三菱のラリー活動での強さを象徴する“エボリューション”・・・グレード名で語る名車たち
クルマは装備や機能の違いでいくつかのグレードが用意されます。中にはハイパフォーマンスなパワートレインを搭載した特別なグレードが用意されるモデルも存在します。そのグレード名やサブネームはモデル名とともに、クルマ好きの記憶に刻まれています。中にはグレード名やサブネームが後に車名になったものもありました。
本コラムでは多くの人の記憶に残るモデルをグレードから振り返っていきます。
1967年、三菱のラリーへの挑戦がスタート
今回テーマにする三菱の国内でのラリー活動は1965年から、そして国際ラリーへの挑戦は1967年からスタート。コルト、ギャラン、ランサーという三菱の名だたる名車が世界に挑んできました。
1973年に制定された世界ラリー選手権(WRC)で初めて走った三菱車はギャラン16L GS。そして1973年後半からはランサー1600GSRが活躍しました。
1981年からはランサーEX 2000ターボがWRCに送り込まれます。しかし2WD車のランサーの戦闘力は決して高いとはいえず1983年で参戦は終了、スタリオン4WDターボでの参戦を計画します。しかし重大事故が続いたこともあり1986年をもってWRCのグループBカテゴリーが中止に。スタリオンのWRC参戦は叶いませんでした。
1988年4月、三菱はWRCで勝利するために、ギャランVR-4を送り込みます。1987年10月にフルモデルチェンジした6代目ギャランは人間の触感を基準として開発された“インディビデュアル4ドア”として登場。スクエアな箱型フォルムが特徴でした。トップグレードの4WDモデルであるVR-4のグレード名は“Victory Runner”に由来し、4は“Active 4(アクティブフォー)”から取られたもので、以下のハイテク技術に由来します。
■4バルブDOHCエンジン
■フルタイム4WD
■4輪操舵(4WS)
■4輪独立懸架(4IS)
■4輪アンチロックブレーキ(4ABS)
中でもフルタイム4WDと4WSを組み合わせたモデルはギャランVR-4が世界初で、世界中の人々を驚かせました。
ギャランVR-4は1989年の1000湖ラリーとRACラリーで総合優勝を果たします。そして1991年にはマイナーチェンジ版のグループAギャランのエボリューションモデルを投入。90年・91年と2年連続でマニュファクチャラーズタイトル3位を獲得するとともに、10月のコートジボワールラリーでは篠塚建次郎選手が日本人ドライバーとして初めてWRC優勝を果たしました。
さらなる高みを目指し、エボリューションの名を冠したモデルが登場
そしてこの時期、三菱はギャランVR-4に変わるWRC参戦車両の開発に取り組んでいました。ベース車両は小型セダン・ランサーのGSR。開発には篠塚選手やのケネス・エリクソン選手など三菱のWRCドライバーが積極的に参加し、戦闘力の高いホモロゲーションモデル、ランサーエボリューションを完成させました。
ホモロゲーションモデルとは、市販車ベースのレースやラリーへの参戦を目的に、規定に定められた生産台数をクリアするために生産・販売されるモデルのこと。市販車ベースのカテゴリーでは改造範囲に制限があるため、規定に合わせて最初から性能を高めたモデルが生産・販売されることがあるのです。
1992年10月に世に送り出された初代ランサーエボリューション(エボI)はギャランVR-4に搭載されたサイクロン2000DOHCターボの改良版を搭載。軽量化と耐久性の向上が図られるとともに、最高出力が250ps、最大トルクが31.5kg-mに高められています。ボディはベースとなったランサーからさらに高剛性化と軽量化が図られ、パワーウェイトレシオ4.96kg/psを達成しました。
もちろんサスペンション、ドライブトレイン、ブレーキなども強化され、ホモロゲモデルとしての圧倒的な性能が与えられました。
実際ランエボはランサーの1グレードではなくランサーエボリューションという独立したモデルとして登場しました。しかしランエボの戦闘力はベースとなったランサーの1.8L 4WDの高いスポーツ性があってのもの。ランエボの量販グレードがGSR、競技ベース車がRSとランサーと同様の名称が付けられていることからも、スペシャルなランサーであることが伝わります。そのため今回はグレード名にフォーカスする企画であえてランエボを取り上げました。
4世代10モデルにわたり進化しつづけたランサーエボリューション
多くのエボリューションモデルは1〜2モデルの生産に留まるケースが多いですが、ランサーエボリューションは、1992年にエボ1が登場してから2016年のエボ10まで、WRCへの参戦が休止された後も市販モデルとしての進化を止めることはありませんでした。
そんなランエボはベース車両のフルモデルチェンジに合わせて4つの世代に分けることができます。
■第1世代(1992年10月〜)
1992年10月、世の中に衝撃を与えたランサーエボリューションはわずか3日間で限定台数2500台が完売。追加された2500台もあっという間に完売します。そして1994年1月にエボリューションIIへと進化。5000台限定で販売されました。最高出力が260psに高められ、ホイールベースやトレッドがエボ1より拡大されています。
そして1995年2月にはエボ2と同じく5000台限定でエボリューションIIIが登場しました。エボ3は最高出力が270psに進化しました。
