約5000万円! 全長約10mの超大型キャンピングカー「モーターホーム」
コロナ禍によるアウトドアブームの影響で、キャンピングカーの需要が高まっています。その中でも、車体サイズ、内装やスペックなど最高級クラスのキャンピングカーを紹介します。
熊本県熊本市の輸入自動車ショップ「WOT’S(ワッツ)」で取り扱っているのは、全長約10m、まるで観光バスのような「モーターホーム」と呼ばれるキャンピングカー。新車価格が約5,000万円と高価ですが、年間3台は販売され、中古車は供給が追い付かないほど需要が高まっているのだとか。
WOT’Sの代表・村上祐一さんに、モーターホームを取り扱った経緯、車体のスペックや魅力、そして活用方法についてお話を伺いました。
アメリカに通っているうちに、輸入車販売店に転身
元々、アメリカの旧車が大好きだったという村上さん。WOT’Sを開業する前は、仕事の合間にアメリカ西海岸のカリフォルニアやネバダ、サンフランシスコへ行き、クルマ販売店やスワップミートを回っていたそうです。
個人的に車体を購入する中でクルマを輸入できるルートができ、アメリカの旧車を取り扱う輸入販売店として開業することになりました。
初めは、1940年代後半のマーキュリーやキャデラック、シボレーのピックアップトラックなどを取り扱っており、現在もオープン当初からの顧客が大半だと話します。
「アメリカに通っていたら、成り行きでクルマ販売店になれました。とにかくアメリカのクルマを日本で走らせたいという思いが強かったんです。それが結果的にビジネスにつながりましたね」(村上さん)
アメリカでは「モーターホーム」というクルマ文化にも出合いました。モーターホームとは、長期にわたって快適な生活ができる車両で、その中でも「クラスA」と呼ばれるのがバスタイプの大型キャンピングカーです。
アメリカでは、自宅や別荘として使う人や全米をモーターホームで回って旅をする老夫婦など使い方は多種多様。モータースポーツのレースでは、チームスタッフがモーターホームでブースをつくっていることも。
村上さんも、自身が使うためにモーターホームを手に入れたのが始まりでした。
「事の発端は、15年ほど前にアメ車のSUVに乗って、キャンプ場でテントを張って楽しむのが流行っていたんです。お客さまからキャンプに誘われるのですが、閉店後に向かうとなると到着が遅くなるためテントを立てて、夕食の準備ができない。だから、クラスAのモーターホームなら、仕事が終わってすぐキャンプ場に向かってもテントを立てることなく始められるから、どうにか宴会に間に合う。大型の冷蔵庫もついていて、食材や飲み物が揃っている状態で参加できる。撤収も楽ですし、トータルで考えるとモーターホームを買った方が早いと思いました」(村上さん)
アメリカのモーターホームビルダー「Tiffin」のクラスAを日本で販売したきっかけ
その後、モーターホームの輸入に着手する村上さん。しかし、アメリカと日本の車体規格が異なるため、日本国内での販売には多くの苦労がありました。一番の障壁は、車体サイズ。
実際、2001年~2011年までは日本国内で登録できるアメリカ製のモーターホームの車両はなかったそうです。しかし、2011年に「女性でも運転できるスモールサイズのクラスA」というキャッチフレーズでTiffinがコンパクトサイズのモーターホームを売り出したことにより日本で輸入販売が可能となりました。
その車体サイズは、全長9.9m、幅2.49m、全高3.6mとナンバー登録できるギリギリの規格でした。
クラスAのモーターホームの運転には、中型免許が必要となります。旧・普通免許であれば自動車学校で試験や講習を受けると8tの限定解除ができるため、中型車として乗ることができます。
現在販売している車体は、左ハンドルのみ。 2021年に右ハンドルの車体を作る予定でしたが、コロナ禍で製造ラインが止まってしまったそうです。車両重量は11t、排気量は6,500cc前後。
新車は、31フィートの「アレグロブリーズ31BR」と33フィートの「アレグロブリーズ33BR」の2種類を販売しています。
内観はまるで高級ホテル! 広々とした室内空間と大型のベッドには驚かされます。31フィートの車体にはクイーンサイズのベッド、33フィートのキングサイズのベッドをそれぞれ2台使用でき、エクストラベッドも展開すれば最大6人寝られます。
キッチンはもちろん、シャワー室やトイレ、洗面台完備。テレビや革張りのソファー、洗濯機や大型の冷蔵庫もあります。ラグジュアリーな内装で、つい車中泊だと忘れてしまいそうなほど。
