ボディ剛性パーツを身近にしたCUSCOが、多様なパーツを手掛ける理由とは?・・・カスタマイズパーツ誕生秘話
サーキットのスポーツ走行会でパドックに並ぶクルマを眺めてみると、それらの中に『CUSCO』と書かれた青く光るパーツが装着されていることが多い。
そしてそれはサーキットに限らず、ワインディングロードの駐車場などでも見かける風景だ。高原クルージングを楽しんでいた男性とその仲間達が眺めているオープンカーのエンジンルームにはストラットバーが、ローダウンされたミニバンのフロア下には青い車高調やブレースバーが覗いているのである。
今回は、そんな補強パーツを中心に幅広いカスタムパーツブランドであるCUSCOの製品やその生い立ちについて、株式会社キャロッセ代表取締役の長瀬 努氏にお話を伺いながら紹介していく。
クルマ好き集団が作り上げる『CUSCO』パーツ
1977年、ラリーの聖地と言われていた群馬県の安中市に、ラリーショップ『キャロッセ』がオープン。その後1981年に会社組織へと変更して、より本格的な体制でスタート切った。これが現在のキャロッセである。
『キャロッセ(CARROSSER)』とは、フランス語で『四輪馬車』を意味するもので、クルマを意味する『CAR』の語源とも言われている。
そして、一般的にクルマ好きの間ではキャロッセという会社名よりも広く知られているであろう『クスコ(CUSCO)』は、キャロッセが1983年に立ち上げた、主に足まわりや駆動系、そしてミニバン系パーツを展開するブランドの名称だ。
その名称について長瀬氏に伺ってみたところ「かつて栄えたインカ帝国の首都はケチュア語で『ヘソ』という意味の『クスコ』という名前でした。このブランド名はそこからとったもので『クルマ文化の中心となるブランドにしたい』という思いを込めてつけたものです」と教えてくれた。
キャロッセの創業以来、一貫して唱えられている理念は『自分たちが必要とするものを、自分たちが使って満足するクオリティで製作する』というもの。そして、そういった会社の特色もあってか、ほとんどがモータースポーツ経験者という、同業社でも驚くほど頼もしいスタッフ陣が在籍しているのも特徴となっている。
つまりは、そんなドライバーやメカニックの目線から見ても納得できるアイテムを作り続けてきたということだ。
ちなみに、もともと全日本ジムカーナ選手権に参戦するドライバーだった長瀬代表も、入社当初に自分が競技車両として乗っていたホンダ・シティ(GA2)用のパーツを自らが開発し、好成績を残すことでその性能を実証して商品を完売させたという。
「今みたいにSNSやウェブで広告活動を展開する時代ではなく、とにかく競技で良い成績を残すことが最も効果的な宣伝だったんですよね。好きな競技に参戦することが仕事につながるのは嬉しい一方で、自分たちの活動資金を得るためには売れる商品を作らないといけないわけです。そうやって必死に製品開発をしたことはすごく大事な経験となっているし、製品のクオリティにもつながっていると思います」と振り返ってくれた。
手軽に取り付けられる『ボディ剛性アップパーツ』が生まれたワケ
同社が開発するスポーツエクイップメントは多岐に渡るが、中でも圧倒的なラインアップを誇っているのが、ボディ剛性を高めるための『ボディビルドアップパーツ』。
ライトなものでは『ストラットバー』から、サスペンションの土台をしっかり固めてくれる『ロワアームバー』、シャーシの体幹を鍛えてくれる『パワーブレース』など、従来はクルマに合わせてワンオフするしかなかった補強パーツをボルトオン装着できるよう車種別に製品化したエポックメイキングとも言えるアイテムだ。
「昔のクルマを競技用に作り上げようとしたときに、まずは補強パーツで車体を固めてからサスペンションセッティングを決めていくというのは基本だったし、単純にクルマが壊れにくくなるというメリットもありました。そういった補強パーツをボルトオンで手軽に取り付けできるように製品化したのがはじまりですね。
『カスタマイズの楽しさを手軽に体感できる入門パーツ』として、たくさんの方に使っていただきたいのでリーズナブルな価格で簡単に取り付けできるようにしています。ボンネットを開けたときのアピールポイントにもなりますしね」と長瀬代表。
長瀬氏の言葉にあるように、クスコのボディ剛性パーツが人気となっているのは性能だけでなく、そのどれもが1万~3万円程度で購入できるというコストパフォーマンスの高さにもあるだろう。一気にすべてを装着するのも良いし、ひとつずつ装着しながら体感での違いを味わっていくという楽しみ方も可能だ。
そして、高剛性ボディが手に入れば、スポーツサスペンション等の性能も、より高次元で味わうことができるようになる。