■第2世代(1996年8月〜)
第2世代はエボリューションIVがついに自主規制いっぱいの280psに達したことが大きなトピックでした。しかも大排気量ターボではなく、2Lターボでの280ps到達は衝撃的。さらにアクティブヨーコントロール(AYC)により走破性も高められました。エクステリアは目つきがきついデザインになり、威圧感が高められています。
1998年1月に登場したエボリューションVは最大トルクが38.0kg-mに引き上げられ、それを支えるボディの剛性も高められています。そしてワイドトレッド化によりボディサイズが拡大され、3ナンバーサイズになりました。
1999年1月にはエボリューションVIが登場。新しいエアロパーツでエクステリアが大きく変わりました。中でも印象的なのはリアウイングの2枚翼です。機関部位も随所に改良が施され、戦闘力が高められました。
2000年1月には三菱のWRCドライバーで史上初となる4年連続ドライバーズチャンピオンに輝いたトミ・マキネンの名を冠したランサーエボリューションIVトミ・マキネン エディションが登場しました。
■第3世代(2001年2月〜)
第3世代はランサーエボリューションVIIからスタート。この世代はランサーセディアがベース車両になっています。エンジンの最大トルクは39.0g-mに高められ、新開発のアクティブセンターデフ(ACD)を搭載。AYCとの統合制御で操舵応答性が向上しています。2002年2月にはランエボ初のATモデルも登場しました。
2003年1月登場のエボリューションVIIIは、最大トルクが40.0kg-mに達します。AYCはスーパーAYCに進化しました。2004年2月にはエボリューションVIII MRへと進化。国産量産車初となるアルミ製ルーフパネルが採用され、最大トルクが40.8kg-mに拡大。ACD、スーパーAYC、スポーツABSの制御も変更されました。
2005年3月に登場したエボリューションIXはエンジンの最大トルクが41.5kg-mにまで高められ、吸気側に連続可変バルブタイミング機構(MIVEC)を採用して燃費性能が高められました。2006年8月には第3世代ランエボの集大成として、エボリューションIX MRが登場しました。
■第4世代(2007年10月〜2015年8月)
第4世代となるエボレーションⅩは、ランサーではなくギャランフォルティスをベースにしています。三菱のWRC参戦が休止され、ホモロゲーションのためのエボリューションモデルという意味がなくなったことで、コンセプトも「誰もが気持ちよく安心して高い次元の走りを楽しめる新世代ハイパフォーマンス4WDセダン」となりました。
それを象徴するのがトランスミッション。主力となるのがクラッチ操作が不要な2ペダルMTのツインクラッチSSTになったこと。もちろん5速MTも用意されています。そしてGSRには車両運動統合システムS-AWCが搭載されました。エンジンの最大トルクは43.0kg-mに達しました。
エボ10は改良が加えられながら、2015年まで生産されました。280ps自主規制がなくなったことで、2008年10月には最高出力が300psに高められました。
ライバルとのバトルが進化の糧に
ランサーエボリューションが全4世代、20年以上にわたり進化し続けてきたのは、WRCを舞台にしたライバルモデルとの熾烈な争いがあったからに他なりません。中でもスバル インプレッサWRX STIとの戦いは今なお語り草になるほど。
1995〜1997年はスバルが3年連続でマニュファクチャラーズタイトルを獲得。1996〜1999年は三菱が4年連続でトミ・マキネンがドライバーズタイトルを獲得。1998年にはマニュファクチャラーズタイトルを獲得しました。
強敵がいたからこそ、ランサーエボリューションとインプレッサWRXは足を止めずに高次元での進化を続けてきたのでしょう。絶対的なライバルであり同士でもある存在。このような関係性は、もう実現できないかもしれません。
「エボリューション」というグレードが付いた名車
エボリューションは“進化”や“発展”を意味する言葉。クルマでは、ラリーやレースのホモロゲーション取得モデルでしばしば使用されています。エボリューションを冠した有名なモデルとしては、以下のものが挙げられます。
■メルセデス・ベンツ 190E 2.5-16エボリューション
ドイツツーリングカー選手権(DTM)参戦用のホモロゲーションモデル。1989年に登場した190E 2.5-16エボリューションと、1990年に登場した190E 2.5-16エボリューションIIが存在する。
■BMW M3エボリューション
190同様にDTM参戦用のホモロゲーションモデル。1987年にM3エボリューション、1988年にM3エボリューションII、1989年にM3スポーツエボリューションが登場。
■ランチア デルタHF インテグラーレ エボルツィオーネ
デルタはWRCグループB参戦時にホモロゲーションモデルとしてS4を開発。1987年からはWRCのグループAに参戦し、HF 4WD、HF インテグラーレ エボルツィオーネ、HF インテグラーレ エボルツィオーネ IIといったホモロゲーションモデルを開発した。
(文:高橋満 写真:三菱自動車、メルセデス・ベンツ、BMW、ランチア)
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