豊田喜一郎が大改革? クルマの「単位」にまつわる歴史
距離や重さを表す単位には、メートル(m)、キログラム(kg)を使いますよね。電流には、A(アンペア)を用います。これらは「国際単位系(SI)」と呼ばれる単位で、1954年(昭和29年)に国際的な単位として認められたものです。この他にも、ローカルな単位が存在します。日本の場合は尺(しゃく)や貫(かん)などが、これに当たりますね。
こうした単位をめぐって、1921年(大正10年)4月11日、日本のクルマ業界や産業が大きく揺れたことがありました。「すべての単位をメートル法に一本化する」という改正法ができたからです。
日本も明治18年にメートル法を採用。しかし……
メートルやキログラムは、それまで国でよってまちまちだった「距離や重さを計測する国際的な単位」として、フランスで発明されました。「メートル法」と呼ばれたこれらの単位系は、計量法の統一を目指して、1875年(明治8年)に成立した「メートル条約」で正式に国際的な単位として認定。この条約には、数多くの国が加盟しました。
実は日本も、この条約に1885年(明治18年)から加盟しています。しかし、当時の日本はまだまだ伝統的な「尺貫法」に慣れ親しんでおり、「尺貫法を捨てるのかと!」と大きな反発がありました。
また当時、日本の海軍はイギリスと深い関係があったことから、同国のローカル単位である「ヤード・ポンド法」を使っており、同様にイギリスやアメリカから工業機械を輸入していた製造業もヤード・ポンド法だったため、日本ではしばらくの間、陸軍はメートル法、製造業や海軍はヤード・ポンド法、一般的な場で使うのは尺貫法といった具合に、場所や業種によって使われる単位がまちまち、という状況が続きます。
機械化が進みさまざまな問題が出てくる
このごちゃまぜ状態に、本格的に異議が唱えられたのは、日露戦争後でした。1904年(明治37年)2月から1905年(明治38年)9月まで続いたこの戦いは、今までとは比べ物にならない物資を必要とした戦いでした。前線での弾薬不足も頻発しましたが、ここには陸軍向けの弾薬をメートル法で、海軍向けをヤード・ポンド法で作っていたため混乱が生じた、という要因もあったようです。
第一次世界大戦がはじまると、日露戦争とは比べ物にならないほどの物量が必要だということがあらわになります。戦闘が続く欧州に代わって、日本は数々の製品を生産することになりましたが、そこでも単位の取り違えによるトラブルが発生。
戦争が終わって機械化が急速に進むと、一般社会でも大量生産・大量消費が当たり前となり、このまま各所で異なる単位を採用し続ければ、大きなトラブルが生まれることが確実だと判断されました。そこで「この状況をなんとしてでも変えなければ」という意思を持った物理学者の田中舘愛橘(たなかだて あいきつ)は、首相に就いた原敬(はら たかし)の協力を得て、メートル法への単位統一に動き始めます。
原と田中館は、メートル法を使っていない海軍や大手製造業を説得し、理解を得ることに成功。単位をメートル法に一本化する改正法「大正10年4月11日法律第71号 度量衡法中改正法律」の公布にこぎつけます。
豊田喜一郎「将来の国民に対して申しわけない」
このころ、のちにトヨタ自動車となる豊田自動織機製作所はすでにクルマを作っていましたが、さまざまな分野の職人さんが関わっていたため、ヤード・ポンド法や尺貫法を使っていた図面もあったそう。しかし、度量衡法改正とともに同社では、道具や工具、ゲージ類をすべて交換し、全図面を描き直すという大規模な改革を行いました。
もちろん、途方もない費用や労力がかかる一大事であったわけですが、当時の社長だった豊田喜一郎は、自動車産業がいつまでも「インチ」で進むことは国家として非常な損失であると判断し、「いかなる犠牲を払ってでもメートル法にしなければ、将来の国民に対して申しわけない」と訴えたそうです。
- トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎
「15インチアルミホイール」というように、現在の日本でインチを用いるヤード・ポンド法は、タイヤの規格を表す単位として残っていますが、その他の多くの部分は「m・kg」で表されています。
尺貫法は、お酒やお米などを測る単位である「合(ごう))として残っていますが、この単位でガソリンを測ることはありません。現在、私たちが距離や重さを知る時に混乱しないのは、当時の人たちが、愚直に未来に対して虹を掛けてくれたおかげなのですね。
(取材・文:斎藤雅道 編集:木谷宗義+ノオト)
(参考文献)
1907.06.20読売新聞朝刊
1909.03.09読売新聞朝刊
1919.03.14読売新聞朝刊
『メートル法と日本の近代化』(現代書館) 吉田春雄
トヨタ自動車75年史 第4節 自動車部組立工場と挙母工場の建設 第9項 メートル法の導入
https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/text/taking_on_the_automotive_business/chapter2/section4/item9.html
[ガズー編集部]
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