『無いモノは造れ』。情熱と「岡﨑マインド」が生むオーエス技研の職人魂・・・カスタマイズパーツ誕生秘話
1973年、創業者である岡﨑正治氏によって『岡﨑スピード技術研究所』、通称『OS技研』が創業される。当初は、市販のオートバイや自動車のエンジンをチューニングする傍ら、ライフワークでもあった内燃機関の理論と技術を磨き続け、1972年には理想とする『とにかく燃焼効率の良いエンジン』を追い求めて高回転&高出力のオリジナルエンジン開発をスタート。
そして2年後の1974年には試作1号機の『TC16-MA』が完成。翌1975年には『TC16-MAⅡ』の市販化にこぎつけた。
そして『無いモノは造れ』という情熱と『何でも、やってみんことにはわからんじゃろ』のスピリッツを持ち続けた岡﨑氏は、1988年に『オーエス技研』を設立した。ここでは、そんなオーエス技研が取り組んできたアイテムの数々、そして歴史に触れていきたいと思う。
高性能を追求した結果たどりついた「エンジンを造る」という選択肢
1975年に市販された『TC16-MAⅡエンジン』を搭載したバイオレットが、1980年の第2回全日本オールスターダートトライアルにおいて『モンスター田嶋』こと田嶋伸博選手のドライブで総合優勝を果たす。その名声はすぐにモータースポーツ界に響き渡ることに。
並行して開発が進められていた、6気筒DOHC 24バルブのシリンダーヘッド『TC24-B1』の開発にも成功。販売を開始することとなった。
「マスキー法の制定によってさまざまな制限が科せられた時代に、ただひたすらに“高性能なエンジン”を求めて作り上げたのがTC24でした。当時は独自に作ったエンジンを搭載して走らせることができるカテゴリの競技が少なかったため、このエンジンを搭載して走ることができる場を求めて海外のサザンクロスラリーや北米ラリーに参戦したそうです」と教えてくれたのは、2016年に岡﨑氏の跡を継いで取締役社長に就任した何森行治氏。
35年前に「お前がウチに来るなら工場を建ててやる」と岡﨑氏から誘われ、工場長としてオーエス技研に入社したという何森氏。以来、さまざまなアイテムの開発に携わってきたというが、どの製品においても、苦労した点はおなじだったという。
「ウチには昔から『岡﨑レギュレーション』というのがありまして、できあがった試作品を持っていくと『もっと良くできないのか』『その限界は誰が決めたんだ?自分で限界を決めるな』と叱られたものです。だから常に妥協は許されないんですよ(笑)。そうやって妥協なくモノを作っていれば、使いたいと思ってくれるひとがいるんだ、と。そういう考え方を貫いてやってきたものですから、オーエス技研には営業がいないんですよ」
オーエス技研では、それぞれの製品を作る担当者が、その製品の企画から製造販売までを担っているという。「誰よりもその製品に詳しいし、自信を持って商品について説明することができますからね」と何森氏。
ハイパワーを活かすために作られた駆動系パーツ群
1982年、米国のネバダ州で開催されたSCCAプロラリーで、280Zに『TC24-B1』を搭載し参戦。田嶋伸博選手の手によって外国車クラスで3位入賞する。
いっぽうで、これらのレース経験から『クラッチが滑っては、せっかくのエンジンパワーが活かし切れない』と判断。レース活動でのノウハウを活かして、ハイトルク対応型となる多板式レーシングクラッチの開発、製造が開始された。
それまで、クラッチ強化と言えば、純正をベースにクラッチカバーやクラッチディスクを強化品に交換するしかなかったが、オ-エス技研ではフライホイール、カバー、ディスクをセットとして開発。その許容トルクの拡大はもちろん、バランスや耐久性も申し分のないものに仕上がった。このように、クラッチだけでなく、フライホイールまで車種別で設定したキットとして販売したのも、オーエス技研が業界初だったという。
そして、そんな強化クラッチは、国産車のエンジンパワー競争によって自主規制いっぱいの280psを発揮するクルマが群雄割拠した1980年代後半から1990年代にかけて、オーエス技研の屋台骨を支える大ヒット商品となったのだ。
特にスポーツ走行で、効果テキメンとなるのがLSD(リミテッド・デファレンシャル・ギヤ)の装着。独自の設計でレース用だけでなく、街乗りで扱いやすいモデルも開発された。
そしてクラッチと並ぶオーエス技研の人気商品であるL.S.Dについても、ヒントを得たのは競技車両だったという。
「ある日、岡﨑といっしょに全日本ツーリングカー選手権で走っているグループAのBNR32を見ていたときに『どうしてあんなに縁石に乗り上げながら走っているんだ?』という話になったんです。そこで調べてみると、どうやらハイパワーに耐えるようにL.S.Dのイニシャルトルクをすごく高い状態にして使っているため、コーナーが曲がりにくい、とのこと。それを聞いた岡﨑が考えて設計したのが、スーパーロックL.S.Dでした」
