赤バッジが与えられた特別な存在。ホンダの「タイプR」・・・グレード名で語る名車たち
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ホンダ・シビックタイプR(EK9)
クルマは装備や機能の違いでいくつかのグレードが用意されます。中にはハイパフォーマンスなパワートレインを搭載した特別なグレードが用意されるモデルも存在します。そのグレード名やサブネームはモデル名とともに、クルマ好きの記憶に刻まれています。中にはグレード名やサブネームが後に車名になったものもありました。
本コラムでは多くの人の記憶に残るモデルをグレードから振り返っていきます。
技術者のプライドが生み出したストイックなスポーツモデル
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ホンダ・NSXタイプR
1990年9月13日にホンダが発表した一台のクルマが日本を震撼させました。メーカー同士の馬力競争がピークに達し、ついに280馬力自主規制が敷かれた翌年に登場したNSXは、「New Sports eXperience(新しい時代のスーパースポーツ)」という意味を込めてネーミングされました。
多くのメーカーが280psを発揮するためにターボで過給したのに対し、NSXはNAエンジン(3L V6 DOHC VTEC)で達成。エンジンの高回転化を実現するため、ホンダは鍛造成形性と切削性を大幅に改善した新しいチタンを開発。コンロッドに採用しました。
それ以上に驚かされたのはNSXのスタイルではないでしょうか。超音速ジェット機をイメージしたというエクステリアデザインはフロントが短く、前に向かって大きく傾斜。運転席は車体のほぼ中央に配置され、リアが長く取られたミッドシップレイアウトは斬新でした。
クルマ好きにとってNSXはスポーツカーであると同時にスーパーカーでもあり(800万円という新車価格も”スーパー”でした)、いつか乗ってみたいと考えていた人がたくさんいたはずです。
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ホンダ・NSXタイプR
そんなNSXはさらに我々の度肝を抜きます。1992年11月、タイプRの登場です。
ベースモデルでも高い運動性能が与えられているのに、それをより高度なレベルに引き上げるためにベースモデルより120kgも軽量化。足回りはニュルブルクリンクなど世界各地のサーキットを走り込んで煮詰められ、タイプR専用のチューニングが施されました。
エンジンはクランクシャフトのバランス精度やピストン/コンロッドなどの重量精度をレーシングエンジンと同じ形でファインチューニング。自主規制の関係で最高出力は280psとベースモデルと同等。しかしレスポンス性は大きく向上し、軽量化によりパワーウェイトレシオも4.82kg/ps→4.39kg/psと進化しました。
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ホンダ・NSXタイプRのインテリア
ホンダの資料(参考:語り継がれる思い Vol.1 NSXヒストリー「コンセプト」)によると、NSXの開発では2つのアプローチが模索されていたそうです。ひとつはハイテク技術による快適なスポーツカー。もうひとつは余計なものを排除し走りの性能を磨き上げるストイックなスポーツカーです。社内では快適な方向性がシルバー派、ストイックな方向性が赤派と呼ばれていました。
NSXはシルバー派の路線で発売されましたが、ホンダの技術力が結集したモデルだからこそ、とことんやりきる赤派の方向性も捨てられない。その思いがタイプRを生み出したのです。
レーシングスピリットが注ぎ込まれた特別なモデルだからこそ、ホンダはタイプRに特別な装いを施しました。言うまでもなく、ボンネットに付けられた赤いホンダのエンブレムです。赤いバッジは1964年にホンダがF1に参戦した時のマシン「RA271」に付けられました。NSXタイプRに付けられて以降、赤いバッジはタイプRだけが付けられる特別なものとなりました。赤派のNSXが赤いバッチを付ける。技術者たちのプライドの表れとも言えるでしょう。
クルマ好きの若者も手にすることができるタイプRが登場
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ホンダ・インテグラタイプR
ホンダがすごかったのは、タイプRをスーパーカーだけに与えられる「雲の上の存在」にしなかったこと。1995年10月には3代目インテグラの3ドアクーペと4ドアハードトップにタイプRが登場しました。
エンジンは新たに開発されたタイプR専用のB18Cを搭載。Si VTECよりも20ps出力がアップし、当時のNAエンジンとしては世界最高峰のリッター111psを達成しました。足回りやボディ剛性などにもホンダの妥協なきチューニングが施されました。
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ホンダ・インテグラタイプRのB18Cエンジン
それでいて車両価格は230万円以下という「手が届く価格」に抑えられたため走り好きの若者たちが飛びつくことに。
当時は日産 シルビアをはじめとするFR勢や、三菱 ランサーエボリューションやスバル インプレッサWRXなどの4WDも盛り上がっていました。これらのオーナーはFFを下に見る傾向があったのではないでしょうか。しかしインテグラタイプRには彼らも度肝を抜かれたはず。高回転まで一気に吹け上がるNAエンジンの官能的なサウンドと、リアを振らずにラインを正確にトレースしていくキレのいい走りは、まるで精密機械のようでした。
シビックにもタイプRを設定。初代EK9は約200万
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ホンダ・シビックタイプR(EK9)
