大容量バッテリーがあるのになぜ? EVでも「バッテリー上がり」が起きるワケ
「電気自動車(BEV)やハイブリッド車(HEV)なら、バッテリー上がりとは無縁のはず」
そう思う人も多いのではないでしょうか。BEVは、ガソリン車とは比べものにならないほど大きな駆動用バッテリーを積んでいます。ハイブリッド車も、モーター走行や発進補助に使う高電圧バッテリーを備えています。
それでも、JAFが公表するロードサービス救援データを見ると、バッテリー上がりは今も出動理由の上位に入っています。2025年度の四輪・二輪合計では、出動理由の1位は「バッテリー上がり」でした。BEVに限っても、過放電した補機バッテリーによるトラブルは「BEVの駆動用電池切れ」、いわゆる電欠を上回る件数で、出動理由の上位に入っています。
大きな駆動用バッテリーを積んだ電動車が、なぜ小さな補機バッテリーひとつで動けなくなるのか。その理由は、現代のクルマの電気系統の仕組みにあります。
駆動用バッテリーとは別に、12Vの補機バッテリーを搭載している
BEVやHEVには、走行用のエネルギー源として高電圧の駆動用バッテリーが搭載されています。HEVであれば数kWh前後、BEVであれば数十kWhから、大型車では100kWh級に達するものもあります。
ただし、多くの量産車には、それとは別に12V系の補機バッテリーも搭載されています。従来は鉛蓄電池が中心でしたが、車種によってはリチウムイオン系の補機バッテリーを採用する例もあります。
補機バッテリーは、車内照明、パワーウィンドウ、ホーン、ワイパー、ヘッドランプ、各種センサー、スマートキーの受信ユニットなど、車両の基本的な電装品を動かすために使われます。また、車両システムを起動させる役目も担っています。
駆動用バッテリーを使える状態にするのが12Vバッテリーの役目
では、なぜ大きな駆動用バッテリーから直接、起動に必要な電力を取らないのでしょうか。
数百ボルトに達する高電圧の駆動用バッテリーは、安全のため、システムが停止している間は車両の主要回路から切り離されています。事故や漏電などのリスクを避けるためです。
この高電圧回路をつなぎ、駆動用バッテリーを使える状態にするには、先に車両側の制御システムを起動させる必要があります。その起動に使われるのが、12Vの補機バッテリーです。
駆動用バッテリーに十分な残量があっても、12V側の電力が不足していれば、高電圧バッテリーを使える状態にできません。JAFも、BEVやPHEV(プラグインハイブリッド車)では12Vバッテリーが上がると、たとえ駆動用バッテリーがフル充電でもシステムを起動できず、走行不能になると案内しています。
たとえるなら、体力は残っているのに、目を覚ますためのスイッチだけが入らない状態です。
駐車中も電気は少しずつ使われている
クルマは、電源を切って駐車している間も完全に眠っているわけではありません。
スマートキーの待機、セキュリティシステム、通信機能、時計やメモリー保持、各種ECUのスリープ電力など、見えないところで少しずつ電気を使っています。こうした待機電流は「暗電流」と呼ばれます。
一日あたりの消費量はわずかでも、長期間放置すれば補機バッテリーの残量はじわじわ減っていきます。たとえば、補機バッテリー容量を60Ah、暗電流を50mAと仮定すると、単純計算では容量の半分を失うまで約25日です。実際には車種やバッテリーの状態、気温、通信機能の作動状況などで大きく変わりますが、長期旅行や出張で何週間も乗らない場合は注意が必要です。
とくに、バッテリーが劣化しているクルマや、月に数回しか動かさないクルマでは、気づかないうちに補機バッテリーの放電が進んでいることがあります。
「チョイ乗り」も負担になりやすい
ガソリン車では、エンジンが回るとオルタネーターが発電し、12Vバッテリーを充電します。一方、BEVやHEVでは、駆動用バッテリーの高電圧をDC-DCコンバーターで12Vに変換し、補機バッテリーや12V系の電装品へ電力を供給します。
ポイントになるのは、車両がREADY、つまり走行可能状態になっているかどうかです。READY状態であれば、車種ごとの制御に従って12V系へ給電されます。反対に、電源オフのまま長く置いたり、短距離移動ばかりを繰り返したりすると、補機バッテリーには負担がかかります。
近所の買い物だけ、駅までの送迎だけといった短時間の移動を繰り返すと、起動時や待機中に使った電力を十分に回復できないまま、次の使用に入ることがあります。これはガソリン車にも共通する問題ですが、電動車では「大きな駆動用バッテリーがあるから大丈夫」と考えがちな点に注意が必要です。
