孤高のピュアスポーツ、RX-7の魂を表現した「R」という記号・・・グレード名で語る名車たち

  • マツダ・RX-7「スピリットR」

    RX-7 スピリットR


クルマは装備や機能の違いでいくつかのグレードが用意されます。中にはハイパフォーマンスなパワートレインを搭載した特別なグレードが用意されるモデルも存在します。そのグレード名やサブネームはモデル名とともに、クルマ好きの記憶に刻まれています。中にはグレード名やサブネームが後に車名になったものもありました。

多くの人の記憶に残るモデルをグレードから振り返るこのコラム、今回はマツダのFD3S型 RX-7に設定された「スピリットR」についてお届けします。

2023年、市販車にロータリーエンジンが復活

  • マツダ・MX-30 e-SKTACTIV R-EV 電動駆動ユニット

    MX-30 e-SKTACTIV R-EVの電動駆動ユニット

2023年6月、マツダは欧州向けに「MAZDA MX-30 e-SKYACTIV R-EVの量産を開始」というニュースリリースを発表しました。MX-30は観音開きのフリースタイルドアを備えたコンパクトなSUVで、マイルドハイブリッドモデルとマツダ初の量産BEVをラインナップ。ここにPHEVの「R-EV」(日本では「ロータリーEV」という名称を使用)が加わったことで、多様なパワートレインでユーザーのニーズに応える体制が整いました。

ロータリーEVは発電用エンジンとして830ccのロータリーエンジン(水冷1ローター)を使用。約11年ぶりにロータリーエンジンが市販車に搭載されたことで注目されました。

でも、このニュースを聞いた時に多くのファンはこう思ったはずです。

「ロータリーエンジンを発動用ではなく、タイヤを動かす駆動用エンジンにしてほしい!」

ロータリーエンジンはRX-8が2012年6月に生産終了となったことで、市販車への搭載がなくなりました。もちろんマツダはロータリーエンジンから手を引いたわけではなく、RX-8の生産終了後も研究開発は継続され、また、ロータリーエンジン搭載車に乗り続けるファンのために、エンジン単体(ベアエンジン)の製造も行われています。

世界で唯一、ロータリーエンジンの量産化に成功した自動車メーカーであるマツダは、これまでロータリーエンジンを搭載した名車を数多く世に送り出してきました。中でも記憶に残っているのが、RX-7です。

RX-7の3代目としてFD3Sが誕生

  • マツダ・アンフィニRX-7

    アンフィニRX-7

1978年3月にデビューしたサバンナRX-7(SA22C)は12A型2ローターを搭載。デビュー時はNAのみでしたが、1983年に最高出力165psを発揮するターボエンジンが追加されました。1985年10月にはFC3Sへとフルモデルチェンジ。ロータリーエンジンは13Bターボになり、幾度かの改良が加えられ、1990年6月に登場した「∞(アンフィニ)」は最高出力215psに達しました。

1991年12月、RX-7はFD3Sへとフルモデルチェンジ。当時のマツダがとっていた5チャンネル体制の中でスペシャリティブランドだったアンフィニ店から発売され、車名も「アンフィニRX-7」として登場しました。

FDが登場した時、多くの人がその美しさに魅了されたと思います。「ときめきのデザイン」を掲げたマツダが初代NA型ロードスターに次いで送り出したFDは、抑揚感に溢れた流線型のボディラインが与えられ、まるで古代ギリシアの彫刻のような美しさを感じたものです。

  • アンフィニRX-7の透視図

12時間耐久での3年連続優勝を記念し特別限定車に命名された「バサースト」

FDがデビュー時に搭載した13Bは、低速で1基、高速で2基のターボを使うシーケンシャルツインターボが与えられ、最高出力255psを発揮しました。デビュー時のグレードはタイプS、タイプR、タイプXという“タイプ”の後にアルファベット1文字が続く3種類が用意され、翌年に2シーターモデルのタイプRZが限定販売されました。

ロータリーエンジンを搭載するFDはモータースポーツシーンでも活躍。デイトナ24時間レースではSA時代から12年連続でGTUクラス優勝を果たし、オーストラリアで開催されるバサースト12時間レースでは3年連続(1992〜1994年)で総合優勝を果たし、1994年8月にはそれを記念した「タイプR II バサースト」が発売されました。

これまで記号で表されていたグレードに伝統あるレースの名が組み合わされたこのネーミングはとても印象的で、以降、特別なRX-7を象徴するものになります。12月には「タイプRバサースト」が発売され、1995年3月にはタイプRZとタイプRバサーストがカタログモデルに昇格しました。