タイプRは1997年8月、シビック(EK9)にも設定されます。搭載されるB16B型エンジンは最高出力185psを8200回転で発揮。高回転まで回すためにバルブシステムや給排気系にチューニングが施されました。もちろんボディ剛性も高められ、サスペンションもハードチューニングが施されています。
シビックタイプRの車両価格は東京・大阪・名古屋で200万円を切る設定になりました(福岡・仙台・札幌・沖縄は200万円をわずかに超える価格)。今のクルマは先進安全装備をはじめとするさまざまな電子制御が搭載され、物価も当時とは異なるとはいえ、レーシングスペックのマシンがこの価格で買うことができたのは驚きです。
2010台限定販売だったシビックタイプRユーロ
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ホンダ・シビックタイプRユーロ
ところで、やや変化球ですが筆者が好きだったタイプRとして、2009年11月に登場したシビックタイプRユーロも取り上げておきたいと思います。2005年9月にフルモデルチェンジした8代目シビック(FD)はハッチバックが廃止されてセダンのみに。2007年3月に登場したタイプRもセダンで開発されました。
もちろんタイプRならではの切れ味のある走りを堪能できますし、デザインも秀逸なのですが、「ちょっと大きくなりすぎちゃったな」と感じることもありました。
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ホンダ・シビックタイプRユーロのインテリア
しかしホンダはヨーロッパでハッチバックのタイプRを開発。日本でも台数限定で販売されました。それがタイプRユーロです。セダンのタイプRに比べるとパワーは抑えめですが、シャープな表情とてんとう虫のようなコロンとしたスタイルがとてもかわいかったんですよね。新車時は他のモデルほど人気があったモデルではありませんが、今でも中古車市場では高値がついています。
FF最速の称号を獲得したFK2型シビックタイプR
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ホンダ・シビックタイプR(FK2)
シビックが誕生したのは1972年。ホンダ初の小型乗用車である1300の販売不振を挽回することを至上命題に、世界で通用するコンパクトな大衆車として登場しました。その後、シビックは時代の変化とともに立ち位置を変えながら進化していきました。
2010年9月に8代目シビックの日本での販売が終了し、日本ではしばらくシビックが販売されなくなりました。必然的にタイプRが販売されることもありませんでしたが、2015年9月にイギリスで販売されるシビックタイプRを日本に導入するというニュースが流れたのです。
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ホンダ・シビックタイプR(FK2)
ドイツ・ニュルブルクリンクサーキット北コースでFF最速タイムを記録したタイプRが日本にやってくる。2015年10月に正式発表されたFK2型は台数限定販売で、WEBサイトから申し込みを行うという形が取られました。瞬時に予定台数を超える申し込みが入り、抽選販売になったことは言うまでもありません。
車両価格は428万円に設定。初期のシビックタイプRはスポーツカーに憧れる若者でも手に入れやすいクルマでしたが、FK2は絶対的な性能が与えられながら高級感もあるモデルに変わりました。ホンダといえばNAというイメージがあり、歴代タイプRもNA VTECを搭載していましたが、この世代から最高出力310psを発揮する2L VTECターボが搭載されました。そして初期のタイプRではスポイルされていた、街乗りでの快適性が高められたのも見逃せません。
ニュルでのFK2のタイムを7秒も縮めたFK8型シビックタイプR
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ホンダ・シビックタイプR(FK8)
2015年、シビックは10世代目にフルモデルチェンジ。しかしこの時点ではまだ日本でシビックは販売されませんでした。ホンダは2017年1月の東京オートサロンにプロトタイプの形でタイプRを含むシビックを公開。そして同年7月に日本への導入を正式発表しました。
これまでシビックを含む歴代のタイプRはベース車両の性能を研ぎ澄ます形で開発されました。しかしこの世代ではプラットフォームの開発段階からタイプRが目指す究極の性能を実現することが目的にされました。2017年4月にはニュルブルクリンク北コースで7分43秒80というラップを叩き出します。先代のタイムを7秒近く更新した「FF最速モデル」という称号を掲げての日本導入となりました。
上質感と大人の雰囲気が漂うFL5型シビックタイプR
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ホンダ・シビックタイプR(FL5)
シビックは2021年9月にフルモデルチェンジ。タイプRは2022年9月に登場しました。シビックが上質さを打ち出したクリーンなイメージのデザインになったことで、タイプRも大人のスポーツカーになりました。
生産台数が少ないことからベースモデルは注文受付が一時停止の状況が続いていて、中古車市場ではプレミア価格で取引されています。
残念ながら現在のタイプRはクルマ好きの若者でも走りを楽しめるスポーツモデルではなくなりましたが、究極の走りを味わえるピュアスポーツであることに変わりはありません。
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ホンダ・シビックタイプR(FL5)
現在のホンダの車種構成を考えると、シビック以外でタイプRを生み出すのは難しいでしょう。でもいつかまた、20代の若者や子育てを終えたクルマ好きのおじさんたちが無理なく楽しめるタイプRが出てくることを願っています。赤いバッジへの憧れは不滅ですから。
(文:高橋満<BRIDGE MAN> 写真:本田技研工業)
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