ラリーの血統として名付けられたインプレッサの“WRX” ・・・グレード名で語る名車たち
クルマは装備や機能の違いでいくつかのグレードが用意されます。中にはハイパフォーマンスなパワートレインを搭載した特別なグレードが用意されるモデルも存在します。そのグレード名やサブネームはモデル名とともに、クルマ好きの記憶に刻まれ、中にはグレード名やサブネームが後に車名になったものもあります。
本コラムでは多くの人の記憶に残るモデルをグレードから振り返っていきます。
WRCで勝つために生まれたWRX
1990年代に最盛期を迎えたスバルのWRC活動。その舞台で戦ったのがインプレッサでした。
1970〜80年代後半までスバルは世界初となる4WDセダンのレオーネでWRCに参戦。1989年にレオーネの後継モデルとしてレガシィが登場すると、WRCにもレガシィRSを送り込みます。
スバルは1990年にマニファクチャラーズ4位、1991年は6位、1992年は4位を獲得します。1993年のラリー・オブ・ニュージーランドではついに優勝を果たしました。しかしスバルが目指すのはWRCの頂点。そのために1993年シーズン後半から投入されたのがインプレッサでした。
インプレッサは1992年11月にデビューした、レガシィより一回り小さなコンパクトセダン。ファミリー向けのモデルでしたが、WRC参戦用に開発されたWRXもラインナップされました。WRXはWorld Rally Championshipの“WR”と、レオーネやヴィヴィオなど歴代のスバル車のスポーツグレードに使用された“RX”を組み合わせたもの(諸説あり)。RXのRも“Rally”を指していて、Xは「未知数」という意味を込めて、メーカーを問わず多くのグレードで使用されています。
ファミリータイプのグレードには1.5L、1.6L、1.8Lの水平対向4気筒が搭載されたのに対し、最初のWRXは2L水平対向4気筒ターボを搭載。これはレガシィRSにも搭載された名機「EJ20」で、ヘッド周辺のパーツに改良が施されました。最高出力240ps/6000rpm、最大トルク31.0kg-m/5000rpmに達しました。
インプレッサWRXが登場した時、筆者が何より驚いたのがボンネットの巨大なエアインテークでした。1989年に登場した初代レガシィRSとレガシィツーリングワゴンのボンネットに開けられたエアインテークを見て「やっぱり水平対向ターボはすごいぞ!」と思ったのに(当時大ブームになったレガシィツーリングワゴンは、走りはもちろんエアインテークの迫力に惹かれて買った人もいたはず)、インプレッサWRXはそれよりさらに大きなエアインテークが設けられました。その姿を見て「すげえ!」と思うと同時に少し引いてしまったのを覚えています。
実際、運転席に座るとエアインテークが前方下部の視界を遮るほどの大きさ。「ここまで大きなエアインテークを必要とするなんて、WRCの世界はどれだけすごいんだ!?」と思ったほどです。
1994年1月にはスバルのモータースポーツ参画や高性能パーツ開発を行うスバルテクニカインターナショナル(STI。当時の表記はSTi)が開発したインプレッサWRX STiが登場。WRX STiに搭載されるエンジンはハンドメイドで組み立てられたため、月にわずか50台しか生産できない希少性の高いモデルでした。WRXだけでもすごいのに、STiの手が加わったコンプリートモデルのWRXの上を行く過激な仕様に人々は熱狂しました。これ以降、WRXとSTiという2つの記号はセットで語られていきます。
また、一般的なクルマがフルモデルチェンジとマイナーチェンジで大きな改良を行い、それ以外は一部改良で対応していましたが、スバルは年次改良を行いながら製品の魅力を高めていきます。インプレッサWRXもほぼ毎年性能が高められていきました。
1994年10月には最高出力が260psになり、その後もホワイトメーターを採用したり、スポイラーの形状を変更して空力性能を高めていきました。同時にWRX STiも最初のモデルで250psだった最高出力が1995年10月に275psを発揮するバージョンII、1996年9月には自主規制いっぱいの280psに達したバージョンIIIが登場します。1997年9月にはバージョンIVに進化して最大トルクがアップ。1998年9月には新設計のサスペンションや大型スポイラーなどを装備したバージョンVが登場しました。
