メイド・イン・愛知にこだわった『ユーザー第一主義』のBRIDEシート・・・カスタマイズパーツ誕生秘話
自動車レーシングスポーツのスペシャルカーシートメーカー『BRIDE(ブリッド)』は、1981年1月1日に愛知県で産声を上げた。
創業者である高瀬嶺生氏は、20代の頃に整備士や自動車パーツを扱う商社勤めを経て30歳で独立。「ニッチな需要の自動車用アフターパーツなら小規模な体制でスタートできる」と考え、エアロパーツやブレーキ、サスペンションなどさまざまな選択肢があったなかで、当時はまだあまり一般的ではなかった自動車用シートの製造販売をスタートさせたという。
乗員の体を支え、疲労感も低減させるシートメーカー『BRIDE』とは
1980年代、モータースポーツ人気が盛んになり、それに参加しようとするクルマ好きも激増した。とくに若者の間では自分の愛車を持ち出してスポーツ走行することが一大ブームとなり、それに伴ってスポーツ系パーツの需要も高まっていった。
「当時、ラリーやジムカーナなどが流行しはじめていて、そういった競技車両向けのアフターパーツ需要もどんどん増えていました。そんななかで『シート』を選んだのは、国内にまだライバルがいなかったことと、シート自体はどんな車種にも装着することができる汎用品なので開発コストが抑えられると考えたからです。
ちなみに最初に発売した『GT』と、その次に発売した『EX』はフルバケットシートではなくリクライニングタイプのシートだったんですよ。その後、当時もっとも参加しやすくて人口の多かったジムカーナ用のエントリーモデルとして競技用リクライニングシート『Pro』を発売しました。手の届きやすい価格帯で発売したこともあって、競技をしないユーザーの方にも使っていただけるようになりました」と高瀬氏。
その後もフルバケットシート『Pro-R』を発売し、1991年には全日本ダートトライアル選手権参加車両の中でシェアNO.1を獲得するなど、着実に成長を遂げていったという。
1985年にはブリッドのバケットシートに『BRIDE』のロゴがグラデーションとなったスポーティな生地が使われるようになる。
また“ドリキン”の愛称で親しまれていたプロドライバー土屋圭市氏が自身の乗る愛車やレーシングカーにブリッド製シートを装着していたことも相まって、スポーツ走行愛好家たちが『これぞスポーツカーの身嗜み!!』と、こぞって装着するようになる。
「それまではエントリーユーザーが多かったのですが、土屋さんが使ってくれたことで上位カテゴリーでも使用されるようになりましたね」
また、予算の都合で直ぐに購入できない人達も憧れを抱く存在となった。
『ブリッドのシートを装着したら、サーキットでのスポーツ走行では今までにない安定したドライビングポジションで、運転に集中できるようになった』そんな声が広まり、“日本にブリッドあり”といった知名度とステイタス性はすぐに広まっていった。
車検も安心のバケットシートが業界を席巻!
そんなブリッドが創業当時から変わらず掲げているのが『お客様第一主義』だ。
「創業時からずっと参加型の競技に力を入れてきたのですが『より快適で、より楽しく、より安全にドライビングするためのシート』というコンセプトのもと、目先の利益を追うのではなく、常に現場主義で選手が求めるものを作るように心がけています」
そしてもうひとつのこだわりは、『メイド・イン・愛知』ということ。製造業界ではコストを削るために生産拠点を海外へと移す企業もあった中、乗員の安全が最優先となるシートの品質管理を徹底し、ユーザーのニーズに細かく対応することができる国内生産にこだわったのだ。
BRIDE製品は『シートバック後面衝撃試験』『ヘッドレストレイント前方衝撃試験』『ヘッドレストレイント静的試験』『座席及び座席取付装置試験』『座席ベルト取付装置試験』『難燃試験』の6項目で構成される保安基準試験をクリアし、その証明書を全国の運輸局や運輸支局に提出しているため、車検時にも安心。
「ウチが誇れることは2つあって、ひとつは保安基準適合確認書類を国内で初めて運輸支局に持ち込んだことです。つまり、車検対応書類の雛形を作ったんです。そして、もうひとつは、日本ではじめてFIA公認シートを発売したことです。これによってWRC車両などでも使ってもらうことができるようになりました」
『モータースポーツイズライフ』を掲げ、参加型競技に力を入れてきたブリッドは、ストリートからトップカテゴリの競技まで、幅広く安心して使えるシートを取り揃えている。現在のアイテム数は80、シートレールの対応車種は800を超えるという。
シートを進化させ続けていく事の意義
ブリットのバケットシートは、数年毎に新シリーズが発表され、また既存モデルをバージョンアップするなど、進化の手を止めることはない。
