【柳田春人】『Zらしく』を50年突き詰めた漢のこだわり・・・愛車文化と名ドライバー
スポーツカーの魅力に取りつかれ、その道を究めるべく切磋琢磨するうちに、愛車文化の発展にも大きな影響を与える存在となっていったプロドライバーたち。今回はフェアレディZを中心とする日産レーシングカーで活躍し、セントラル20創業者でもある『Zの柳田』こと柳田春人氏に、幼少期からのカーライフについてお話を伺った。
クルマの運転操作は母親の膝の上で覚えた!?
母親の愛車だったスバル360で、母親の膝の上に乗ってステアリングやシフトノブを操作して遊んでいた…小学校低学年の頃のそんな記憶が、いまでも記憶に残っていると語る柳田春人氏。
1970年代に活躍し『Zの柳田』と呼ばれたレジェンドドライバーで、2023年で創立50周年を迎えたフェアレディZ専門ショップ『セントラル20』の創業者でもある。
そのご子息である柳田真孝氏もまた、スーパーGT のGT500クラスとGT300クラスでチャンピオンを獲得したトップドライバーという、まさにプロドライバーファミリーでもある。
そんな柳田春人氏のカーライフは、前述の通り幼少期からスタートしていたという。
「ウチは両親ともクルマ好きという当時ではまだ珍しい家庭でね、父は英国車のヒルマン、母はスバル360に乗っていたという記憶があります。それで、私は母の膝の上に乗って運転の真似事をよくしていたし、小学校3年生くらいでペダルに足が届くようになってからは敷地内で運転操作の練習をしていましたね」
早くから運転に目覚めた柳田氏は、当時16歳で取得できた軽乗用車運転免許を手に入れると、母親からスバル360を譲り受けて高校1年生の頃から運転を楽しんでいたという。さらに、そのあとホンダのN360に乗り替えると、クルマ好きな仲間たちとともに軽自動車が参加するジムカーナ大会などにも参加するようになったそうだ。
18歳で普通自動車免許を取得する直前にN360が追突事故に遭ってしまったのを機に、SR311型のフェアレディ2000を入手。このクルマで「レースに出てみよう」という話が持ち上がり、仲間たちのサポートも得て本格的なサーキットレースにはじめて参戦することになったという。
「それまでまともにサーキットを走ったことがなかったので、事前にかなり練習しましたよ。そしてレース本番では2位を走っていたんですが、1位のマシンがスピンしてくれたおかげで、なんと運良くデビューウィンを飾ることができたんです」
そして、このレースを観戦していた女優でレーサーの夏川かほる氏から「プロのレーシングドライバーを目指してみないか?」と声をかけられ、企画書の書き方やスポンサーさんとの接し方などレース活動をイチからバックアップしてもらうようになったという。
この出会いが、のちに『Zの柳田』が誕生するキッカケとなったのである。
日仏自動車(のちにモータースポーツ部門は『スリーテック』として分社)でフェアレディをカスタム。1970年1月に開催された富士フレッシュマンシリーズの第1戦で優勝するなど好戦績を重ねた
フェアレディZのアクセルを根性で踏み抜く日々
若くしてドライバーとしての頭角を表し、SR311でS30勢と互角以上の戦いを続けていた柳田氏に、S30型フェアレディZのレース仕様であるZ432Rに乗らないか?という話が舞い込んできたのは、初レースから1年半ほど経ったころだった。
市販のS30より約100kg軽量で、スカイラインGT-Rと同じ直列6気筒DOHC4バルブのS20エンジンを搭載したZ432Rは、直線では速かったものの、高回転域での振動が大きいなどトラブルやリタイヤも少なくなかったという。
そして、次に乗ったのがL24エンジンを搭載した240Z。Z432Rよりも最高出力こそ低かったものの、排気量が増えたことでトルクアップして乗りやすくなった、と当時を振り返ってくれた。
若かりし頃の柳田氏。海外のレースでも活躍し、のちのF1チャンピオンであるエマーソン・フィッティパルディなどとも戦った
「雨だろうがなんだろうが、とにかく直線では絶対にアクセルを緩めない!って気持ちで走っていたよね。根性では負けないぞって思っていました」と、雨のレースでも果敢に攻めるその姿から、240Zとともに『雨の柳田』とも呼ばれるようになった。
「昔からスバル 360で河原の土手にある砂利道を走っていたんだけど、真ん中が盛り上がったカマボコ状でリヤが流れるので、その感覚などを無意識に覚えていたのかな。それと、当時はタイヤメーカーとの関係性も重要だったよ、特に雨のレースではね」
後年にはスーパーシルエットレースでバイオレットやブルーバードのステアリングを握り、グループCカーによるレースなどでも活躍し、名実ともに日産を代表するドライバーとしての実績を残している。
大好きなフェアレディZをよりカッコよく!
