消防車も完備! 比叡山延暦寺の徹底した消防設備

日本仏教史において、欠かすことのできない寺院「比叡山延暦寺」。歴史の教科書などで、誰でも一度は、その名を目にしたことがあるでしょう。そんな名刹に自前の消防車があるのをご存知でしょうか。深い歴史に裏打ちされた価値ある文化財と、多くの参詣客の安全を守るため、比叡山延暦寺ではなんと自警消防団を組織されているそうです。

「延暦寺」ってどんな寺?

伝教大師 最澄
伝教大師 最澄

開山は788年。伝教大師「最澄(さいちょう)」が、薬師如来を本尊とした草庵を比叡山に建てたことからその歴史は始まります。最澄は、仏教の教えを説き、民衆の率いる指導者(=菩薩僧)を育成すべく、この山で修学修行を行う教育制度を確立。法然、親鸞、栄西、道元、日蓮と、名だたる高僧を輩出し、鎌倉時代には、彼らが祖師となって多くの宗派が誕生しました。そのため延暦寺は、「日本仏教の母山」とも称されています。1994年には古都京都の文化財の一部として、ユネスコ世界文化遺産にも登録され、開山からおよそ1200年、現在も多くの参拝客が訪れています。

消防団結成は過去の記憶から

比叡山延暦寺の境内全図(イメージ)
比叡山延暦寺の境内全図(イメージ)

京都府と滋賀県にまたがる比叡山。その標高は848メートルあり、延暦寺の建造物群は、標高650~700メートルのところに位置しています。ちなみに「延暦寺」とは、ひとつの建造物を表すのではなく、およそ1,700ヘクタールの境内に点在する100あまりの堂宇の総称です。境内は、「東塔(とうどう)」、「西塔(さいとう)」、「横川(よかわ)」と3つのエリアに分かれ、延暦寺で一番知られている「根本中堂」は東塔エリアにあります。

広大な敷地と数ある堂宇。もしも、どこかから出火したらひとたまりもありません。実際に延暦寺は、1942年に落雷で横川エリアの「横川中堂」を焼失し、1956年には、東塔エリアの「大講堂」で火災が発生した過去があります。これらの経験を踏まえ、自警消防団が組織されるようになりました。仮に火災が発生し、麓の消防署に連絡を入れても、標高差600メートルを緊急走行するのに、およそ30分かかってしまうそうです。これでは被害が拡大してしまいます。

「延暦寺」と書かれた消防車もスタンバイ

本格的に防火防災設備の整備が始まったのは、1981(昭和56)年から。およそ9年かけて行われました。山頂に約2,000トンの防火用水の貯水槽を設置したほか、山内各所に水を通し、「消火栓」、「屋内消火栓」、「ドレンチャー設備」、「放水銃」を境内各所に完備。万が一の際は、延暦寺警備課が陣頭指揮を取り、消火活動を行います。彼らが「自警消防団」の側面を持ち、365日24時間体制で根本中堂近くに詰所を置き、月に数回、消火設備を利用した訓練を行っています。

消火訓練の様子
消火訓練の様子

消防車は、昨年までは1984年製と見られる「トヨタ・ランドクルーザーFJ60」と、「三菱・キャンター」の2台のポンプ車を所有していましたが、今年からはキャンターの1台体制に。火災が起きた場合、現地に設置してある防災水槽から給水し、消火活動を行います。これらの消防車は、関係寺院の住職の紹介で、京都市消防局が新しい消防車を購入の際に、まだ使うことができる消防車を譲り受けたものだそうです。

延暦寺全体での消防訓練は、毎年7月と11月。参拝客や職員、そして本尊の搬出など、万が一の場合を想定し、しっかりとした体制を組んで訓練に臨んでいるとのこと。山頂近くにある有名寺院は、人命と貴重な文化財を守るべく、徹底した防火防災体制が組まれています。

(取材・文:別役ちひろ 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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