「クルマ好き集団」東名パワードがエンジンにこだわり提案し続ける『走り』への誘い・・・カスタマイズパーツ誕生秘話
「やっぱり自分が好きじゃないと、好きになってもらえないじゃないですか」
製品作りにかける思いについての問いかけに、笑顔でそう語ってくれたのは、エンジンパーツを中心とした自動車部品の企画・開発・製造・卸及び販売を手がける『東名パワード(TOMEI POWERED)』の取締役社長を務める里井孝夫氏。
愛車の日産・スカイラインGT-R(BNR32)で通勤し、休日にはオートバイでツーリングに出かけるという根っからの『内燃機好き』で、30年前に入社して以来、営業マンとして全国各地に東名パワード製品を売り込んできたバリバリの“現場叩き上げ”だ。
そんな里井氏に、2024年6月19日で創設56年目を迎えた東名パワードの歴史、そして製品にかける思いなどを伺った。
2輪レースからはじまったエンジンパーツメーカーの歴史
エンジンチューナーであり、日産ワークスドライバーでもあった鈴木誠一氏が、オートバイクラブ『城北ライダース』の仲間と共に『東名自動車』を設立したのは1968年。
オートバイレースで活躍したドライバーが4輪の競技へとステップアップするというのは当時の潮流であったことに加え、その卓越したチューニング技術が認められ『レース用エンジンやシャーシチューニングの専門ファクトリーを作りたい』という日産の意向があったことも会社設立のキッカケだったという。
1970年代と言えば、一般家庭にも自家用車が普及しはじめ、カローラやサニーといった大衆車をベースにした『プロダクションカー』のレースも盛んになっていった時代。鈴木氏率いる「クルマ好き」「チューニング好き」が集まった東名自動車は、さまざまなレースで好成績を収めるとともに、「クルマ好き」「チューニング好き」に悦んでもらえるような製品をと考え、ピストンやコンロッド、カムシャフトといったエンジンパーツを製造・販売していった。
2023年に東名パワードの取締役社長に就任した里井孝夫氏。オフィスは社屋の2階だが、1日に何度も1階の開発エリアに降りては技術スタッフとアイディアを話し合ったり開発状況を確認したりしているそうで「こっち(1階)の方が落ち着くんですよね」と笑う。
『東名パワード』としてユーザーの愛車にもエンジンチューンを提唱
1986年になると、エンジンメンテナンス分野は『東名エンジン』、シャーシメンテナンス分野は『東名スポーツ』として分社化し、『東名自動車』はパーツの開発と製造に専念することに。この頃から、対象となる車種やエンジンは日産車に限らず、様々なメーカーの車種にも拡大していった。
レースエンジンでのノウハウを投入し、アルミ素材の膨張率を正確に把握することで誕生した“楕円”“たる型”の『三次元プロフィール』を採用したアルミ鍛造ピストンなどは、当時から現在まで続く人気アイテムだという。
エンジンパーツの開発や性能チェックに欠かせないエンジンベンチ。東名自動車時代の1971年にはレース用エンジンの馬力測定装置として500HP動力計をいち早く導入していたという
「入社前は典型的な“バイク小僧”で、先輩のレースリザルドを確認するために買った雑誌にたまたま載っていた社員募集広告を見て『自分が買っているパーツを作っている憧れの世界』で働いてみたい!』と思って応募したんですよ。仕事終わりに自分の愛車をイジっていると、気づけば先輩たちが集まって手伝ってくれているような、本当にクルマ好きな人が集まっている会社でしたね」と、1994年の入社当時を振り返る里井氏。
そんな東名自動車は、1994年に東京都町田市への移転に合わせて社名を『東名パワード』へと変更。レースを主軸としていた業態から、より一般車を対象としたマーケットに注力していった。そして、ちょうどその頃に企画開発され大ヒットを記録したのが『ポンカム』だ。
1998年には東名パワードのスカイラインGT-R(BNR32)がドラッグレースのラジアルタイヤクラスで当時の日本記録9秒167を樹立。シリーズチャンピオンも獲得。『ADVANTAGE』と名付けられた東名パワードのデモカー、スカイラインGT-R(BNR34)もさまざまな好成績を残した。
本格的エンジンチューンを身近な存在にした『ポンカム』の功績
かつては、エンジンのチューニングというと敷居の高いものであり、その世界に足を踏み入れるのには相応の勇気が必要だった。そんなコアな世界への入り口を切り開いてくれたのが、東名パワードの『ポンカム』と呼ばれるカムシャフトだ。
当時はカムシャフトといえばインテーク用とエキゾースト用をバラバラに選び、それに合わせて強化バルブスプリングやアジャスタブルカムギヤ等なども購入して、組み込み作業工賃やセッティング費用なども含めると総額で数十万円単位というのが当たり前だった。
それに対してポンカムは、インテークとエキゾーストのセット販売で5万円を切る価格から設定され、それ以外の部品を購入したりバルブタイミングを調整したりする必要がなく、そのエンジンが持つポテンシャルを引き出してくれるという、手軽さと低価格を両立したアイテムだったのだ。
里井氏が営業時に持ち歩いていたという説明用の資料には、何通りものカム交換によるエンジン特性の変化などが記されている。2015年にはコンピュータ制御カムシャフト研削盤を追加導入した
「当時、GT-Rやシルビアなどはボルトオンで交換できるタービンが流行していたのですが、それだけではどうしてもパワーが高回転域でイッキにたちあがる“どっかんターボ”になりがちでした。いっぽうでカムシャフトはエンジンの性能を大きく変えられるメリットがあるにも関わらず、なかなか手を出してもらえないパーツだったんです。
そこで社内で『どうしたらカム交換をもっと広められるのか?』と議論を重ねた結果、生まれたのがポンカムだったんです。エンジンごとに『どんな性能を求めるオーナーさんが多いのか』を考慮して設計するのは大変だったと開発スタッフから聞いていますし、ポンカムを生産するために高精度かつハイスピードで削り出せるカムシャフト研削機が新たに導入されたのも印象に残っていますね」と里井氏。
発売当初は『そんな製品でまともに性能アップするはずがない』というプロショップに性能や利点を説いてまわり、カー用品店のメカニックに組み込み作業の実演講習を行うなど、地道に販売活動を続けて行ったという。その結果、エンジンチューニングの魅力を幅広い層へと知らしめる人気アイテムとなったのである。
また、東名パワードと聞くと、青いヘドカバーの『GENESISコンプリートエンジン』を思い出す方も少なくないのではないだろうか?