それは肌と接する部分の質感であったりホールド感であったり、リクライニングタイプであればアジャスターの使い勝手、ヒンジ部の剛性感など、あらゆる面が進化していることに毎度驚かされる。
スポーツタイプのシートであれば、レーシングドライバーからのインフォメーションだけでなく、一般ユ-ザーからの声もしっかり聞くということを大切にしているブリッド。コンフォートタイプのシートでも同様、ユーザーの目線を忘れない。この一貫したこだわりがブリッドのシートが人気となっている所以であろう。
土屋圭市氏とのコラボモデルや、デザイン&素材のバリエーションなど、ユーザーの注目を集める新作アイテムを、年間を通じてリリースする。
また、性能面だけでなく、カラーバリエーションや素材の違い、さらにはさまざまなコラボレーションモデルなど、ユーザーを飽きさせないペースで新製品がリリースされるのも特徴のひとつ。
これもユーザーの声を直に聞き、すぐに反映させることができる国内生産のスピード感が生きている部分だろう。
「お客様の声を知ることが一番大事だと思っているので、週末はかならず何かしら現場に出かけるようにしています。ちなみに数年前からお酒もタバコもゴルフもやめて、最近は仕事だけに集中しているんですよ」と高瀬氏は笑う。
スタンダードモデル『ZETA Ⅳ』をベースに、先代モデルのクラシカルなデザインを融合させた『ZETA Ⅳ CLASSIC』(写真右)。先代モデルのデザインを踏襲しつつ、背面シェルをハーフカバー化してシートバックプロテクターがなくても車検対応とするなど、ユーザーの声を反映したことで人気となっている新作だ。
プレミアムモデル『edirb(エディルブ)』の誕生
2013年。『ブリッド』ブランドに続いて、ラグジュアリー路線となる『edirb』シリーズが立ち上がる。そのコンセプトは『ワンランク上のプレミアムスポーツシート』である。
表皮には新素材となるプロテインレザーが採用され、これまで以上に質感の高いシートとなった。その品位あるビジュアルは高級車やプレミアムスポーツカーにもマッチし、ブリッドのシートを知らなかった新しいユーザー層からの注目も集めた。
登場から10年を経て、サーキット用のクルマには『BRIDE』を、普段乗りのクルマには『edirb』を装着するといったユーザーも見かけるようになった。どんなクルマにでも、どんな人にでも届けることができる、ブリッドの豊富なラインアップはとても魅力である。
ちなみに『edirb』ブランドの意は、『BRIDE』を逆さまから読んでみてほしい。そんな遊び心を忘れてはいないのもブリッドが愛され続けている所以だろう。
ちなみに『edirb』ブランドそして2024年の東京オートサロンでは伝統的工芸品『西陣織』の技術を用いたカーボン素材をシェルに採用したハイエンドモデルを発表。性能はもとより、最上位クラスのエレガントさ、高級感、存在感を併せ持つモデルとして、すでに多くのオーダーがあったという。
新たなフィールドへの挑戦と今後のさらなる展望
カーシート専門のメーカーであるブリッドだが、そのフロンティアスピリットはまだまだ留まることを知らない。
例えばサッカー等の試合が行なわれるスタジアム&アリーナ用のシートの開発を推し進め、数多くのアリーナや劇場などで展開するに至っている。また、オフィス&ホーム用としてのラインアップや、クルーザーやプレジャーボート等のマリンスポーツ用にと、他業界への進出にも積極的にアプローチしているのだ。
「今年、シートレールをもっと深掘りするためにR&D部門を新たに立ち上げました。それから、これまでアナログだった社内業務のデジタル化によって、さらにお客様対応のクオリティなどを向上させようと改革中なんですよ。詳しくは言えませんが、もちろんシートに関する新しい動きも続けているので、ぜひこれからもブリッドにご期待いただきたいですね」
「これからクルマが電気自動車などにシフトしていったとしても、座席がなくなることはないですよね。そんなクルマでいかに快適に座って移動することができるか?なども考えていくことになると思っています。また、着座センサーやシートヒーターなど、どんどん多機能になっていく純正シートへの対応も必要不可欠なテーマとして取り組んでいます」
ブリッドが考える『お客様の満足』というコンセプトは普遍的なものである。
「ブリッドが創る、走る歓び」「Make the sitting happy(座る人を幸せにする」
各界でそれを証明していくために、この先のブリッドも実直でフレキシブルな展開を見せてくれることだろう。
取材協力:ブリッド
[GAZOO編集部]
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