BEVでは、自宅で駆動用バッテリーを充電していても、車種や状態によっては補機バッテリーが十分に充電されない場合があります。充電ケーブルに接続しているから12V側も安心、とは限りません。
EVのバッテリー上がりは、予兆がわかりにくい
ガソリン車の場合、バッテリーが弱ってくると「セルモーターの回りが重い」「ヘッドライトが暗い」「エンジン始動に時間がかかる」といった変化が出ることがあります。
しかし、BEVやHEVでは、こうした変化に気づきにくい場合があります。多くの電動車はガソリン車のようにセルモーターでエンジンを始動するわけではないため、12V補機バッテリーが弱っていても、一度起動してしまえば普段どおり走れてしまうからです。
ところが、ある朝、補機バッテリーの電圧が起動に必要な水準を下回ると、突然システムが立ち上がらなくなります。昨日まで普通に動いていたのに、翌朝にはドアロックが解除できない、メーターが点灯しない、システムエラーが出る。そんな事態も起こることもあります。
この予兆の少なさが、電動車の補機バッテリー上がりをわかりにくくしています。
ACCモードの長時間使用に注意
補機バッテリーに負担をかけやすい使い方のひとつが、アクセサリー(ACC)モードでの長時間使用です。
オーディオを聴く、スマートフォンを充電する、車内で待機する。こうしたときにREADY状態にせず、ACCモードのまま電装品を使い続けると、12V側の電力を消費しやすくなります。車種によって制御は異なりますが、長時間車内で待つ場合は、取扱説明書で指定された待機モードやREADY状態を使うのが基本です。
エアコンを使いたい場合も注意が必要です。BEVやHEVでは、エアコンの仕組みも車種によって異なります。ACCのまま長時間使用するのではなく、その車の取扱説明書に従ってください。
予防策は「定期的に動かす」「点検する」「説明書を読む」
補機バッテリー上がりを防ぐ基本は、定期的にクルマを動かすことです。短距離を少し走るだけで済ませず、READY状態を一定時間保ち、12V系へ給電される時間を確保したいところです。
長期間乗らないことがわかっている場合は、補機バッテリー対応の充電器を使う方法もあります。ただし、BEVやHEVの補機バッテリーは、搭載位置や種類、接続方法が車種によって異なります。自己判断での作業は避け、使う場合は必ず取扱説明書や販売店の案内に従ってください。
万が一に備えて、ジャンプスターターを用意しておくのも一つの手段です。モバイルバッテリー式の小型ジャンプスターターであれば、補機バッテリー上がりの応急的な始動に使える場合があります。ただし、これも車種ごとに接続場所や手順が違います。対応可否と手順を確認してから使いましょう。
EVで他車を「助ける」のは要注意
自分のクルマの補機バッテリーが上がったとき、他のクルマから電気を分けてもらってシステムを起動することは、多くの車種で可能です。実際、取扱説明書には救援用端子やブースターケーブルの接続方法が記載されていることがあります。
一方で、電動車が「助ける側」になる場合は、より慎重な確認が欠かせません。
ガソリン車の始動では、セルモーターを回すために瞬間的な大電流が流れます。この負荷を、BEVやHEVの救援用端子や12V系が想定していない場合があります。車種によっては、他車のバッテリー上がりを救援することを明確に禁止しているケースもあります。
そのため、BEVやHEVで他車をジャンプスタートする前には、必ず取扱説明書を確認してください。「他車への救援禁止」「救援用端子は自車が救援を受けるためのみに使用する」といった記載がある場合は、絶対に行ってはいけません。
EV時代でも、補機バッテリーは重要
BEVやHEVは、駆動用バッテリーやモーター、回生ブレーキなど、従来のガソリン車とは違う仕組みを備えています。それでも、システムを最初に起動させる役目は、今も12V系の補機バッテリーが担っています。
大きな駆動用バッテリーに目が向きがちですが、小さな補機バッテリーが弱るだけで、クルマ全体が動かなくなることがあります。
電動車だからバッテリー上がりとは無縁、というわけではありません。補機バッテリーの存在を意識しにくいぶん、日常点検や長期駐車時の管理が欠かせません。定期的にクルマを動かす、補機バッテリーの状態を点検する、ACCモードの長時間使用を避ける。困ったときは自己判断で無理に対処せず、取扱説明書やロードサービスを頼ることも大切です。
電動車を安心して使うには、大容量の駆動用バッテリーだけでなく、小さな12Vバッテリーにも気を配る必要があります。
(文:小松暁子 編集:平木昌宏 画像:Adobe Stock)
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