欧州で鍛えられた和製ホットハッチ! スイフト「スポーツ」・・・グレード名で語る名車たち

  • スズキ・スイフトスポーツ(ZC32S)

クルマは装備や機能の違いでいくつかのグレードが用意されます。中にはハイパフォーマンスなパワートレインを搭載した特別なグレードが用意されるモデルも存在します。そのグレード名やサブネームはモデル名とともに、クルマ好きの記憶に刻まれています。中にはグレード名やサブネームが後に車名になったものもありました。

本コラムでは多くの人の記憶に残るモデルをグレードから振り返っていきます。

ホットハッチ全盛期とスイフトの誕生

コンパクトで利便性に優れたハッチバックに高性能エンジンを押し込んだホットハッチ。1970年代後半からヨーロッパで盛り上がり、日本でもスポーツカー好きの人たちの間で支持されました。

輸入車だけでなく、トヨタ スターレット、日産 マーチ、ホンダ シティ、ホンダ シビックなど、日本メーカーもハッチバックにホットハッチを設定。軽自動車メーカーも走行性能を高めたホットハッチを送り出し、若者を中心に盛り上がりを見せていました。

小さなモンスターたちは、モータースポーツシーンでも活躍。ルノー 5ターボやプジョー205ターボ16などがWRCで活躍し、ベースモデルのホットハッチへの注目も高まりました。

90年代に入るとRV車やミニバンなど、レジャー用途の車に注目が集まり、小型車でも3ドアではなく5ドアが主流になっていきました。海外ではホットハッチが盛り上がり続けていましたが、日本では利便性が高いクルマが求められ、徐々に衰退していきます。

そんな中でもホットハッチを造り続けてきたのが、スズキです。

  • カルタス1300GT-i

    カルタス1300GT-i

  • 初代アルトワークス

    初代アルトワークス

1986年にはカルタスに1.3L 直4 DOHCエンジンを搭載、97psを発揮したカルタス1300GT-iを発売。1987年には軽自動車の64ps自主規制ができるきっかけになったアルトワークスが登場しました。アルトワークスは1990年代、2010年代にも設定され、5世代にわたって走り好きの若者から支持されました。

  • 初代スイフト

    初代スイフト

そんなスズキが2000年2月に新型車として世に送り出したのがカルタスに代わるコンパクトカーとして登場したスイフトです。スズキの世界戦略車として開発され、世界展開する小型車用のプラットフォームを採用したモデル。スタイルは1998年10月に登場したクロスオーバー風の軽自動車であるKeiに近く、実際、サイドパネルやドアはKeiと共通のものが使用されました。
新開発されたM13A型1300cc オールアルミDOHCエンジンは最高出力が88psで、環境にも配慮した新世代エンジンでした。

JWRCのために開発されたスイフトスポーツ

初代スイフトは、海外ではイグニスという名前で販売されます。そして2001年からラリー活動を開始。2002年からは世界ラリー選手権(WRC)の下位クラスであるジュニア世界ラリー選手権(JWRC)にイグニス スーパー1600で本格参戦しました。

  • 初代スイフトスポーツ(HT81S)

    初代スイフトスポーツ(HT81S)

そしてスズキはスイフトの一部改良時にJWRC(ジュニア世界ラリー選手権)参戦のベースモデルとして開発したスイフトスポーツを2003年に送り出します。

ベースモデルが5ドアなのに対し、スイフトスポーツは3ドアで登場。前後の専用バンパーやオーバーフェンダーによりボクシーなスタイルが与えられます。足回りは車高を15mm下げた専用サスペンションを搭載。ブレーキは専用のディスクパッドを装備した4輪ディスクブレーキが採用されました。

エンジンは専用チューニングを施した1.5L 直4 DOHCで、最高出力115psを発揮。スイフトスポーツと言えばテンロク(1.6L)のイメージがありますが、初代は1.5Lだったのです。

驚くのは価格。当時のプレスリリースに書かれている数字は119万円から。本気のスポーツモデルがこの値段で手に入るのは異例とも言えるものです。ただ、初代はまだエアロパーツを後から貼り付けたような雰囲気もあり、そこまで盛り上がりませんでした。それでもスズキが低価格で走り好きに向けたホットハッチを送り出したのは大きな意義があったと思います。

  • 2007年のJWRCでタイトル獲得を獲得した「スイフト・スーパー1600」とP-G・アンダーソン選手

    2007年のJWRCでタイトル獲得を獲得した「スイフト・スーパー1600」とP-G・アンダーソン選手

第3世代まで本気のホットハッチが200万円以下で買えた!