クスコでは単筒式、複筒式あわせて15種類もの車高調キットシリーズがラインアップされていて、様々な趣向のユーザーに対応。また、足まわりのセッティングを調整するための各種アーム&ロッド類も多種ラインアップされている。
「購入いただいたお客様が車検で困らないように、構造変更が必要なパーツには必要書類も添付していますよ」(長瀬氏)と、ユーザー目線の心遣いも嬉しいところ。
サスペンションやL.S.D.(リミテッド・スリップ・デファレンシャル)など、走りに直結するアイテムの豊富さも魅力である
さらなる高みを目指すカスタムパーツ開発への思い
そんなクスコ製品は、車種ごとに同じ担当者が一貫した開発を行っているのも特徴だという。
「GR86の車高調を開発するときには、競技用も市販車用もおなじ担当者が設計から取り付け確認まで一貫して行うんです。そうすることで性能はもちろん『こうしたほうがもっと簡単に装着できる』『こうすれば余計なものを外さなくてよくなる』といったこともトータルで考慮しながら作ることができるんです。
競技ではパーツの脱着作業にかかる時間なども重要になってきますし、さらにさまざまな競技で使用することで『このジャンルではどんな特性が求められるか?』といったノウハウも蓄積されていくというわけです」と長瀬代表。
開発用の試作パーツを作る際、通常の生産ラインを止めてしまうと納期などに影響が出てしまうため、マシニングセンタや3Dスキャナー&プリンターなど試作パーツを作るための設備も数多く導入している
キャロッセは海外ラリーや全日本ラリー、ジムカーナ、ダートトライアル、SUPER GTやスーパー耐久、昨今ではドリフト競技に至るまで、常にさまざまな競技の第一線で活躍を続けている。
製品の設計開発に携わるスタッフが、そうした現場での経験も踏まえてパーツを作り上げ、過酷なステージで試しながら磨き上げることで、キャロッセから生まれる製品は『より高性能で高品質なアイテムが誕生する』といった、実に硬派なスキームを辿っているのである。
そして、キャロッセで製品作りや思想を学んだスタッフたちは、会社を離れたあともレースの際にメカニックとして参加するなど、まさに“クスココミュニティ”ともいえる体制を作り上げて活動しているそうだ。
「独立したり家業を継いだりしてクルマ業界に残る元社員も少なくないのですが、そうした元社員が手伝ってくれるおかげで、たくさんのレースに参戦できるし、いろいろなチャレンジもできるんです。もともと一緒に仕事をしていたメンバーなので信頼し合っているし、チームとしての結束力も強いですね。そうやってみんなの力を借りながら継続的に活動することで、さらにクルマ好きのすそ野を広げていけたらいいなと考えています」
運転することの楽しさと段階を刻んでカスタマイズできる楽しみの提供
「1995年におこなわれた道路運送車両法の規制緩和以降は、スポーツカーだけではなくエスティマやオデッセイなどのミニバンでもカスタマイズを楽しむ方が爆発的に増えて商品の販売数も大幅に伸びました。クルマ好きの裾野が広がり楽しみ方も増えたことを、とても実感しましたね」
乗り心地の良さや運転しやすさを向上させてくれるボディ剛性パーツやサスペンション関連パーツは、スポーツ走行を楽しみたいユーザーだけではなく、今では多くのクルマ好きから求められる存在となっている。そして、そんな要求のほぼすべてに応えられる数多くのラインアップから、どのアイテムを取り入れていくかを考えるのも、クルマ趣味の醍醐味と言えるだろう。
「数多くのアイテムをラインナップしているので、スポーツカーでモータースポーツやワインディングを楽しむ方はもちろん、コンパクトカーやミニバンなどでも“変化”を体験してみてほしいですね。そうすることでより愛車に愛着が湧いてくると思うんです」
「最近は、あえて未経験や経験の浅いドライバーをサポートしたり、トップカテゴリだけでなく参加すること自体を楽しむような競技イベントにも参加してみたりすることで、モータースポーツに興味を持ったり『じぶんでも参加できるかも?』と感じてもらったりできるような取り組みにも力を入れています。
また、洗車グッズやコーティング剤など気軽に使っていただけるアイテムもラインアップしているんですよ。これからもいろいろなクルマ好きのみなさんに楽しんでいただけるような商品を開発していきたいですね」と長瀬代表。
真剣にモータースポーツに取り組み、クルマを楽しみながら作り上げられる『CUSCO』の製品は、愛車をさらに楽しく運転できるクルマに仕上げるための選択肢として、これからもさまざまなユーザーを支えてくれるに違いない。
取材協力:キャロッセ
[GAZOO編集部]
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