通常の設備だけでもかなり豪華ですが、トイレをウォシュレットに、キッチンのコンロをIHに変えたりするなど自分なりの快適空間を作り出すユーザーが多いのだとか。特にニーズが高いのが電源に関する増設です。
「大きい車体のため、どうしても車内が暑くなってしまい、エアコンなどの空調が課題になります。キャンプ場や公共の場で発電機を回すのはマナー違反。そのため蓄電池を積み、ルーフに1500Wのソーラーパネルを貼って、すべてのエネルギーを太陽光と蓄電池のセットでまかない、発電機を使用せず生活できるようにカスタムします。走行中は、クルマのエンジンやジェネレーターで充電しています」(村上さん)
これだけ大きい車体のため、どこでも乗り入れできるわけではないですが、モーターホームが入れるキャンプ場も全国各所にあるのだとか。村上さん自身が使っているTiffinの車体は、現在4代目。7年ほど前までは、年に1回Tiffinを購入してくれた日本全国のお客さまとともに富士山のふもとや長野県でキャンプをしており、25台ほどのモーターホームが一同に会していたそうです。
そんなTiffin社製のモーターホーム、最大の魅力は乗り心地だと村上さんは話します。
「バスタイプの車体で、4輪エアサス、そしてリアエンジンです。ディーゼルエンジンがリア側に搭載される“ディーゼルプッシャー”で、おまけにディーゼルターボ。国産バスのような乗り心地の良さで、運転中はリアエンジンなので静か。バスタイプのモーターホームで、リアエンジンのエアサスのTiffinは、皆さんが求める最高峰の車種だと思います」(村上さん)
ハイクラスな価格帯でも人気のワケ
新車価格だと約4000万円前半、登録手続費用や消費税まで含めると5,000万円ほどかかります。土地や住宅を買えるような価格帯ですが、WOT’Sでは毎年3台ほど新車を販売しています。
「うちはお客さまからの注文が入る1年ほど前に発注しています。流れとしては、毎年6月にTiffinからオーダー表が届くので、仕様書を作って発注。約10年間、ずっとこのやり方で続けてきたからこそ、新車が手に入ります。毎年10月に車体が届きますが、いまはコロナ禍や半導体などの部品不足の影響で出荷が半年ほど遅れている状況ですね」(村上さん)
WOT’Sでモーターホームを購入するのは、会社経営者から長年お金を貯めて買う人などさまざま。ずっとアメリカ製のキャンピングカーに乗っていて、古くなったから新たにクラスAのモーターホームを購入する人も多いそうです。中には会社で所有して、従業員の福利厚生にしている経営者も。
全国にユーザーがいるため、フェリーで納車することもあれば、ユーザー自身が取りに来て、モーターホームで九州を巡りながら帰る人もいるそう。村上さん自身が乗って納車をしたり、修理や点検、増設のための車両を引き取りに全国各地に出向いたりすることもあるのだとか。
「Tiffinは納車にしろ、ナンバー登録にしろ、こちらでいろいろと手を加える必要があります。また、毎年ある程度の台数を確保し続けないと、右ハンドルの製造などメーカーと交渉ができない。Tiffinとの関係性を築くためにも、このような体制で販売を続ける必要がありますね」(村上さん)
アウトドアブームの追い風もあってか、ユーザーから中古車の問合せが増えているそうです。アメリカでも新車の生産が追い付かず、モーターホームの中古車価格が高騰しているとのこと。2021年は6台ほど中古車を探していましたが手に入らず、結局輸入できたのは2台のみだったそうです。
災害対策としても活用できるモーターホーム
モーターホームは防災の観点でも利用価値が高く、シェルターや別荘の代わりになると村上さんは提案します。
「地震や水害などの自然災害が増えており、自分の身は自分で守らなきゃいけない時代です。モーターホームは、蓄電池を設置しておけば自然エネルギーで生活ができます。うちのお客さまでも災害時のために購入されている方もいます。2016年の熊本地震の際は、私のモーターホームを無料開放してシャワーを使ってもらいました。女性や子どもたちが喜んでくれて、持っていてよかったなと思いました」(村上さん)
モーターホームというクルマの文化は、アウトドア需要だけでなく、新たな生活スタイルや災害時の活用としても今後より注目を集めそうです。
<取材協力>
WOT’S
(取材・文・写真:笹田理恵/編集:奥村みよ+ノオト)
[GAZOO編集部]
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