デートカーから走り屋御用達マシンへ。シルビア「K's」「スペックR」・・・グレード名で語る名車たち
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S13型シルビア K’s
クルマは装備や機能の違いでいくつかのグレードが用意されます。中にはハイパフォーマンスなパワートレインを搭載した特別なグレードが用意されるモデルも存在します。そのグレード名やサブネームはモデル名とともに、クルマ好きの記憶に刻まれています。中にはグレード名やサブネームが後に車名になったものもありました。
本コラムでは多くの人の記憶に残るモデルをグレードから振り返っていきます。
最終回となる今回のコラムでは、デートカー、そして走りやご用達として今でも人気の高いシルビアに与えられたグレードをお届けします。
トランプのカードがグレード名に
筆者が通っていた高校は都内にあるミッション系の私立高校(男子校)で、大学の附属高校ということもあり、わりとのんびりした雰囲気でした(とはいえ進学できるのは2割程度なので3年になってから地獄を見るのですが……)。同級生には、富裕層(いわゆるボンボン)の息子もそこそこいて、ごくごく平凡な庶民だった筆者は、高校時代に「格差社会」というものをまざまざと見せつけられていました。
特に驚いたのは高校3年時。春や夏が誕生日の同級生は夏休みを利用して教習所に通って運転免許を取得し、夏休み明けにクルマで学校に来るヤツが結構いたんです。しかも親のクルマではなく、買ってもらった自分のクルマです。
筆者が高校3年生だったのは1988年。この時代はいわゆるデートカーが全盛で、同級生が親に買ってもらうクルマもホンダ プレリュード(BA5)やトヨタ スプリンタートレノ(AE92)などのスペシャリティモデルでした。
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S13型シルビア Q’s
その中でもみんなを驚かせたのが、当時発売されたばかりだった日産 シルビア(S13)でした。学校に乗ってきたS君も誇らしげで、放課後に男5人で学ランのままシルビアに乗り込み、ドライブしたのをよく覚えています。
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S13型シルビアQ’sのインテリア
シルビアの何がカッコよかったかというと、まずはデザイン。薄いヘッドライトがとてもクールで、曲面を活かしたボディ形状も他のスペシャリティカーとは一線を画すものでした。インテリアも曲面が多用され(サラウンドインテリアと名付けられました)、何よりヘッドレスト一体型のシートには驚かされました。そして筆者が何より惹かれたのが、シルビアのグレード名でした。
プレリュードやトレノはスポーツを表すSが使われたり、走りを連想させる「GT」という名前が付けられたり、その他のグレードでもアルファベットを並べる形で表現されていたのに対し、S13型シルビアは「K's」「Q's」「J's」というトランプのカードをグレード名に採用。まだ高校生だったのでバブルへと向かう好景気を実感する機会はありませんが、この時代特有のチャラさとハードボイルド感が入り混じっていて、なんとも言えない「響きの良さ」を感じました。
S13型シルビアはデートカーから走りやご用達へ
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S13型シルビアのCA18DETエンジン
そんなS13型シルビアのグレードによる違いは以下の通りです。
■K's
1.8L直列4気筒DOHCターボエンジン
■Q's
1.8L直列4気筒DOHCエンジン
■J's
1.8L直列4気筒DOHCエンジン
Q'sより装備を簡素化
1991年1月のマイナーチェンジでエンジンが2L DOHCへとアップグレード。K'sにはターボが搭載されたことは変わりません。
ちなみに筆者の同級生が乗っていたシルビアはライムグリーンのQ's。この「Q」という響きがとても艶っぽく、それだけでQ'sがベストグレードと思っていました。
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S13型シルビア コンバーチブル
S13型シルビアは、デビュー時はまだデートカーとしての側面が強かったと思います。S13型発売と同時にオーテックからシルビアコンバーチブルが用意されていたのもそれを象徴するものでした。
一方で5ナンバーサイズのコンパクトなクーペで、ターボを搭載したFR車は、走り好きにとっても最高のスペック。もちろん先代のS12型でもシルビアの高い走行性は評価されていましたが、90年代に入りデートカーという言葉がだんだん使われなくなっていくと、S13型=走り屋御用達のモデルになっていきました。
