「敵」がいっぱい。離島クルマ事情 -その5-

「離島のクルマ事情」と題して、島のカーライフを紹介しているこのシリーズ、今回は離島でのクルマの「敵」についてお伝えしたい。

大らかな牛たち

すべての離島に牛がいるわけではないが、牛がいる島は少なくない。島根県隠岐諸島・知夫里(ちぶり)島では、黒毛和牛になる子牛がたくさんいるのだ。知夫里島の子牛は、1年のほとんどを斜面の放牧地で過ごすため、足腰が強く、肥育に適しているなどの理由で、名だたるブランド牛産地からひっぱりだこの人気を誇る。しかし、クルマにとってはこの牛たちも敵になる。

Ⓒ知夫里島 畜産担い手

離島育ちの牛たちは警戒するということを知らない。自由に道路に出てきて気ままに寝そべる姿はかわいくもあるが、ときとして邪魔なこともある。とにかく「どかない」のである。クルマで接近しても気にも留めずに口をモグモグとさせるだけ。ホーンを鳴らすと「よっこいしょ」と重い腰をあげてどいてくれる牛もいる。しかし、中にはどかない牛もいる。そんなときは軽くクルマで「牛を押す」のである。すると「しょうがないな」という風情で、クルマが通れるくらいの幅を空けてくれるのである。

そして「落とし物」に困惑

自由な牛たちは気ままに「落とし物」をしてくれる。初見では「単なる泥の塊」に見える牛たちの「落とし物」。近づくとしっかりとした臭いを感じるだろう。いわゆる牧場の匂いというのは、牛たちの「落とし物」の匂いであることが実感できる。

牛がいる島に住む人々は、牛がいる界隈に自分のクルマで近づくことを嫌う。というのは、タイヤで「落とし物」を踏み、巻き上げると、シャシーにこびりつき、相当匂うからだ。特に鉄板にこびりついた「落とし物」が熱を持ち乾燥したものは手に負えない。

潮風による塩害も…

離島のクルマは、常時潮風にさらされている。ふとドアなどに触れたとき、「べたついている」ことでこれを実感する。メッキ部品などはいつの間にか錆びていることも。台風が通りすぎた後などは、ボディーに海藻がこびりついていることもあるため、海に囲まれていることを改めて実感する。

塩対策としては、まめな洗車とワックスがけしかないとされている。洗車といっても、洗車場がないことも多く、ホースで水洗いするのが関の山。ワックスをこってりと塗り、メッキ部分などは「拭き取らない」ことでどうにかサビから守ることができる。手を抜くと街道沿いの廃虚よろしく朽ちてゆくのが離島のクルマたちなのだ。

旅行者にかけられる「こんなところまでよく来たねぇ」という島の人々の言葉には、「クルマが汚れるのに…」という意味合いもあるとかないとか。離島でキレイなクルマを維持するのは簡単なことではない。

(上泉純+ノオト)

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road