本物のクルマ好きが創り出す『速さ』に拘ったTRUSTチューンドのスピリッツ・・・カスタマイズパーツ誕生秘話
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1983年頃、千葉県千葉市都町にあったトラスト本社。現在は千葉県山武郡芝山町に本社を置く
時は1960~70年代。クルマはまだまだ高尚なアイテムであったものの、クルマを趣味とする愛好家も徐々に現れはじめ、国内外のスポーツカーやモータースポーツに強い興味を示したり、カスタマイズに精を出す者も続々と出現してきた。
中にはクルマ好き、しかも“スピード”に熱狂する仲間が集まって、自分達のクルマに装着するパーツを作ってはレースに参戦する強者も存在し、同じ趣味を持つライバル達と鎬を削っていた。そんな渦中で奮闘していたのが、やがて『トラスト』を起業することになる面々である。
トラストの代名詞とも言える、入魂のエキゾーストパーツ
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排気系パーツに、まだステンレス材が使われてなかった時代。トラストの排気系パーツと言えば、このトラストブルーに染められたエキゾーストマニホールドがその象徴であった
1977年に早川正満氏、人見隆作氏、大川光一氏の3人が中心となって設立されたチューニングパーツメーカー『TRUST(トラスト)』。
『信頼・共同体』を意味する名前を掲げ、造り出されるパーツの数々には製品精度はもちろんのこと“性能向上”が命題とされ、日夜研究・開発が続けられた。
まず取り掛かることになったのは、エキゾーストマニホールドやマフラーなどの排気系チューニングパーツ。パワーアップだけでなく、心地良いエキゾーストノートまでも体感できるとあって大きなムーブメントが形成され、高い評判と併せてトラストというブランド名はアッという間に全国区へと広まっていったのだ。
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1990年に新卒でトラストに入社した広報担当の川島徹さん。開発部門に配属、製品開発を行いつつ最高速テストや性能試験などにも帯同して経験を積んできたという。ちなみに入社当時の愛車は「トラストのデモカーに憧れて買った」という真っ赤なマツダ・RX-7(FC3S)で、はじめて自ら開発を担当したパーツが商品化されたのはマツダ・RX-7(FD3S)用インタークーラーキット(純正交換タイプ)だったそうだ
「千葉出身でクルマが大好きだった自分は、トラストの求人情報を見つけて『地元の有名ブランドで働いてみたい!』と応募したんです。入社日に会社の前に当時発売されたばかりのスカイラインGT-R NISMO(BNR32)が3台も並んでいて『すごいところだ!』って興奮したのを覚えています」
そう振り返ってくれたのはトラストの川島さん。整備士資格を持つ開発担当として入社し、10年ほど前から広報を担当している。
「仕事が終わると会社で自分のクルマの整備や洗車をはじめるような先輩ばかりで、だれかが何か始めるとみんなが集まってきて一緒にワイワイ作業するような職場でしたね」という川島さんの思い出話からは、本当にクルマが大好きなメンバーが集まっている会社だったことが伺える。
『全日本F2選手権』と双璧を成していた、国内レースのトップカテゴリー『全日本スポーツプロトタイプカー耐久選手権』にポルシェ956で参戦。世界各国の強豪を招いて開催されたWEC第3戦でも3位表彰台を獲得してみせた。その後も『日石トラスト ポルシェ962C』などで活躍を続けた
そもそもはカーレースがしたいという一心で、時間的な規制があるサラリーマン稼業ではなく、時間的な拘束がない自営業という道での人生を模索していたトラスト創業者の面々。
アフターパーツメーカー、トラストとしての商品を続々とリリースしながら、並行してレース活動でも奮闘を続けていた。
そんなレース活動の中でとくに際立っていたのが、グループCカーであるポルシェ956を購入し、1983年から始まった全日本スポーツプロトタイプカー耐久選手権への参戦だ。
藤田直廣選手とヴァーン・シュパン選手を擁し、チ-ムトラストから『トラストポルシェ956』でエントリー。
同年の成績は1位、1位と続き、第3戦の『世界耐久選手権レース(WEC) in JAPAN』では、ポルシェのワークスチームであるロスマンズポルシェ956の2台にこそ後塵を喫したが、見事に3位を獲得。この年のシリーズ優勝を決めた。さらに1987年からはポルシェ962Cにマシンをチェンジし、数々の輝かしい戦績を収めていった。
『思い切りカーレースがしたい』という強い想いを現実のものにして、そこでチャンピオンを勝ち取るという夢をも叶え、大きな解を迎えたわけだ。
