“最近あまり聞かないクルマ用語”の今昔物語『運転席まわり編』②

「昔はよく耳にしたけれど、そう言えば最近あまり聞かないなぁ」というクルマ用語の意味や歴史、そして現在の状況まで考えてみるコラム。今回は運転席まわりの用語について。このほかにも「こんな用語もあったよな〜」という用語を思いついたら、ぜひコメント欄で教えてくださいね。

『ステアリング交換』の栄枯盛衰

  • イタルボランテのアドミラル

細身のグリップと3本スポークのシンプルなデザインが人気のナルディクラシック、グリップの形状やスポークにデザインの国イタリアを感じさせるMOMOベローチェレーシング、センサーパッドがハイソカーにピッタリだったイタルボランテなどなど、クルマ好きにとってステアリングを好みのアイテムに変更するのは定番メニューのひとつでしたね。

昭和の時代の純正ステアリングはグリップも極細で、しかも滑りやすい材質でできていて、何よりステアリング径が大きかったので、スポーツドライビングをしたい若者にとって、どうにもダサいパーツだったワケです。

しかし1990年代、平成に入ったころからステアリングを交換するという文化は徐々に勢いが弱くなっていきました。その要因のひとつがエアバッグの普及。エアバッグ付きだと任意保険に安く加入できるということや、エアバッグ付きのステアリングを取り外すのが素人には難しい(というか怖い)こともあり、ステアリング交換という需要が減っていったのかもしれません。

しかも、現在の純正ステアリングには様々な機能を操作するためのスイッチが追加されており、ステアリング交換によってそんな便利な機能が使えなくなってしまうのは避けたいですよね。
さらに言えば、純正ステアリングでも握りやすさや操作のしやすさを考慮し、見た目的にもカッコいいものが増えていったり、MOMOやナルディといったステアリングがオプション装備として選べるようになったことなども要因と言えるでしょう。

それでもやっぱり、運転中は常に触れている部分ですから、純正スイッチやエアバッグを生かしたまま交換できるアフターパーツや、純正ステアリングの一部を巻き替えたりするアイテムなど、現在も「ステアリングを自分好みにしたい」というニーズに応えてくれるアイテムは充実しているのです。

  • MOMOのステアリング
  • ナルディのステアリング

日本車でエアバッグ付きステアリングを初採用したのは、1987年に発売されたホンダ・レジェンドと言われており、その後1990年代に入ると急速に普及していきました。GAZOO愛車広場でみなさんの愛車を撮影させていただくと、やはり昭和車はステアリング交換されていることが多い印象です。気分や用途によってウッドや皮巻きのステアリングを付け替えて運転するというオーナーさんにもたくさん出会いましたね。

『水中花』の人気が再燃している!?

  • Greddyの水中花のシフトノブ

ステアリングとブランドや材質を揃えたり、色味をコーディネートしたりと、ステアリングと同様にオーナーさんのこだわりが現れるポイントのひとつが『シフトノブ』。さらに『シフトブーツ』も、黒のレザーに赤いステッチや、黄色や赤、青といったレザーの色に交換するなど、インテリアドレスアップの定番としてクルマ好きの多くが興味を持つアイテムですね。

AT車ではMT車ほどイジっている比率は高くないですが、こだわり派のオーナーさんにとっては現在進行形で愛されているカスタムポイントと言えるでしょう。

それから、シフトまわりと言えば『クイックシフター』というアイテムも流行りましたね。レバー比を変更したシフトレバーがそれで、例えば1速から2速にシフトする際のレバーの可動域が短くなる=ショートストロークになるので、素早いシフトチェンジが可能となったのです。
いや、実際には、シフトノブを握る左手の動く量が減るだけで、シフトチェンジに要する時間はたいして変わらなかったワケですが(笑)。

ちなみに現在、旧車オーナーを中心に『水中花』シフトノブが人気なんです。昭和の時代だと、暴走族やヤンキーのイメージが強く、一般的なクルマ好きの間では敬遠されていましたが、当時を懐かしむ世代だけでなく、若者からの人気がとても高いのだとか。何しろアフターパーツメーカーが新製品として販売するくらいですから!!

そんな若者たちに、なぜ水中花のシフトノブを付けるのかを聞くと「旧車っぽいドレスアップアイテムだから」というご返答が多いです。今風に言うと“エモい”っていうんですかね〜。

そして、そんな若者が水中花シフトノブを装着する場合、不思議とシフトレバーにエクステンションも付けているんですよね。シンプルな革まきシフトノブ+クイックシフトに憧れていた筆者にとっては、なかなか共感し難い昨今の旧車系シフトレバー模様です。

  • シフトノブをコレクションするオーナーも
  • ランカラーに似合うウッド調のシフトノブ

何種類ものアイテムをコレクションしていたり、当時モノや純正品にこだわって手に入れたという苦労話を聞いたりと、シフトノブもステアリングと同様にオーナーさんのこだわりが現れるポイントのひとつ。運転する際に必ず触る部分なだけに、大きさや質感などもさまざまな好みが存在するでしょう。昔から、純正でも「あのグレードだけシフトノブが違う」なんて憧れの対象になったりするパーツでしたよね。

『ABCペダル』って今でも通じる?

  • クルマのペダル

運転席まわりと言えば、ペダル類もドレスアップ効果や機能性向上を狙って、多くの人が手を加える部分でした。手を加えると言っても、市販のペダルカバーを付けるぐらいだったワケですが「オートルックが定番だよね」とか「RAZOも派手でカッコよかったですねぇ〜」なんて話し出したら止まらないでしょう。

なぜ付けたくなるのか? といえば、見た目がカッコよくなるというドレスアップ効果の高さはもちろんですが、昭和のクルマはアクセルペダルとブレーキペダルが結構離れていたというのも一因でしょう。
カッコよく『ヒールアンドトゥ』を決めようと思うと、踵とつま先で両ペダルを操作しなければならなかったので、それをなんとかやりやすくしたいと、ペダルカバーに手を出すひとが多かったのです。

市販のペダルカバーはノーマルのペダルより大きめのものがほとんどで、さらに言えば、アクセルペダルの下側がブレーキペダル側に延長されていてヒールアンドトゥがやりやすい形状のアイテムも多かったのです。さらに取り付けも一工夫して、アクセルペダルは左よりに、ブレーキペダルは右よりに付ければ、下手なヒールアンドトゥでも、なんとなくサマになったもんです。

ペダル操作にこだわっている人ならば、ペダルの交換と同様に、滑り止めを貼ったり、厚めのスペーサーを入れてブレーキとアクセルのペダルの高さを揃えたりもしたものですよね。

それにしても、ツーペダルのAT車が増えた現在、はたして『ABC(アクセル・ブレーキ・クラッチ)ペダル』という言葉は通じるのでしょうか?

最近のクルマは純正でもカッコよくて操作性にも優れたペダルが装着されていて、わざわざアフターパーツに交換する必要がないというオーナーさんも増えたことでしょう。

(文:坪内英樹)

MORIZO on the Road