スカイラインGT-RとGT-Rのさらに特別な存在に与えられた「スペック」・・・グレード名で語る名車たち
クルマは装備や機能の違いでいくつかのグレードが用意されます。中にはハイパフォーマンスなパワートレインを搭載した特別なグレードが用意されるモデルも存在します。そのグレード名やサブネームはモデル名とともに、クルマ好きの記憶に刻まれています。中にはグレード名やサブネームが後に車名になったものもありました。
本コラムでは多くの人の記憶に残るモデルをグレードから振り返っていきます。
特別なモデルだけに与えられた“GT-R”という呼称
プリンス自動車(当時富士精密工業)が1957に発売したスカイライン。1964年には2代目スカイラインにGT、1965年には2000GTが設定されました。GTはGrand Tourerの略。ロングドライブを快適に走れる高性能なクルマという意味が込められています。スカイライン2000GTのフェンダー部には赤い「GT」のエンブレムが付けられました。このことから、2000GTが特別なモデルだったことがわかります。
1964年の日本グランプリでスカイラインGTがポルシェ904を抜いて首位に立ったことは伝説として語り継がれています。
日産とプリンス自動車が合併した後に発売された3代目スカイライン(C10型/ハコスカ)では日産の技術の粋を集めたスカイライン2000GT-Rが誕生。ハコスカGT-Rは日本グランプリに参戦していたプロトタイプカー、R380のエンジンを市販車用に再設計したものを搭載。ツーリングカーレースで累計50勝を達成しました。
スカイラインは1972年に4代目(C110型/ケンメリ)へとフルモデルチェンジ。GT-Rは1973年に発売されましたが、S20型エンジンが昭和48年排出ガス規制に適合できなかったためわずか4ヶ月で生産終了になってしまいます。
GT-Rという特別な名が与えられたモデルに課せられた使命。それはレースで勝つことです。そして特別なモデルだけに、どのクルマにもその名が与えられたわけではありません。ケンメリGT-Rの生産終了後、GT-Rの名は1989年にR32型が登場するまで使用されませんでした。R30型の最強モデルはエンジンが直4だったためにGT-Rを名乗れずRSに。R31型には直6エンジン搭載モデルが用意されることになりましたが、専用エンジンではなかったためGTS-Rという名称になったと言われています。
“勝利”をグレード名に刻んだVスペック
1989年5月に発表されたR32型スカイラインGT-Rは、全日本ツーリングカー選手権での勝利を目的に開発されました。搭載されるRB26DETT型エンジンの排気量は2568cc。中途半端な排気量なのは、当時のグループAレギュレーションに合わせたからです。
R32型は標準グレードに加え、グループAのホモロゲーションモデルとしてGT-Rニスモが、1991年にはN1耐久レースでの使用を見据えたN1が発売されました。1993年2月にはマイナーチェンジを実施。この時に登場したのがVスペックです。
VスペックはVictory Specificationの略。文字通りレースで勝つための性能が与えられたグレードです。ブレンボ製のブレーキローターとブレーキキャリパー、225/50R17のBBS製ホイールが奢られました。
Vスペックは装備内容もさることながら、その名称が多くの人に響いたのではないでしょうか。同時期のスポーツカーだとトヨタ スープラはアルファベットの組み合わせ、マツダ RX-7(アンフィニRX-7)はタイプやツーリングといった文字とアルファベットを組み合わせたグレード名でした。
レースで勝つことが至上命題だったR32型GT-Rは、1990年に全日本ツーリングカー選手権でデビューをすると勝利を積み重ね、最終的には29連勝無敗という記録を打ち立てます。GT-Rが参戦するクラス1では、「どのマシンが勝つか」ではなく、「どのGT-Rが勝つか」を楽しみに観戦していました。
スペック(Specifications=仕様)はクルマ好きなら誰もが知っている言葉。それがビクトリー(Victory=勝利)と組み合わされることで、特別な意味を持ちました。名称がレースでの圧倒的な強さとオーバーラップし、人気グレードになったのだと思います。これ以降、GT-Rの特別なグレードやメッセージ性を持ったグレードには、「スペック」というワードが使われるようになりました。