WRCに直結するイメージを与えるWRXというグレード名に、スバルのモータースポーツ部門が鍛え上げたモデルの証であるSTi、そしてたゆまぬ進化を感じさせるバージョンという符号。キラーワードが並ぶグレード名は注目度が高く、中古車雑誌でもどのバージョンが優れているか、コストパフォーマンスが高いのはどれかなどの特集が組まれました。
WRCでは1994年にマニファクチャラー・チャンピオンシップ2位、1995年から1997年は3年連続でチャンピオンに輝きました。この時代のインプレッサはWRCでの活躍やSTiの戦闘力が注目されますが、それらを実現したのはWRXというグレードの性能の高さが根底にあることを忘れてはいけません。
WRC参戦終了後は、WRXが車名に昇格
インプレッサは2000年8月に第2世代へとフルモデルチェンジ。セダンには初代に続きWRXが設定されました。第2世代は時期によりフロントフェイスが大きく変えられていて、丸目(A型・B型)、涙目(C型・D型・E型)、鷹目(F型・G型)と呼ばれています。デザインはもちろん乗り味も異なるため、それぞれにファンがついていました。
2007年6月に登場したインプレッサはセダンやスポーツワゴンではなく、Cセグメントの5ドアハッチバックとして登場。しかもグレード構成からWRXが消えてS-GTという新たなグレードが設定されました。
WRXのファンは肩を落としましたが、スバルは同年10月にインプレッサWRX STIを発売。ただ、多くの人にとってWRX=セダンのイメージが強かったため、いまいち盛り上がりに欠ける結果になりました(ボディがボクシーでかなりカッコよかったのですが……)。
スバルはハッチバックの登場から1年4ヶ月後の2008年10月にセダンモデルのインプレッサアネシスを追加。そして2010年7月にはついにセダンのインプレッサWRX STIが復活します。
2011年12月、インプレッサは第4世代に移行。セダンはインプレッサG4、ハッチバックはインプレッサスポーツという名称で販売されました。残念ながらこれらのモデルにはWRXの設定はなく、WRCにチャレンジしたスバルのイメージは潰えたかに見えました。
しかしスバルはユーザーが求めるスバルらしいスポーツ性を途絶えさせることはありませんでした。2014年8月、ニューモデルとしてWRXを発売。インプレッサとは別モデルとなり、WRXを車名に昇格させたのです。
実はこの布石は2010年7月時点で予見されていました。先代でセダンのWRXが登場した際、スバルのWEBサイトなどではインプレッサの文字が取られていたのです。しかし当時はあくまでインプレッサWRXが正式の車名。WRXが車名になったのは2014年からになります。
WRXには大人のスポーツセダンという意味合いが強いWRX S4と、過激な性能が与えられたWRX STIが設定されました。興味深いのはデビュー当時、スバルは“WRX”のプレスリリースではなく、“WRX S4”と“WRX STI”、それぞれの発売を報告するリリースを2つ発表したのです。
広義では同じWRXという車名になりますが、S4とSTIでは搭載エンジンが異なり、クルマの性格もターゲットも異なります。だからこそスバルはあえてリリースを2つ発表することで、違いを明確にしました。WRX S4とWRX STIにはそれぞれ複数のグレードが設定されているため、別モデルと考えることもできます。
インプレッサWRXとWRX STIには初代からEJ20が搭載されてきましたが、2019年を持ってEJ20の生産終了がアナウンスされ、WRX STIに特別仕様車「EJ20ファイナルエディション」が登場しました。そしてEJ20の生産終了に伴い、WRX STIも生産が終了。現在はWRX S4が販売されていて、S4のグレードとしてSTIスポーツが設定されています。
WRCで勝つために生まれたWRXというグレード。スバルのWRCへの挑戦は2008年末を持って終了しましたが、そのスピリットは継承され、WRXの名が付くモデルに息づいています。WRCへの参戦が終了した後もスバルはラリー活動を続けています。近年は「将来的にスバルはWRCに復帰するのではないか」という噂が聞こえることもあります。いつかまた世界の頂点を目指してスバルのマシンが激走する姿を見てみたいですね。
(文:高橋 満<BRIDGE MAN> 写真:SUBARU)
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