S14型でもグレード名の法則を継承
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S14型シルビア
シルビアは1993年10月にS14型へとフルモデルチェンジ。S14型の前期型は「ホリゾンタルストリームシェイプ」と名付けられた、流麗で柔らかい印象のデザインを採用。これはS13の美しさをベースに、よりエレガントなスタイルを狙ったのだと感じます。
しかし、残念ながらこの評判がすこぶる悪かった。シルビア=走りのイメージが定着する中で、柔らかさを感じさせるデザインがマッチしなかったのでしょう。また、全幅が拡大されて3ナンバーサイズになったのも、走り好きの若者からの評判を落とす結果になってしまいました。
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後期型のS14型シルビア
S13型が大ヒットし、その路線を継承したはずなのに、S14型の評判は良くない。開発陣や販売現場は慌てたはずです。1996年6月のマイナーチェンジでは、前期型の面影を感じられないほど、睨みを利かせたスポーティさを強調したデザインに変更されました。
そんなS14型のグレード名は、S13型が採用したトランプのカード名を踏襲。スタイルをガラッと変えた後期型でもグレードの法則は変わらなかったので、「K's」「Q's」「J's」はシルビアを象徴する名前として定着した……と、当時の筆者は思っていました。
原点回帰して走りに振り切ったS15スペックR
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S15型シルビア スペックR
シルビアは1999年1月にフルモデルチェンジし、S15型へと進化します。このフルモデルチェンジには驚かされました。
この当時、多くのクルマがモデルチェンジのたびにボディサイズを拡大していました。これにはさまざまな理由があったと思いますが、もっとも大きな理由は物品税の廃止です。
1989年に消費税が導入されるまで、自動車には購入時に軽自動車で15.5%、小型乗用車(5ナンバー車)で18.5%、普通乗用車には23%の物品税がかかっていました。しかし物品税が廃止されたことで小型乗用車枠に固執する必要がなくなり、5ナンバーサイズから3ナンバーサイズに拡大される例が多く見られたのです。S13型からS14型へのフルモデルチェンジもまさにその典型と言えるでしょう。
しかしS15型へのフルモデルチェンジでは、3ナンバーサイズから5ナンバーサイズに回帰。これは「コンパクトなスポーツカーを思い切り走らせたい」というファンの要望に応えたもの。3ナンバー車→5ナンバー車という劇的な変化ではありませんが、同様の変更はR33型からR34型にフルモデルチェンジしたスカイライン(およびスカイラインGT-R)でも見られました。
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S15型シルビア スペックRの運転席
ダウンサイジングにより「原点回帰」を明確に打ち出したS15型シルビアは走り好きのファンからの支持を集めます。そしてS15型は、S14型まで使われた「K's」「Q's」「J's」というオシャレなイメージもあったグレード名を廃止し、ターボエンジン搭載の「スペックR」とNAエンジン搭載の「スペックS」という、走りの良さを連想させるグレード名に変更されました。
シルビアで今でも人気が高いのはターボ搭載モデル
そんなシルビアの人気グレードは、やはりターボエンジン搭載のK'sとスペックR。パワフルなエンジンをぶん回して、コンパクトで軽い車体を思い切り引っ張るのはターボならではの魅力。実はNAエンジンもかなり楽しいのですが、ターボの魅力に取り憑かれた人が多いのでしょう。K'sとスペックRで状態のいい中古車は、新車時の倍以上の価格で取引されるものが少なくありません。
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アイディーエックス ニスモ
シルビアは平成12年排ガス規制の影響で2002年に生産終了。ファンからは今でもシルビアの復活を望む声が上がっています。2013年の東京モーターショーで日産ブースにサプライズモデルとして「アイディーエックス ニスモ」が登場した際は「ついにシルビアが復活か!?」と話題になりましたが、残念ながら現在まで市販化はされていません。
でもいつかまた、コンパクトでハイパワーなFRスポーツを日産に作ってほしい。そう思い続けているファンは大勢いるはずです。
(文:高橋満<BRIDGE MAN> 写真:日産自動車)
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