レース活動と並行してカーショップで働いていた柳田氏は、オーナーが店舗を手放すという話があり『それならば』とその場所を引き継ぐ形で独立を決意。会社設立は1975年だが、活動を開始したのは1973年ということで2023年に創立50周年を迎えたという。
「ちなみに『セントラル20』という名前は、同じくレーシングドライバーで仲がいいトムスの舘さんがつけてくれたんだけれど、国道20号線と中央道が交わる場所っていうことで、そのまんまだよね(笑)。創立当初こそZ専門店というわけじゃなかったけれど、S130からはオリジナルパーツを販売するようになって、Zのお客さんが増えていったかな。『Zの柳田』というイメージもあったし、現在でも当時のレースを見ていたというお客さんも来店されることがありますよ」
レースではフェアレディZを駆る一方、プライベートではSR311のあとにS54B型スカイラインやKPE10型チェリーX-1などを乗り継いでいたという柳田氏。ショップをオープンしてからはレースとは別に普段からお気に入りのチューニングやカスタムを施したZを愛車とするようになり「お客さんが求めるようなカスタムは一通りぜんぶやったね」という。
そんな柳田氏に歴代Zについて伺ってみると「いちばん印象に残っているのはZ32かな。発売されて間もない頃に米国車とバトルしたら余裕で勝てちゃって、その性能の高さに驚いたのをよく覚えています。ターボ車でハイパワーが出せるようになって、ブーストアップキットもよく売れましたね」と懐かしそうに振り返ってくれた。
オリジナルパーツの開発にあたっては、自ら乗って試して性能をチェックすることができるプロドライバーとしての経験値も大いに活かされているという。
カスタムのこだわりは常に『Zらしく』
『Z SPORT』というオリジナルブランドを立ち上げ、S130のヘッドライトカバーを皮切りに、エアロパーツ、ホイール、サスペンション、エンジン関連部品までさまざまなアイテムを発売してきたセントラル20。
そのこだわりや考え方について柳田氏に伺ってみると「エアロやホイールはまず『カッコいい』ことだよね。それから、コンピューターチューンもパワーアップには必須だったので8ビットの頃からはじめましたよ。リミッターカットとブーストアップがセットになったメニューが人気でしたね。Z33なんかは見た目をもっとZらしくしたい!って思ってフルバンパーを作ったりもしました。常に考えていたのは“Zらしく”ってことです」
その理想形へのこだわりは強く、デザイナーや開発陣と修正を繰り返すことも幾度となくあったという。
セントラル20が販売してきたフェアレディZ用オリジナルパーツの数々。当時、愛車に装着していたというオーナーさんもいるのでは?
「実はウチのサスペンションって、純正よりも乗り心地がよくなるように設定しているんですよ。『車高を下げてカッコいいスポーツカーに乗りたいけど、乗り心地が悪いのはツライ』という年配のオーナーさんが多くなってきているんですよね」と、オリジナルパーツには歴代Zのユーザーが集まるショップとして蓄積してきたノウハウも活かされているという。
また、最近ではZ32のレストアや修理の依頼も増えてきているなど、世代に応じた傾向対策の事例が蓄積されているというのも専門店ならではの強みと言えるだろう。
ちなみに最新のRZ34型のパーツについて伺ってみると「純正の状態でとても完成度が高く“Zらしい”クルマだと思っているので、今のところ外装パーツはフロントスポイラーとリヤのガーニーフラップくらいなんです。まだわかりませんけど、パーツ点数は意外と少なくなるかも?」とのこと。
RZ34型のフェアレディZ。デモカーでのパーツ開発も着々と進み、オーナーさんの来店も増えてきているとのこと
そんなセントラル20は、2023年の創立50周年を機に、柳田氏は会長となり、代表取締役社長の座をご子息の真孝氏に引き継いだ。
いっぽうで、日本自動車用品・部品アフターマーケット振興会(NAPAC)の副会長や、ホイールメーカーBBSジャパンの顧問を務めるなど、愛車やカーライフに関わるお仕事も精力的に継続中である。
「思えば、小さい頃から何をやっても続かなかったけど、クルマとレースだけは続けてくることができたんです。そしてお店の方は、常にフェアレディZが好きな人に喜んでもらえるようにと考えてやってきました。これからもZを愛するみなさんのカーライフを応援していきたいですね」
そんなセントラル20のピットでは、この日もお客さんのフェアレディZがリフトにかけられて作業の準備が行われているところだった。
(写真:金子信敏/セントラル20)
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