれど、そう言えば最近あまり聞かないなぁ」というクルマ用語ってありますよね。ここではそんな用語をピックアップしつつ、その言葉の意味や歴史、そして現在の状況まで紹介してみようと思います。というわけで、第1回目はエンジン周辺に関わるクルマ用語から!

『暖機運転』の今と昔

  • 自動車のメーター

昭和のクルマたちは、走行前にしばらくエンジンをかけておく『暖機運転』が必須でした。インジェクション車ならまだマシなほうで、キャブレター車で暖機せずに走り出そうものならギクシャクしてまともに走ってくれませんでした。

対して最近のクルマはどうか? 真冬の極寒な環境でも、エンジンをかけた瞬間からフツウに走り出すことが可能ですよね。いったい何が違うのでしょうか?
その答えのひとつは、冷間時(始動直後)と温間時(暖機後) のエンジン部品の状態変化を最低限にできるようになったことにあります。

例えばピストンとシリンダー。昔は鋳鉄製シリンダーブロックとアルミ製ピストンという組み合わせが一般的でした。材質が違うので熱膨張率が異なり、膨張率の大きいアルミピストンに合わせてクリアランスを設定していました。

今と比べれば加工精度も低く(とはいえ1/100mm台の話ですが)各部のクリアランスが広く設定されていたこともあり、冷間時はエンジン内部の圧縮圧力が低く、適正温度(適正クリアランス)になるまでは、まともに走ることもできなかったのです。

また、エンジン制御技術が格段に向上したことも大きな理由のひとつ。現在はさまざまなセンサーから得た情報にあわせて、燃料噴射量や点火時期、さらにはバルブタイミングやスロットルバルブまでリアルタイムでコントロールしてくれます。
そういった進化の積み重ねにより、最近の車は寒い日でも一発始動ですぐに走り出すことができるというワケです。

では、暖機しなくていいのか? といえば答えはノー。いくら技術が進歩したとはいえ、熱膨張によるクリアランスの変化やオイルの粘度変化などは発生しているのです。いきなり全開走行をしたら、エンジンに良いはずがありません。

ではどうすべきか? 停車したままの暖機運転は環境にも優しくないので、エンジンが適正な温度になるまでは負荷を掛けずにゆっくり優しく走りながら暖気する、というのが今の時代に合っているのではないでしょうか。

  • チョークレバー

    1970年代頃に主流だったキャブレターはエンジンが冷えている状態では通常時と同じ混合気(ガソリン量)では十分な霧化が行えずに始動性が悪くなるのは当たり前。その対策として、運転席から手の届く位置にガソリン噴射量を増やす『チョークレバー』が備わっていたりしました。現在は、燃料をとても細かい霧のように噴射できるインジェクターなどによって燃焼効率が高まり、燃費向上などにも貢献しています。

『慣らし運転』は必要か?

  • エンジンの慣らし運転の必要性

暖気運転と同様に「やった方がいいのか?それとも不要なのか?」と迷うのが『慣らし運転』。「新しいエンジンの性能をすぐにでも味わいたい…でも、ナラシ運転してからじゃないとダメ?」と悩む人も少なくないのでは?

暖気運転の話と同様に、昨今のクルマに搭載されるエンジンは精密加工された部品で組み上げられているうえ、例えばピストンなどは側面にコーティングが施されていて、初期に発生しがちな「かじり」を防ぐ仕様になっていたりします。

昔のエンジンのように『クリアランスを狭めに組んでおいて、ナラシをすることで適正クリアランスに収まる』なんていうことはないので「ナラシ運転をしなかったから著しく不調なクルマになった」ということはまずないでしょう。

そのようなことを踏まえた上で、ナラシ運転はすべきか否か? 少しでもいいエンジンにしたいなら、した方がいいでしょう。それはなぜか?

加工精度が高くなっても公差というものはなくなりません。公差というのは、簡単にいうと、設計値に対して許される寸法差。ミリ単位であれば、今のクルマに用いられる部品に公差はないのですが、1/100〜1/1000mmレベルでいえば、公差は存在します。だからどうしても部品同士の隙間は一定ではありません。設計よりも広くなる場所もあれば、狭くなる部分もある。

いわゆるナラシ運転をすれば、そんなミクロの世界のクリアランスの差異を無くしてくれるので、その差は微々たるものかもしれませんが、性能的に設計値に限りなく近い性能を発揮してくれるエンジンとなってくれるはずです。だから、慣らし運転をすべきかどうか問われたら「やった方がいい」と思うワケです。

  • 筆者がとある最近の新型車に乗り始めて100kmちょっとの距離でオイル交換をして、抜いたオイルを白い半透明の樹脂タンクに移して1ヶ月近く放置しておいたのがこの写真。見えにくいですが黒い沈殿物がけっこう残っています。やはり多かれ少なかれ金属同士が擦れた金属片が出るようなので、慣らし運転および1回目は早めのオイル&フィルター交換をしておくのが、精神衛生的にも良さそうですね。

『過給器』の役割も変わった!?

  • R34スカイラインGT-Rのエンジン

『過給器』とは、吸入→圧縮→爆発→排気という4つのサイクルによって動力を得ているエンジンの中で、加圧した空気を燃焼室に送り込むことで『吸入』の性能を高めて高出力を得るための装置。

スカイラインRSターボやランサーターボの『ドッカンターボ』をはじめ、MR2やレックスで知名度を高めた『スーパーチャージャー』、RX-7やスープラの『シーケンシャルツインターボ』など、その時代ごとにクルマ好きの心をグッと鷲掴みにしてきた、ハイパフォーマンスの代名詞ともいえるアイテムです。

ターボチャージャーは、内燃機関が排出する排気ガスを利用してタービンを動かし、その同軸に繋がれたコンプレッサーを駆動することで空気を圧縮する仕組み。本来なら捨てられるだけの排気ガスを動力として転換する面では、意外とエコなシステムとも言えるでしょう。
対してスーパーチャージャーはクランクの回転動力を活用してコンプレッサーを駆動するシステム。ターボチャージャーと比較すると、低いエンジン回転数から過給性能が得られるため、特に小排気量などには大きなメリットとなります。

そんな過給器ですが、かつてはスポーツカーや高級車などがパフォーマンスを得るために活用されてきたというイメージがありますが、近年ではその目的は大きく移り変わってきています。

特に、CO2の排出量を減らすためにエンジンを小排気量化し、不足する中低速域でのトルクを補うためにターボチャージャーが組み合わされる『ダウンサイジングターボ』は、欧州を中心に世界的なムーブメントとなっている考え方。また、燃料電池車に向けた電動ターボチャージャーの開発など、その目的はパワーアップではなく省燃費化や環境性能向上へとシフトされているのです。

環境性能を重視する現代のクルマにとって、過給器はSDGsを念頭に置いたエコなシステムへと変貌を遂げているというわけですね。

  • スーパーチャージャー

    自然吸気エンジンとは異なる「シートに押し付けられるような」加速感を味わうことのできる過給器は、純正はもちろんサイズアップや後付けなどアフターパーツも人気のカスタム。みなさんは『ターボチャージャー』や『スーパーチャージャー』と聞いて、どんな車種を思い浮かべますか?

(文:坪内英樹)

MORIZO on the Road