アバントにヴァリアント、ブレーク…同じ「ワゴン」なのに呼び方が違うのはなぜ?
セダンのルーフを後方まで伸ばし、広い荷室を持たせた「ステーションワゴン」。日本車では、「カローラ ツーリング」や「レヴォーグ」が、それに当たります。
海外に目を向けると、ドイツ車を中心に多くの車種が存在していますが、注目すべきはその呼び名。「アバント」や「ヴァリアント」など、メーカーによりさまざまな名称があるのです。では、それぞれどんな意味があるのでしょうか?
アウディ「アバント」
メルセデス・ベンツ、BMWとともに「ジャーマン3」のひとつと言われるアウディは、ステーションワゴンに「アバント(Avant)」という名称を使っています。ドイツのメーカーだけに「どんな意味のドイツ語なんだろう?」と考えてしまいますが、実はドイツではありません。フランス語で「前に」という意味を持つ前置詞なのです。
1976年に登場した2代目アウディ「100」から採用されている名称で、「実用性の高いステーションワゴンのボディ形状に、アウディ独自のデザイン哲学と最先端技術を融合させたもの」をアバントとしているそう。他のステーションワゴンよりも“先を行く”“前を行く”という、アウディのコンセプトが表れていると言えそうですね。
フォルクスワーゲン「ヴァリアント」
フォルクスワーゲンでは、「ヴァリアント」をステーションワゴンの名称として使っており、「ゴルフ」と「パサート」に設定しています。その歴史は1962年にまでさかのぼり、2ドアのフォルクスワーゲン「タイプ3」に追加されたステーションワゴンに「ヴァリアント」と名付けられたのが最初。
ヴァリアントという言葉自体は、どこの国の言葉でもなく、フォルクスワーゲンが独自に生み出した造語だそう。語源は、バリエーションや“同じものの別の形”という意味を持つドイツ語のVariante(発音としてはバリアンテが近い)。つまり、“セダンから派生した形”が由来だったわけです。
メルセデス・ベンツ「シューティングブレーク」
メルセデス・ベンツには通常のステーションワゴンのほかに、「シューティングブレーク」というスタイルのワゴンがあります。リヤウインドウが寝ていて、クーペを彷彿とさせるルーフラインが特徴の、スタイリッシュなデザインが特徴です。
広い荷室を持つことから、ステーションワゴンから派生したボディ形状に思えますが、クーペをルーツとしています。1960年代、イギリスの貴族が余暇に狩猟を楽しむ際に、その道具などを積むため、クーペを改装して広い荷室を与えたクルマを作らせました。それが、シューティングブレークの起源です。シューティングブレークの「シューティング」は「狩猟」という意味だったのですね。
シトロエン/プジョー「ブレーク」
ブレークといえば、かつてフランスのプジョーとシトロエンがワゴンモデルに使っていた名称でした。アウディのアバントがフランス語であったのと同様にそのブランドの母国語ではありません。このブレークはフランス語ではなく、英語です。
「壊す」「破る」「分ける」などを意味する英語の「Break」が、なぜフランスでクルマに使われるようになったのか、明確な意味や起源は不明です。しかし、セダンやクーペといったボディ形状を表すほかの言葉と同じように、馬車から由来しているもののようです。
かつてブレークは、馬を調教・訓練するために使われる小型の車両を指していました。時代が進むにつれ、後部に伸ばしてスペースを拡大し、人と物を運ぶ車両を意味するようになります。ボディを一度、「切り離して(=Break)伸ばす」から、ブレークという名称が定着したようです。なお、プジョーは現在ブレークという名称をつかっておらず、たとえば「508 SW」のようにSWという名称を使っています。これはステーションワゴンとスポーツワゴンの両方の意味を持つ名称です。
今回は、メーカーごとに異なるステーションワゴンの名称にフォーカスしましたが、セダンにも「サルーン」や「リムジン」「ベルリーヌ」といった呼び名があります。なにげなく聞く名前にも、それぞれに歴史やメーカーの思想が込められているのですね。
(取材・文:西川昇吾/写真:アウディ ジャパン、グループPSAジャパン、フォルクスワーゲン グループ ジャパン、メルセデス・ベンツ日本/編集:木谷宗義+ノオト)
[ガズー編集部]
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