北海道のシカ分布に異変? シカとの事故を防ぐために気をつけたいこと

これまでもシカとの交通事故件数の多かった北海道。ここ数年、北海道内におけるシカとの事故の傾向に変化が起きています。北海道のシカ事情と、事故に遭わないために心がけるべきことについてあらためて紹介します。

人間の外出が減ったら、野生動物の出没が増えた?

北海道で新型コロナウイルス感染症の影響により、知事から緊急事態宣言が出され、外出自粛が呼びかけられたのが2020年2月28日のこと。これ以降、数ヶ月に渡り、北海道民は不要不急の外出を控える生活に入りました。その頃、折に触れて耳に入ってくるのが、ラジオの道路交通情報の道路への野生動物侵入のインフォメーションでした。「例年より道路への動物侵入が多いのでは? もしや外出自粛で人間が外に出ないから野生動物が多く里に下りてくるのだろうか?」という疑問を持っていたところ、北海道苫小牧市では、今年になってシカの出没が多いという情報を得たのです。
北海道警察本部交通部交通企画課の資料によると、苫小牧市が含まれる胆振地方でのシカとの事故発生件数はここ数年増え続けています。胆振地方では、2017年は374件、2018年が442件、2019年には528件となっています。そのうち苫小牧市に限ると2018年が200件、2019年は214件です。
そこで、苫小牧市のシカの今年の出没状況について苫小牧市環境衛生部環境生活課に伺いました。

「今年は昨年と比べても苫小牧市でシカが出没している、シカの死骸を見かけたなどの通報も増えています。昨年は4月から10月の間に47件だったものが、今年は同じ期間になんと74件もの通報が入っています。ここ5年ほどを見ても、明らかにシカに関する問い合わせが増えていますね」(苫小牧市環境衛生部環境生活課)

  • 写真:苫小牧市ウェブサイトより

    写真:苫小牧市ウェブサイトより

この話を受けて、地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所 自然環境部長で農学博士の宇野裕之さんに、お話を聞きました。

野生動物はハンターのクルマの音を聞き分ける!

――人間の外出自粛と野生動物の出没が多くなっていることに関係性はあるのでしょうか?

最近よく、「コロナの影響で野生動物が町に出てきやすくなったのでは?」と聞かれることがあるのですが、人間が外出を控えているといっても、散歩や買い物で出歩く方はいますし、クルマは走っているわけですから、そうそう野生動物の行動に影響はないでしょう。
ただ、例えば、外出自粛によりハンターが見回りをできないとしたら、動物たちが油断して出没するというのはあるかもしれません。野生動物というのはハンターをとても警戒していて、ハンターのクルマの音は識別しているのです。農家さんや一般の人がクルマで走ってきても何も反応しませんが、ハンターのクルマが来ただけですぐに逃げていくものなのです。ですから、そういうことがない限り、コロナによる直接の影響はまずないと考えてください。

――ハンターのクルマの音が野生動物にはわかるのですか! では、なぜコロナの影響がなくてもこの3~5月に道路への動物侵入がとても多いように感じたのでしょう。

それは、そもそものシカの生態によるものです。
北海道で外出自粛の要請が出た後の3~5月というのは、ちょうどシカの季節移動の時期なんですよ。シカは冬と夏で生息地を変えます。越冬している場所から夏の生息地へと移動するのがちょうど3~5月です。この時期には多くのシカが移動します。道路の横断もするので、道路侵入や交通事故が多くなるのです。そういうのが時期的にちょうどマッチしていたので、インフォメーションが多くなったと感じたのかもしれません。でも、たぶん同じことが毎年起きているはずです。

――意識して聞いていたから、インフォメーションが多く耳に入っていたのかもしれませんね。

そうですね(笑)。そして、秋から冬にかけても事故が増えてきます。10月11月は、夏の生息地から越冬地への移動が始まるとともに、シカの繁殖期にも入ります。この時期はオスの活動が活発になり、ものすごく動き回るのです。そのため、事故も多くなってくるわけです。
ですから、コロナの影響とは関係なく、春の3~5月と秋の10~11月にシカの道路侵入や交通事故が増加する傾向にあるということです。

今後は、札幌市・苫小牧市周辺など北海道の西側地域でシカに要注意!

