業界随一の『電脳集団』BLITZが魅せるチューニングパーツの妙・・・カスタマイズパーツ誕生秘話
庶民でも気軽にクルマが持てる。そんな本格的なモータリゼーションが訪れていた1980年に設立された『ブリッツ(BLITZ)』。
創業当初は、自動車用ハイパフォーマンスターボチャージャーをはじめとした、チューニングパーツ販売を中心とした事業を展開。その核ともなる、ドイツ・KKK社のタービンを使った『ブリッツターボキット』を装着したチューニングカーが大きな話題となった。
時を同じくして、国内外のクルマは燃料の噴射システムがキャブレターからインジェクションへの変革期を迎える。その制御にはコンピュータが用いられ、これを完全攻略しない限りはエンジンチューニング云々どころではないという時代に突入していったのだ。
新車販売台数に比例するように、愛車をカスタマイズしたいと求めるユーザーも増えていった時代に、いち早くアジャストして業界をリードしてきた前衛的なメーカー『ブリッツ』の歴史に触れていきたいと思う。
『極限の走行ステージ』を知っているからこそ生まれる信頼のパーツ群
「ブリッツという社名はドイツ語の『稲妻』が由来なんですが、ドイツのKKK社製ターボチャージャーを輸入して、日本車に装着できるようなハイパフォーマンスターボキットとして発売していたのがはじまりです。実は当時のターボチャージャーは現地ではパワーボート用などとして発売されていたものだったんですが、モータースポーツが主流で市販車をカスタマイズするという文化がなかったドイツ側からすると『どうしてコレをクルマに装着するんだ?』という反応だったようです」
創業当時についてそう教えてくれたのは、ブリッツの広報担当である小林潤一氏。
KKK社製ターボチャージャーのほかにも、カールシュミット氏によって設立されたKolbenschmidt社のピストンなど、ドイツ製レーシングパーツの輸入販売も並行しておこなっていたという。
最高速テストでは300km/hを超える領域で自社パーツの性能が試される(写真左) 。1997年のドイツ・ニュルブルクリンクでは、当時ストリートカー最速となる7分49秒をマークした(写真右)。
1980年代後半に入ってくると、ターボ車チューニング市場が勢いを増してくる。KKK社のタービンを扱っているブリッツも活況となるが、より多くのユーザーにその魅力を伝えるべく、数々の新製品開発で多忙を極めていた。
寝ても覚めてもテストが繰り返され、その合間に自動車雑誌が主催する記録会にも参加するというハードスケジュールが、それこそ10年単位の長いスパンで続いていったという。
しかし、クルマにとって極限状態となる走行テストで得られるデータはとても重要で貴重なもの。パーツ開発段階でのウイークポイントが明確化され、そのデータはより高い製品クオリティのために反映されていった。そうして世にリリースされた製品は、カーマニアを心から満足させてくれる逸品となっていったのだ。
東京都西東京市に本拠を置くブリッツ。敷地内やピットには常にさまざまなジャンルの新型車が並び、日々開発が行われている
自社のパーツがテストされる走行フィールドは多岐に渡った。最高速やドラッグレースでは最高馬力はもちろん、トルクフルなエンジン特性も加味しないといけない。こと最高速では、高負荷の状態が長時間続くというタフな条件となるので、十分な耐久性が備わっていないと勝負にならない。
こうした様々なファクターを結実させるべく、各フィールドで地道な努力を重ねてきたからこそ、誰からも信頼されるカスタマイズパーツメーカー『ブリッツ』の今があるといって間違いないだろう。
『電脳集団』が作るユーザーをワクワクさせてくれる電子系パーツたち
電子系パーツの黎明期とも言える1990年代に入ると、ターボ車チューニングの台頭によって、ブースト圧の精密なコントロールが必須となってきた。
それまでは手で回すダイヤル式の“機械式ブーストコントローラー”が多く使われていたが、それを電気式とした『E-SBC』(ELECTRIC SCRAMBLE BOOST CONTROLER)をリリース。LoモードとHiモードの2chが設定でき、スクランブルモードでは引き上げたい過給圧値と、その時間の長さまで設定できる機能を盛り込んで大ヒット商品となった。
このSBCシリーズは、今日まで33年の間にも進化をし続け、2024年現在では14代目となり、現在でも人気のブーストコントローラーとなっている。
その他、チューニングECUをはじめ、パワーアップできるスロットルコントローラーの『パワスロ』や、完全カプラーオンでパワーアップする『パワコン』、そして『OBDモニター』に『レーザー&レーダー探知機』などなど、ユーザーが“あったら良いな”と思える電子系パーツを続々とリリースしている。この勢いが数十年も続いているというのだから、ブリッツが『電脳集団』との異名を取ることに異議を唱える者はいないだろう。
「ブリッツの電子パーツは、ただ機能が優れているというだけではなく、スケルトン仕様のケースを使ったり、ふたつのアイテムを赤外線通信で繋ぐ機能をいち早く導入したり、モノクロからカラー液晶にしたりと、企画段階から流行や遊び心も取り入れるように心がけているんです。開発チーム側の『そんな機能は必要ないのでは?』に対して『でもこうしたらユーザーさんが興味を持ってくれるはず』という販売チーム側のやりとりは、昔からず〜っと繰り返し続けていますね(笑)」と小林さん。
たとえば、現在ではごく一般的になった電子制御スロットルのコントローラーシステム『スロコン』も、セルシオのスーパーチャージャーキットを作っている際に『もっと低回転域のレスポンスを向上させられないか?』と考えた末、電子制御スロットルの開度を変更するという手段を思いつき『これって他の車種でも応用できるのでは?』という遊び心から生まれたアイテムだという。