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さまざまなカテゴリで活躍したトラストカラーのマシンたち
「こういったレースでのノウハウは、もちろん製品にも活かされています。たとえばグループ5でシュニッツァーセリカをツインターボ化して走らせていて、そのあとのセリカXXターボではトリプルターボなどもテストしていました。そして、その頃から蓄積してきた経験や知識を投入して市販パーツとして販売したのが、マフラーやエキゾーストマニホールドに続いて弊社の主力商品となった『ボルトオンターボキット』です」
『パワーのトラスト』というイメージを確立したターボキット
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ターボエンジン黎明期は、タービン交換するにも1台1台パイピングや取付け方法を試行錯誤。各チューナーの技量も問われる時代だった。そこで、車種毎のオールインワンで、大きなタービンの装着が容易となる『ターボキット』をリリース。爆発的なヒット作となった
1990年代に入ると国産スポーツカー市場が活況となり、中でもカスタマイズが好きなスポーツ走行派は好んでターボ車を選んでブーストアップやタービン交換といったチューニングを施してハイパワーを楽しむようになってくる。
そんなパワー競争と共に脆弱な部分を補強していく『強化パーツ』の需要が高まり、トラストからはクランクやコンロッド等のエンジン強化パーツやブーストコントローラーなど『ハードチューン』と言われるレベルの強靭なハイエンドパーツも続々と産み出されていった。
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ターボ車のパワーアップを支える画期的なアイテムとして一世風靡した『Rebic(レビック)』も、トラストを語る上で欠かせない
「ノーマルでは満足できないマニアのために開発された究極のターボシステムとして発売した『GReddy(グレッディ)』というブランド名は『Great(偉大な)』『Eddy(小さな渦巻)』を掛け合わせた造語なんです。そして、そんなターボシステムによるパワーアップをさらに限界まで突き詰めるために生まれたのが『Rebic』でした」
燃料のコントロールがキャブレターから電子制御へと移り変わり、パワーアップにはインジェクターから噴射できる燃料の量がキモとなりはじめた時代。日本国内においてターボチューンの先駆けとなっていたトラストの開発陣が考え出したのは「インジェクターを追加して噴射できる燃料を増やそう!」という方法だった。
そうして開発された燃料増量用補助インジェクターのコントロールシステム『Rebic(レビック)』もまた、パワー競争をさらに加速させる画期的アイテムとして爆発的ヒットを遂げたのである。
『最高速テスト』で磨かれたチューニングの技術とパーツ群
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新型フェアレディZもいち早くブーストアップをおこない、最高速テストに持ち込んだ
モータースポーツと並行して、トラストが注力していたのがチューニングの花形とも言える『最高速』というステージ。
当時、公道での最高速度が100km/hでしかない日本の道路事情を考えると、300km/hや320km/hといった超高速域を目指しての極限テストは浮世離れしたものと感じるが、当然これも無意味なことではなかった。
大規模サーキットのホームストレートでは、300km/h近い速度域までの加速が求められるようになっていただけでなく、速度無制限のドイツ、アウトバーンを始めとした環境下で高性能化が進む、世界のスポーツカー群に遅れを取るまいと、グローバルな視点を持ったチャレンジでもあったのだ。
そうして得られたデータによって、エンジン系パーツはもちろん、サスペンションやブレーキ強化の『GREX』、エアロパーツの『GRACER』など、数々のチューニングパーツを開発していった。
エキマニとマフラーからの船出であったトラストは、気付けば総合チューニングパーツメーカーとして国内のみならず世界にもその名を知らしめる存在となっていったのだ。
エンジンが持つポテンシャルを極限まで引き出すチューニング。毎週のように開催されていた各チューニング雑誌の最高速テストの場で、幾度ものエンジン内部パーツの強化や仕様変更をしてのトライ&エラーが繰り返された
「最高速テストや総合試験路での性能試験は、若手のころからよく連れて行ってもらいましたし、GReddy RX S-ROCというBCNR33のデモカーは、自分ともうひとりのメカニックが中心となって製作を担当させてもらいました。そういったデモカーが記録を出したり、自分が開発を担当したパーツが装着されているクルマに出会ったりすると、すごく嬉しい気持ちになりますよね」