「エンジンチューンに関しては、使用するパーツや組み込み技術などに不安を覚えるオーナーさんも少なくなかったし、作業のために愛車を長い期間ショップさんに預けておかないといけないというのも手を出しにくい要因のひとつでした。そこで、完成品のエンジンを販売することで、そういった問題を払拭できるのではないかと考えたんです。また、作業するショップさんにとっても、お客様の愛車を預かって管理するリスクを低減できるなどのメリットをご提案しました」
現在は純正部品の供給が不安定なことなどからコンプリートエンジンの販売は行っていないものの、レースはもちろん、国内外で活躍したタイムアタック車両やドリフトマシン、さらにはヒルクライム参戦車両まで、さまざまなシーンで好成績を収めてきた。
そして、その活躍を知ったユーザーからは“憧れのエンジン”として一目置かれる存在となり、日産・RB26DETコンプリートエンジンなどは競技向けではなく普段乗りのユーザーが多かったのだとか。
トヨタ・2JZ-GTEエンジンの排気量をアップするキットは、D1グランプリやフォーミュラドリフトなどドリフト競技を中心に現役で活躍中だ!
また、競技車両で活躍している、トヨタ・2JZ-GTEエンジンを3 ℓから3.6 ℓへとの排気量アップさせるストローカーキットには、「当時参戦していたドリフト競技で勝てなかった悔しさから意地になって開発したもので、会社からは『本当に売れるのか!?』とかなり反対されたんです」という開発秘話も。
こうしてお話を伺っていると、常にユーザー、そしてその愛車を預かるプロショップの目線に立って『自分が使いたいと思えるパーツ』を作り続けてきたことが伝わってくる。
ネオクラシックカーブームの到来と、今後の展望
現在、そんな東名パワードが力を入れているのが、1980~1990年代に発売された通称『ネオクラシックカー』と呼ばれる世代の車両に搭載されていたエンジンに関連するパーツだという。
昭和後期から平成初期に人気だったスポーツカーたちは、四半世紀以上の時を経た今でも愛車精神の高いユーザーによって大切に乗られているケースが多い。そして昨今の旧車ブームによって、その市場はかつてないほどの盛り上がりを見せている。
そして、そのいっぽうで、純正部品がどんどん手に入りにくくなり『動かしたいのに直せない』というクルマも増加の一途を辿っている。
「廃盤になっていたAE86の4A-Gエンジン用パーツを復活させたり、1JZ-GTEやRB25DETなどのパーツを新たに開発したりと力を入れていますよ。また、ちょっとマニアックな話になってしまいますが、加工済みのシリンダーブロックをもう1度使えるようにしたり、シリンダーブロックを延命させたりできるサイズ設定のピストン開発なども進めています。生き残っているクルマや部品を、できるだけ長く、1台でも多く残していけたらと試行錯誤しています」
そんな取り組みの一方で、グッズ販売やeスポーツ大会への参戦もおこなっている東名パワード。その意図についても伺ってみた。
「次の世代に『東名パワード』という名前をいかに知ってもらうか、数十年先にロゴマークを残せるか、という取り組みのひとつですね。最近、免許をとったウチの息子が東名パワードのステッカーを貼ったクルマやバイクでツーリングに行くと、年配の方に声をかけられるそうなんです。そうやって、ブランド名やパーツを通じて知らない人とも交流できるのって、なんというかクルマ好きの原点じゃないですか。だから、クルマに乗っていない若い世代やゲーム好きな人など、少しでも多くの人に知ってもらえたらいいなと思っているんです」
本物のアジャスタブルカムギアを使った置き時計や、強度と耐圧荷重を備えた『松本産業』製のコンテナボックス、工具箱メーカー『東洋スチール』とコラボした本格ツールボックスなど、オリジナルグッズもこだわりがたっぷり
そんな里井氏の、そして『クルマ好き』『チューニング好き』が集まって設立された東名パワードのマインドが現れているのが、雑誌広告やオリジナルグッズにも使われているキャッチフレーズ『走ろう』。
「やっぱりクルマは気持ちよく走らせてナンボでしょ」
愛車のエンジンが持つポテンシャルを引き出し、快音を響かせながら走らせる。
その楽しさを、東名パワードはオーナーと共有し続けていくことだろう。
取材協力:東名パワード
[GAZOO編集部]
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