“最近あまり聞かないクルマ用語”の今昔物語『足まわり編』③
時代の流れとともに変化してきたクルマ用語の意味や歴史、そして現在の状況まで考えてみるコラムの第2回目は足まわりの用語たち。基本的な構成パーツや構造は変わらなくても、クルマ好きがこだわるポイントのひとつでもあるだけに、さまざまなキーワードがありますよね!
今どきの『車高調』が登場するまで
1995年に実施された規制緩和(『自動車部品を装着した場合の構造等変更検査時等における取扱いについて(依命通達)』)によって、スプリングやショックアブソーバーといった足まわりのカスタムも(自己責任の範囲内で)より手軽に楽しむことができるようになりました。
現在では純正ショックアブソーバーのままスプリングを交換することでローダウンやリフトアップを可能にする『ローダウンスプリング』や『リフトアップスプリング』をはじめ、スプリングとショックアブソーバーのマッチングも考慮して開発された『純正形状サスペンションキット』、そして車高の調整が可能な『車高調(車高調整式サスペンション)』など、量販店や通販などでさまざまなアイテムを手軽に購入することができます。
そんな車高調ですが、規制緩和が行なわれた当初は、ネジ式のスプリングシート部分のみがパーツで販売されていて、それをノーマルのストラットケースに溶接するといった競技向け部品として玄人向けアイテムとして登場したのが出発点でした。
純正ショックアブソーバーを利用して車高を下げると、ストローク量が減ってしまったり、底付きしてしまうため短縮加工などが必要な場合もあり、AE92カローラレビン/スプリンタートレノ用としてTRDが発売した短いショックアブソーバー、通称『キューニーショート』をさまざまな車種に流用する手法などが流行したものです。
組み合わせるスプリングも純正形状のものではなく、内径や自由長などが規格化されていてさまざまなアイテムが選べる『直巻きスプリング』が主流となり、ショックアブソーバーの減衰力とスプリングレートのマッチングといったノウハウも徐々に蓄積されていきましたね。
そして、アフターパーツメーカーが車種別にボルトオンで装着可能な車高調キットを発売したことで、現在のようにサスペンションカスタムの定番としての地位を確立したワケです。
今ではあたりまえのように手に入れることができるようになった車高調サス。主流となっているのは『全長調整式(フルタップ)』と呼ばれるタイプ。ショックアブソーバーのケースにネジ山が切られていて、車体に固定するブラケット部分やスプリングシートをクルクルと回して車高を変更できるというもの。ショックアブソーバーのストローク量を変えることなく車高を変更できたり、スプリングのプリロードを変更できたりと、昔の溶接で固定するネジ式と比べても高性能。妥協のないセッティングができるなど、さまざまなメリットがあります。
『ストラットを変える』は間違い?
最近SNSなどで『ストラット』というワードの意味を間違えて使っていらっしゃる方が多く、それが気になって仕方がありません。多くのクルマのサスペンションには、とくにフロント側は「ストラット式」か「ダブルウィッシュボーン式」のどちらかが採用されていることがほとんどです。
例えば、『ダブルウィッシュボーン式サスペンション車のショックアブソーバーとスプリングを交換する』といったシチュエーション。「取り外したストラットを…」といった具合で使われているんです。
“ショックアブソーバーにスプリングを組み込んだ状態”を『ストラット』というパーツの総称だと思われている方が意外と多いんですね。
けれど、実際にはサスペンション型式の違いですから『ダブルウィッシュボーン式』のサスペンションに、部品としての『ストラット』は存在しないんです。
とはいえ、勘違いするのもわからなくはないです。というのも、確かにストラットというワードそのものは「ショックアブソーバー、スプリング、車軸を組み込んだ状態のもの」を意味するので、その“車軸がないバージョン”とも言える「ダブルウィッシュボーン式の車高調」のことも、知ってか知らずか、ストラットと言ってしまうんですよね。
そんなストラット式のフロントサスペンションは、1970年以降からそして現在に至るまで、まさにド定番と言えるサスペンション型式。ですから雑誌記事やSNSなどで、サスペンション交換がテーマとなれば、高い確率で登場するワケです。
そして、そこでは「スプリングとショックアブソーバーを交換する」と書かれるより、圧倒的に「ストラットごと交換した!」と書かれているケースが多いんです。交換するパーツが車高調整式の場合は特にその傾向が強く、その言葉がウェブ上に広まってしまい、『スプリングとショックが組み合わされた部品=ストラット』という認識になって、そう呼んでしまっているのかもしれません。
でも、でも…使う場合には一応「ちょっとヘン」ってことをわかって使った方がいいと思います。
『ストラット』や『ダブルウィシュボーン』以外にも、FF車や軽トラックなどで使われている『リジッドアクスル』や、ダブルウィッシュボーンから派生した『マルチリンク』など、さまざまな種類がある足まわりの形式。ちなみに昭和の時代であれば『ストラットごと交換しなくちゃ』なんていうと、それは「縁石にヒットさせてスピンドルが曲がっちゃってさぁ」みたいな時に使う言葉で、大々的な修理を意味していましたね。
オシャレの流行は繰り返す!?
「オシャレは足元から」はクルマにも通ずる言葉であり、世のクルマ好きたちは自分の愛車にどんなホイールを履かせるか? にこだわり続けてきました。
『鉄チン』と呼ばれるスチール製純正ホイールは、いくらホイールカバーがついているとはいっても、オシャレ心を満たすには物足りない。やはり上級グレードやスポーツモデルに採用されるアルミホイールに憧れ、多種多様なアフターパーツに目移りしたものです。
トヨタ・2000GTや日産・フェアレディZに採用された『マグネシウムホイール』なども話題を呼びましたね。
また、軽さや強度など性能面はもちろんのこと、スタイリッシュでスポーティな印象の『スポーク』、高級感がある網目状の『メッシュ』、強度や高級感を得られるお皿のような『ディッシュ』など、クルマを真横から見た時に見えるホイールのディスク面のデザインも重要なポイントです。
また、純正ホイールよりも外径の大きなホイールに交換する『インチアップ』も、優越感に浸れるカスタムですね。ホイールの外径といえば、昭和の時代はせいぜい15インチか16インチまで。1994年に日産・スカイラインGT-R VスペックII(BNR32)が245/45R17というサイズの純正タイヤを採用してきた時には、業界がザワついたものです。
時代が流れて令和となった現在では、19インチや20インチに30扁平のタイヤといった組み合わせも純正で採用されるなど、その進化はとどまるところを知りません。
いっぽうで、ここ数年のアフターパーツ業界では、数十年前のホイールがプレミアム価格で取引されたり、昔ながらのデザインの復刻版が販売されたりと、クラシカルなホイールが大人気! ファッションでも「Y2K」と言われる2000年代のスタイルが流行ってきたと言いますから、やはりブームは繰り返すってことでしょうね。
旧車ブームが盛り上がりを見せる昨今、ホイールも『レトロ』や『クラシカル』がキーワードとなっています。GAZOO愛車広場の取材で出会うオーナーさんたちも「あのグレードの純正ホイールがどうしても欲しくてバラバラに4本集めました」とか「当時モノのホイールがお宝です」と、目を輝かせて熱く語ってくれる方がたくさんいらっしゃいます。
撮影協力:スターロード https://starroad.jp/
(文:坪内英樹/GAZOO編集部)
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