「そうそう、昔とあるゲームにトラストのデモカーが収録されていたことがあって、ちょうどその車種のパーツは自分が開発担当だったんですよ。別にゲーム内で変わったところが見えたりするわけではないんだけど、付けられるパーツはぜんぶ付けてプレイしていました(笑)」と川島さん。
自分たちが作ったパーツが誰かの愛車に装着される……、そんな醍醐味を味わうことができるのも、この仕事の魅力のひとつなのだと教えてくれた。
若手の育成や新たなるチャレンジで挑む未来への道
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ストイックなイメージが強かったモータースポーツ界に、新たな風を吹かせたD1グランプリ(ドリフト競技)へも参戦。モータースポーツやトラストのファンだけでなく、若年層からの大きな反響や興味も引き付けた
『思い切りカーレースがしたい』という理念から始まったトラストの歴史。サーキットでのレースだけでなく、ジムカーナやダートトライアル等への参戦も盛んで、常に競技車の開発や製作と共に躍進してきた。
いっぽうで、レースやチューニングで楽しむコア層の年代が高まりつつあったことを懸念し、新たなる挑戦の場として選んだのがドリフト競技のD1グランプリだったという。
「自分たちの持つパーツや技術を活かしつつ勝ちを狙えるエンジンとしてVR38DETTを選び、車体も大きくて迫力のあるR35でいこうと決めたんですが、このチャレンジもトラストの歴史において大きな出来事だったと思います。免許を持っていない子どもたちにも知ってもらうことができたし、タッグを組んだトーヨータイヤさんのPR戦略を参考にしたり日産自動車さんとの繋がりが生まれたりと、新たな世界が広がりました」
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2020年から日産自動車とタッグを組んで『JEGT GRAND PRIX』に参戦するなど、eモータースポーツにも積極的に取り組んでいる
そうした繋がりが生み出したトラストの新境地とも言えるのが、20代の若者だけで構成されたカーレースゲームの精鋭『NISSAN×TRUST RACING』。実車のモータースポーツ経験者もいるが、大元を辿ればカーゲームの出身で、幼少期の頃から『競う楽しみ』を肌で感じていたメンバーで構成されているという。
昨今ではプロのレーシングドライバーでも、初めてのコースや苦手なコースでは、事前にシミュレーターを使って予行演習をするほどの時代となっていて、トラストではそんなレース適正のある人材の発掘や、育成にも取り組んでいるというわけだ。
アムクレイド走行会やトラストゼロヨンなど、気軽に参加できる走行イベントを開催してきたトラスト。2022年から新たに始めた『TRUSTユナイトミーティング』も、トラストやカスタマイズに興味のあるひとに気軽に参加してもらいたいイベントだという
さらにトラストでは、実際にサーキット走行を楽しんでもらえる機会を増やすために、全国各地で『アムクレイド走行会』を実施。初めてサーキットデビューする若者を応援している。
また、若手スタッフの発案ではじめたというユーザー参加型のイベント『TRUST ユナイトミーティング』は、デモカー試乗会や愛車コンテスト、e-sports体験会、フォトスポット撮影などを気軽に楽しめるとあって好評を博し、2024年10月13日には第3回目が開催される予定だという。
特にジムニーが人気だというコンプリートカー『GReddy PERFORMANCE EDITION』。ベースカスタムに加えて、自分好みの追加オーダーを依頼するオーナーさんも多いという
そして、あまり詳しくないひとでもチューニングやカスタマイズされたクルマを楽しめるようにと、トラストが新車をベースにお勧めのメニューを盛り込んだ『新車コンプリートカー販売』もスタート。WRXを皮切りにGR86、ジムニーなど車種展開も広げていったところ、トラストが製作するワークスカーが手に入れられるとあって目下大人気のプランとなっているのだ。
さらに、おなじく技術力と経験を活かして競技車両製作&サポートや旧車レストア&カスタムについての個別オーダーを受け付ける『GReddy FACTORY』も立ち上げたという。
多角的にユーザーのカーライフを楽しませてくれる『トータルチューンナップ トラスト』は、これからもカスタマイズの感動を味わうことができるクルマや製品を作り続けていってくれることだろう。
取材協力:昭和トラスト
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