これまではプレートの枚数によって効き具合を調整する仕組みだったL.S.D.に、バネを組み込むことで低速時にはL.S.D.が作動しない構造を実現させたのだった。
1997年に特許を取得し、2000年に製品化を実現したこのアイテムは、レース車両だけでなく『街乗りの交差点などでLSDがバキバキ効くのは嫌だ』というユーザーにも好評を博し、看板商品のひとつとなったという。
妥協を許さない『岡﨑レギュレーション』が人気製品を生み出す
1996年に発売された、スカイラインGT-R用のコンプリートエンジン『RB30』の想定馬力は1200~1300ps。そのパワーを真正面から受け止められるミッションは国内に存在せず、外国製品に頼らざるを得なかった。しかし舶来品となると、迅速な部品供給が難しく咄嗟のトラブルに対応させるのは困難…そんな状況に「それならば作ってしまおう」と、1998年にリリースを開始したのが1500psを許容する『OS-88』ミッションだった。
1500psまで対応するRB26DETT用の6速シーケンシャルミッション『OS-88(写真左)』。7速シーケンシャルで最大トルク60kgmまで対応する『OS-FR7(写真右)』や、最大トルク90kgmまで対応するシーケンシャル5速の『OS-FR5』も用意される。
それから約20年後、軽量なFRタイムアタック車両向けに、国内初となる7速シーケンシャルミッション『OS-FR7』を発売。ほぼ同時期に、5速のシーケンシャルとして許容トルクを1.5倍にすることで、ドリフト競技にも対応できる『OS-FR5』もリリースした。
このように、オーエス技研の常に最先端の技術を盛り込みながら『無いもモノは造れ』というスピリッツは、常に活かされている。
常に進化を追求する『オーエス技研』のこれから
こうしてハイパワーエンジンやそれに対応する駆動系パーツなどを次々と手がけてきたオーエス技研だが、そのユーザーはレーシングカーやスポーツカーに止まらない。
「たとえばL.S.Dはハイエースやキャンピングカーのお客様にもたくさん使っていただいています。直進安定性が増すので運転がラクになることや、作動音が静かで普段も気にならないことなどがメリットなんです。こういった我々が予想だにしなかった需要も“いいモノを作れば使ってくれるひとがいる”という信念を貫いてきたことが奏功した結果ですかね」
また、そんなオーエス技研の『岡﨑マインド』を、SNSや動画で自ら発信して伝えることができる時代になったことも大きな変化だったという。
「5年前にYouTubeチャンネルを立ち上げて、製品に関する思いや考え方をアップしているんですが、それによって共感していただけるお客様が増えたと実感しています。私たちの生産能力ではどうしても納期が長くなってしまうことがあるのですが『オーエス技研の製品を使いたいから待つよ』と言っていただけるお客様もいらっしゃって、本当に嬉しいです」
これまでの自社開発主義から、OEM製品やグッズ販売などにも着手。既存製品も含めて『OSファクトリーライン』というオンラインショップでも販売を開始するなど、販売方法も拡充を図っている。
いっぽうで「岡﨑から私にバトンタッチしてからは『変えてはいけない部分』と『変えなくてはいけない部分』を意識しています」と何森氏。
製品のクオリティを常に進化させる『岡﨑レギュレーション』は継続しつつ、それまでは『自分たちで作ったものしか売らない』だった方針からオイルや圧力センサーなど『いいモノであれば自社製にこだわらず販売する』ようになったのだという。
「現在、開発に力を入れているのは旧車向けのアイテムです。L型エンジン用のプラグコードやEG/EK型シビックのピニオンギヤなど『手に入らなくなると困る』という声のあるパーツを製品化していこうと考えています。ピストンも、通常はセット販売のところが多いですが、ウチは1個からオーダー生産に対応しているので、困った時の駆け込み寺みたいなかんじで頼っていただけることもあります。『ないモノは作れ』がモットーですからね」
機能維持のためのパーツ入手に危機感を感じている旧車オーナーにとっては、なんとも心強い言葉ではないだろうか。
「発売当時は9基しか売れなかったTC24エンジンですが、現在はバックオーダーが数年待ちというありがたい悲鳴をあげている状態です。ほかの製品に関しても『OS製品が欲しいから待つよ』と言っていただけるお客様が多くてありがたいです。岡﨑の『良いモノを作れば、わかってくれる人がいる』という考え方を貫いてきたことが、実を結んでいるのだと思います。これからも、オーエス技研は『岡﨑スピード』のマインドを持ち続けていきますよ」
『売る努力より、いいモノを作る努力』
オーエス技研の製品は、これからも常に進化し続けていく。
取材協力:オーエス技研
[GAZOO編集部]
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