R32型では1994年2月にVスペックIIが登場。Vスペックのタイヤが245/45R17に拡大されました。また、N1もVスペックN1、VスペックII N1として発売されました。
Vスペックは1995年1月にフルモデルチェンジしたR33型にも設定されました。ほかにもル・マン24時間レースへの参戦を記念したLMリミテッドやニスモが開発したコンプリートカー「400R」も話題に。
また、「大人のための高性能スポーツセダン」としてオーテックが開発したスカイラインGT-Rオーテックバージョン40th ANNIVERSARYも登場。ハコスカGT-R以来の4ドアGT-Rとして注目を集めました。“大人のための”は後のGT-Rで一つのキーワードになっていきます。
1999年1月にフルモデルチェンジしたR34型。こちらもベースグレードとVスペックを用意。そしてレース参戦用のベースモデルとなるVスペックN1もラインナップされました。2000年8月に発表されたマイナーチェンジモデルではVスペックに変わり、量産車初となるカーボンボンネットを採用したVスペックIIが登場しました。
そして2001年5月には新たなモデルとして「大人の感性を刺激し、大人のこだわりをも満足させる、もうひとつのGT-R」としてMスペックが登場。Mは“Man”や“Meister”を表します。路面の細かな凹凸により起こる微振幅高周波振動を抑制するリップルコントロールショックアブソーバーによるしなやかな乗り心地や熟練職人が一脚ごとに手縫い・張り込み加工を行った専用の本革シートによりプレステージ性が高められました。
2002年2月にはスカイラインGT-Rの最終限定車としてVスペックIIとMスペックにニュルが設定されます。ニュルは言うまでもなくGT-R開発の舞台となったドイツのニュルブルクリンクサーキットに由来する名称。GT-Rゆかりの場所の名前が付けられたのが“スペック”を冠するグレードに設定されたことからも、この名前が特別な存在であることがわかります。
時代を牽引するモデルとして“スペック”の名が復活
2002年にR34型スカイラインGT-Rが生産終了。2007年12月にR35型GT-Rが登場します。GT-Rのグレードには“エディション”というワードが使われますが、2009年2月にスペックVが登場。“スペック”という名称が復活します。
スペックVは「自分とクルマが一体化したレーシングライクな走りを求める人」がターゲット。バネ下の軽量化やカーボンセラミックブレーキなどにより戦闘力が高められたモデルで、歴代の“V”と同じようにVictoryを感じさます。
スペックVの後、しばらく“スペック”というワードは使われなくなりましたが、2021年9月に発表された2022年モデルで、特別仕様車としてプレミアムエディション Tスペックとトラックエディションengineered by NISMO Tスペックが設定されました。
プレスリリースによると『「T-spec」という名称は、「時代を導くという哲学」であり、GT-Rの在り方や、その時代を牽引するクルマであり続けるという願いを表現した「Trend Maker」と、「しっかりと地面を捉え駆動する車両」という開発におけるハードウェアへの考えを表した「Traction Master」から名づけました』と説明されています。
Tスペックは2024年モデルではカタログモデルになりました。2024年3月には2025年モデルを発表。ピストンリングやコンロッド、クランクシャフトなどに高精度重量バランス部品が採用され、赤文字で匠の名が刻まれたアルミ製ネームプレートとゴールドのモデルナンバープレートが新たにエンジンルーム内に取り付けられます。
日産は2025年モデルがR35 GT-Rが最終モデルとなり、2025年8月で生産終了となることを発表しました。“GT-R”という名称が特別なモデルのみしか使うことを許されなかったのと同じように、“スペック”の名も特別なクルマでのみ使用されるものとなっているはず。スカイラインGT-RとGT-Rのほかは、1995年に登場したS15型シルビアで使用されました。
走りを連想させ、高揚感を我々に与えてくれる“スペック”。次はどんなクルマで使用されることになるのか、楽しみです。
(文:高橋 満<BRIDGE MAN> 写真:日産自動車)
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