――では、苫小牧市でシカが増えているのはなぜなのですか?

これまで、シカが一番多いのは釧路などの道東地域だったのですが、現在、徐々に数を減らしてきています。これは、積極的な捕獲などシカの管理をしっかり行ってきた結果です。一方、苫小牧市や札幌周辺などの西側の地域では、シカは増え続けています。シカの年増加率はおよそ20%で、100頭のシカがいたら翌年には120頭に増えるということですね。自然にはなかなか減っていってはくれないので、その増加分より多く獲らなくてはシカはどんどん増えていく。特に雪の少ない苫小牧市はシカが生息しやすく、全道一、シカが増えていっているといっても過言ではありません。

そして、道東地域に比べて、これまでシカの被害の少なかった西側の地域では、残念ながらシカ対策は十分ではありません。捕獲も追いついていませんし、一般道での侵入防止のフェンスの設置も遅れています。さらに、札幌周辺から胆振地方ではクルマの交通量も多いため、シカとの交通事故が顕著に増えているのです。

――苫小牧市ばかりでなく札幌市のように人口もクルマも多い都市部を含む北海道の西側地域にシカが増加しているということですね。シカを減らす対策が遅れている理由はありますか?

まず、狩猟者の数が減っていることです。1970年代には北海道には2万人以上のハンターがいたのですが、現在は約6,000人と4分の1ほどに減少しています。さらに、ほとんどが60歳以上と、高齢化が進んでいます。体力的に、頻繁に見回ることもできなくなってきますし、シカは150キログラム以上の重さになりますから、獲っても運ぶのに一苦労するわけです。そのようなことから、狩猟者さん任せというわけにいかなくなってきています。そこで、自治体が事業者に依頼して罠による捕獲を始めてはいますが、なかなか追いつかないのが実情です。

シカとの事故を防ぐにはドライバー側が気をつけるのが必須

――北海道の西側地域で増え続けるシカとの事故を防ぐためには、ドライバーが気をつけるしかないということでしょうか?

そうですね。シカの方には「生息地へ移動する」という、そこを通らなければならない絶対の理由があるので、道路を横断することはやめません。道路は後から人間が作っているわけですから、人間の側でぶつからないように気をつけるしかありません。

季節として気をつけなければならないのは春と秋ですが、時間帯としては朝方と夕方。「薄明薄暮」といって、日の出・日の入り前後にシカは採食活動が活発になるという生態があるのでよく動きます。特に夕方は、人間側も目が慣れないため、道路に動物が飛び出してきても認識が遅くなります。この時間帯には、いつ飛び出してきても十分に止まれる速度で走ってほしいと思います。

また、シカは群れで行動しますので、1頭出てきたら、そのあとにも続けて出てくると思っていれば間違いありません。よく聞くのは、1頭目が行ったからと安心して進んだら、クルマの横っ腹にドーンとぶつかられてしまうという事故です。これには要注意です。シカが1頭横断して行ったら、しばらくは徐行して、続いてくる2頭目、3頭目をやりすごしてください。これらに気をつけておくだけでも、事故に遭うのを最小限に防げるはずです。

コロナの影響よりも、道東ではなく、札幌市や苫小牧市などの北海道の都市部といえる西側地域にシカが増加しているというのに驚きました。シカとの交通事故ではクルマが廃車になるほどのダメージを受けることもあると聞きます。身の安全のためにも、ロードキルを防ぐ意味でも、シカに気をつける運転方法を十分心がけて北海道でのドライブに臨みたいものです。

<取材協力>

苫小牧市環境衛生部環境生活課
http://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/shizen/shizenhogo/yachohogo/syoutotumap.html
地方独立行政法人 北海道総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所
https://www.hro.or.jp/list/industrial/research/eeg/index.html

(取材・文:わたなべひろみ/写真:苫小牧市環境衛生部環境生活課/編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

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