アクセルペダル操作に対してのスロットル動作を変化させるアイテムであり、ピークパワーが向上するわけではないため当初は『そのパーツって意味あるの?』と言われたそうだが、結果としてはブリッツを代表する大ヒット商品となったのである。
性能面だけでなく『買ってよかった』と思えるアイテムたち
クルマに求められる基本性能は『走る』『曲がる』『止まる』の3つ。そしてユーザー側の要求として、個性を主張する『見た目』や『排気のサウンド』なども重要なファクターとなってくる。これらの要素を『よりスポーティに』とか、『よりゴージャスに』といったようにスープアップしていくのがカスタマイズの醍醐味である。
ブリッツでは、そんなオーナーからの要求に応えるべく、パワフルさを味わうためのタービンキットをはじめ、心地良い排気音を嗜めるマフラー、快適に走るためのサスペンション、安全に止まるためのブレーキシステム、そしてエクステリアを彩ってくれるエアロパーツなど、とくに人気車種となれば、数多くのカスタマイズパーツを用意している。
そんなブリッツの製品群の中でも特に『売れた』というのがブローオフバルブ。
「アクセルオフ時に過給器で圧縮された空気が逆流してタービンに負荷をかけるのを防ぐための機能パーツなのですが、ブリッツでは『スーパーサウンドブローオフバルブ』という製品名の通り、サウンドにもこだわりました。これも『音の大きさは関係ないでしょ?』という意見を押し切って発売したアイテムですね」
機能や性能だけにこだわるのではなく、カスタムすることで味わうことができる変化や楽しさ、満足感などまで考え抜いた『誰でも楽しめる』製品作りがブリッツの信条でもあるというわけだ。
ニュルブルクリンクでの挑戦を機に発売された『ニュルスペックマフラー』や、現在も定番アイテムのエアクリーナー『SUSパワー』など多彩なパーツラインアップでカスタマイズ需要に応えるブリッツ。創業者の山口純一氏がホイール問屋も経営していたことから、総合パーツメーカーの中でも珍しいオリジナルホイールもラインアップしていた
多くの車種でカスタマイズが楽しめるようにと、スポーツカーだけでなくミニバンやセダン、SUVにコンパクトカーまで各種パーツを揃える
カスタマイズパーツ総合メーカー『ブリッツ』の未来
2010年から発売しているサスペンション『ダンパーZZ-R(ダブルゼットアール)』も、ブリッツの製品作りを象徴するアイテムのひとつ。
「それまでは他メーカー製の高性能サスペンションを仕様変更したハイエンドモデルを扱っていたんですが、より多くの方に使っていただけるように、手の届きやすい価格で、普段乗りの快適さを保ちながらスポーティーな走行性能や車高調整を実現できるストリート用車高調へと大きく舵取りを変えました。もちろん、安全性や耐久性に関しては、これまでさまざまなチャレンジで積み重ねてきたノウハウなども活かして作り上げていますよ」
この方針転換が功を奏し、現在ではブリッツを支える看板商品となっているそうだ。また、性能面はもちろんルックス的な効果も狙ったブレーキシステム『ビッグキャリパーキット』も、スポーツカーはもちろん、ミニバンやSUVでも愛用者が増えているという。
ドリフト競技『D1グランプリ』や、最近では『MF ゴースト』といった若者の注目が集まるコンテンツにも注力。「どこかで『このロゴを見たことがある』という若者が増えれば、自社はもちろんクルマ業界やカスタマイズ業界に興味を持ったり就職したりしてくれる若者も増えてくれると思って活動しています」と小林氏
「昔はマフラーやエアクリーナーを交換すれば簡単にパワーアップが体感できましたが、現在のクルマはそう簡単ではなく、安易にパーツを変えると純正よりも性能ダウンしてしまうことも多いんです。ブリッツは昔から『最低でも純正以上』を基準に、さまざまなテストを経てパーツ開発をおこなっていて、そのこだわりは一貫しています」と小林さん。
クルマの電子制御化が本格的に始まって約40年。近年ではエンジンコントロールだけに及ばず、ブレーキシステムや快適装備など、あらゆる部位にネットワークが張り巡らされ、何か異常は無いかといった“監視”までしてくれるほどに進化。その進化のスピードは早く、もはや電子制御なくしてクルマは語れない時代なのだ。
そういった時代だからこそ、とくにカスタマイズ志向のユーザーにとっては『電脳集団・ブリッツ』の開発力に期待が向けられる。
日産のBEV車『ARIYA』にエアロパーツやホイールを装着したデモカーなど、多様な新型車にも対応。最近注力しているレーザー&レーダー探知機においても、アイドリングストップ時間やハイブリッド車のモーター回転数まで表示できるなど本来の機能以外の遊び心も忘れない
「最近よく聞かれる電気自動車やハイブリッドカーに関しては『将来どうなるかはわからない』というのが正直なところです。でも、だからこそ、そういったクルマも乗ってイジってみながら『何が求められるか?』を日々考えています。たとえば電気自動車のモーター回転数や電圧を表示してみるとか、充電中の待ち時間に楽しめるエンタメが用意できないかとかね。とにかく、買ってよかったと喜んでいただける製品をこれからも作っていきたいです」
今までも難儀な課題を突破して、新機軸の製品が発表される度に『そういうこともできるんだ!』と、ユーザーの心を躍らせてくれたブリッツ。2025年で創立45周年を迎える今後の動向にも要注目だ。
取材協力:ブリッツ
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