FDは1996年1月のマイナーチェンジでMT車の最高出力が265psにアップ。1997年10月には車名から「アンフィニ」が取れて、マツダ RX-7になりました。1999年1月のマイナーチェンジでは、ついにMT車の最高出力が、ライバルモデルである日産 スカイラインGT-Rやトヨタ スープラと並ぶ280psに達しました。

  • マツダRX-7 タイプRS

    ターボチャージャーの高効率化などによる280psを達成したRX-7 タイプRS

しかし2000年10月、大排気量のハイパワースポーツモデルの運命を左右する出来事が起こります。『平成12年排出ガス規制』の施行です。この規制はとても厳しいもので、馬力競争を繰り広げた多くのモデルで生産終了がアナウンスされました。この規制には猶予期間が設けられていましたが、それでも生産できるのは2002年8月末まで。

もちろんハイパワースポーツを生産するメーカーの技術力があれば、この規制をクリアすることはできたはずです。しかし、クリアするためには膨大なコストをかけてエンジンなどに手を加える必要がありました。

当時はミニバンが販売台数を伸ばし、1997年にトヨタ ハリアー(レクサス RX)が世界的なヒットモデルとなったことで、クロスオーバーSUVが流行する兆しも見え始めていました。さらに初代プリウスが登場したことで、トヨタ以外のメーカーもハイブリッドなど環境性能を重視したモデルの市場投入が必須となりました。

このような時代背景から、ハイパワースポーツを継続して生産するのは困難と判断されたのでしょう。

  • マツダRX-7 タイプR バサーストR

    RX-7 タイプR バサーストR

  • マツダRX-7 タイプR バサーストRの運転席

    RX-7 タイプR バサーストRの運転席

マツダは2001年8月にRX-7の特別限定車として「タイプRバサーストR」を500台限定で発売。専用の車高調整式ダンパーを装備してオーナーの好みに合わせた走りを楽しめるようにし、マツダスピード製のカーボン調パネルやカーボン製シフトノブ、カーボン製パーキング・ブレーキレバーなどで特別な雰囲気が演出されたモデルです。

何よりすごいのは車名とグレード名に3つも「R」が使われていること。詳細な資料がないので筆者もわかりませんが、RX-7の「R」はロータリーエンジンから取られているのは確か。タイプRの「R」はレーシングの意味だと思います。バサーストRの「R」もロータリーかレーシングを表していると思いますが、性能はもちろん、車名の圧倒的なインパクトにヤラれた人は多かったはずです。

  • マツダRX-7 タイプR バサースト

    RX-7 タイプR バサースト

そして同年12月には、タイプRバサーストRの専用車高調整式ダンパーを装備し特別装備としてフォグランプを採用した「タイプRバサースト」がカタログモデルの特別仕様車として設定されました。

ロータリースピリットよ、永遠なれ。そんな思いを感じる「スピリットR」

  • マツダRX-7 スピリットR

    RX-7 スピリットR

生産終了へのカウントダウンが始まった2002年3月、マツダはRX-7最後の限定車として「スピリットR」シリーズを発表し、4月から販売しました。

スピリットRにはタイプA、タイプB、タイプCという3種類が用意されました。
タイプA:2シーター5速MT(最高出力:280ps)
タイプB:4シーター5速MT(最高出力:280ps)
タイプC:4シーター4速MT(最高出力:255ps)

スピリットR タイプAには専用のレカロ製フルバケットシートが備わり、ドリルドタイプの大径4輪ベンチレーテッドディスクブレーキとステンレスメッシュブレーキホースでブレーキ性能を強化。ビルシュタイン製の専用ダンパーも採用され、RX-7史上もっとも走りの性能を高めたモデルと謳われました。
文字通り、マツダのスピリットであるロータリーエンジンの魅力を引き出す性能が与えられたスピリットRシリーズは即完売となり、現在では状態がいいものだと中古車市場で1000万円近い価格で取引されています。

  • マツダRX-7 スピリットR

    RX-7 スピリットR

スピリットRはRX-7の後継モデルとなるRX-8でも生産終了前に設定されて完売となり、RX-8の生産終了に伴いロータリーエンジンを搭載した市販車は姿を消しました。でもマツダのロータリースピリットはファンの心にしっかり刻まれ、マツダのこだわりを表した「R」という記号も、記憶に残るものとなっているはずです。

  • マツダRX-8 スピリットR

    RX-8 スピリットR

(文:高橋満<BRIDGE MAN> 写真:マツダ)

グレード名で語る名車たち

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