  • 2代目スイフトスポーツ(ZC31S)

    2代目スイフトスポーツ(ZC31S)

世界戦略車として登場したスイフトは2004年11月に登場した第2世代でその色合いがより濃くなります。まずこの世代から世界統一で「スイフト」という名称が使われるようになりました。そのため、スズキ社内ではこのモデルが初代という扱いになっているほど。

第2世代以降のスイフトは標準仕様でも十分にスポーティな走りを楽しめる作りになりました。特に足回りとハンドリングは秀逸で、コンパクトなモデルながら路面に吸い付くようにコーナーをクリアしていきます。ヨーロッパのスポーティなハッチバックに肩を並べる走りにスポーツカーファンが驚いたほどです。

そんなスイフトをベースに開発されたスイフトスポーツは2005年9月に登場。エンジンは専用チューニングが施された1.6L 直4 DOHCを搭載。最高出力は125psとハイパワーといえるものではありませんが、車両重量が1,070kgと軽量なため、高回転まで引っ張ることでグイグイ加速させることができました。まさにホットハッチの真髄と言える仕様です。ちなみに燃料はハイオクになります。

足回りにも専用チューニングが施され、ボディ剛性も強化。第1世代でも定評があったコーナリング性能がさらに高められました。また、5MTだけでなく4ATがラインナップされたのもこの世代から。スポーツカーファンにとってはスイフト=MTですが、誰もがスイフトスポーツらしいスポーティな走りを気軽に楽しめるATが用意されたことはホットハッチの裾野を広げるうえで大きな意味があったと思います。

2006年12月には本革とアルカンターラを採用した専用レカロシートを装備するリミテッドが特別仕様車として登場し、人気グレードとなります。第2世代スイフトスポーツは5MTが156万4500円で、4ATが161万7000円。リミテッドでも5MTが177万4500円、4ATが182万7000円。仕様を考えるとバーゲンプライスだったといえます。

  • 3代目スイフトスポーツ(ZC32S)
  • 3代目スイフトスポーツ(ZC32S)

    3代目スイフトスポーツ(ZC32S)

第3世代のスイフトは2010年9月にデビュー。デザインはキープコンセプトですが、新開発のプラットフォームを採用し、ホイールベースを40mm延長。居住性と走行性が高められました。

スイフトスポーツは2011年11月の東京モーターショーで公開され、翌月に発売されました。先代同様、随所に専用チューニングが施され、1.6Lエンジンは可変吸気システムや吸気VVT制御を最適化したりバルブリフト量も増加、トランスミッションはMTは6速になり、ATはこの世代からマニュアルモードを採用したパドルシフト付きの7速CVTに変わりました。

価格は6MTが168万円で、CVTが174万8250円。高性能なホットハッチが200万円以下で手に入ることは驚きでした。

第4世代は2025年で販売終了。次期モデルは……

  • 4代目スイフトスポーツ(ZC33S)

    4代目スイフトスポーツ(ZC33S)

第4世代のスイフトは2016年12月に登場。そしてスイフトスポーツは2017年9月にデビューします。

この世代の特徴はスイフトスポーツの全幅が1,735mmになり3ナンバーになったこと。欧州仕様は標準仕様もこのサイズですが、日本では5ナンバーサイズにこだわるユーザーが多いため、標準仕様の外板を換えて1,700mm以下に収まるようにしていました。3ナンバーになったスイフトスポーツは標準仕様よりワイド感のあるスタイリングが印象的です。

エンジンも1.6L NAではなく1.4Lターボに変更。ここは賛否両論あるところです。古くからのスイフトファンやホットハッチ好きの人はテンロクへのこだわりがあり、ターボ化には否定的でした。しかしNAよりもトルクが向上したことでこれまで以上にダイレクト感のある走りを楽しめるようになりました。スポーツカーファンにとっては歓迎できる変更でした。

  • 4代目スイフトスポーツ(ZC33S)の運転席

    4代目スイフトスポーツ(ZC33S)の運転席

この世代ではプラットフォームがHEARTECTに変更されています。軽量・高剛性に定評があるプラットフォームの採用により車両重量が先代より70kgも軽くなりました。パワフルなエンジンと軽量化により俊敏性が高まっていることは、乗ったことがない人でも容易に想像がつくはずです。

スイフトは2023年12月に新世代へとフルモデルチェンジ。しかし2025年1月現在、スイフトスポーツは第4世代が継続販売されています。新型スイフトの登場以降、雑誌やWEBではスイフトスポーツの憶測記事が溢れています。これまで新型登場から1年以内にスイフトスポーツが登場していたため、「この世代ではスイスポは出ないのではないか」という心配の声も聞こえます。

  • 4代目スイフトスポーツ(ZC33S)ファイナルディション

    4代目スイフトスポーツ(ZC33S)ファイナルディション

  • 4代目スイフトスポーツ(ZC33S)ファイナルディションのロゴマーク

    4代目スイフトスポーツ(ZC33S)ファイナルディションのロゴマーク

現段階ではスズキからの公式発表はありません。しかし2024年12月に特別仕様車である「ZC33S Final Edition」の発売を発表。そこには「現在販売しているスイフトスポーツの標準車は2025年2月に生産を終了し、在庫がなくなり次第販売を終了する。ZC33S Final Editionは2025年3月から2025年11月までの期間限定販売となる」とアナウンスされています。

つまり現在販売されているスイフトスポーツはどれだけ長くても2025年11月で販売が終了するということ。注文が殺到したら11月より早く申し込みが締め切られる可能性も否定できません。

インフレ基調によりモノの値段がどんどん上がり、多くの人が悲鳴を上げている今でさえスイフトスポーツは標準仕様で216万4800円から、ZC33S Final Editionでも232万9800円からに抑えられています。スライドドア仕様の軽自動車だと上級グレードにオプションを付けると300万円に迫る中で、これだけ走りを楽しめるスポーツモデルがこの価格で手に入れることができるのは本当に驚きです。スズキにはこの火を絶やさず、これからもホットハッチファンの期待に応えてくれることを願うばかりです。

(文:高橋満<BRIDGE MAN> 写真:スズキ)

グレード名で語る名車たち

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