その数100以上!? 自動車保険の「特約」知っておきたい種類と中身
自動車ユーザーなら加入すべき自動車任意保険には、人身傷害や対物賠償といった補償のほかに、さまざまな特約を付帯することができます。
よく知られたところでは、弁護士費用特約やレンタカー費用特約などがありますが、保険会社各社にはマイナーながらも付帯しておくと心強い、ユニークな特約もあるものです。
そこで、知っておくとより安心できる自動車保険の特約について、AIG損害保険株式会社 自動車保険部副部長 河合良成さん、コマーシャル自動車保険部推進課スタッフ 郭・ユントン・ジェシーさんにお話を伺いました。(以下、敬称略)
特約はクルマ購入時の「オプション」のようなもの
――そもそも「特約」とはどんなものでしょうか?
河合:自動車保険の内容で皆さんがよくご存知なのは、対人・対物・人身傷害・車両ではないでしょうか。これらは、自動車保険の基本補償として存在しています。基本の補償に対して、補償を追加あるいは削減したり、運転者を限定したり、保険料の払込方法を変えるなど、基本ルールの内容に変更を加えること全般を「特約」の付帯によって対応しています。
クルマに例えると、車両本体が基本補償で、それにアルミホイールやレザーシート、サンルーフやエアロパーツなどをオプションで付けられますよね。そのオプション部分が、保険でいう「特約」と捉えてもらえるとわかりやすいでしょう。
――「補償を削減する」とはどんな場合ですか?
河合:たとえば、自身のクルマの修理費用などを補償する車両保険は、自損事故での補償も含めたフルカバーが基本となります。しかし、中には「自損事故の補償は不要だ」と考える人もいます。こんなときは「自損事故に対する補償を付けない」という“補償の削減“ができますが、実は特約で対応しているのです。
保険会社により「車両危険限定特約」や「エコノミー車両保険」といった名称が使われている場合もあるので、ご自身の自動車保険証券の内容を確認してみるといいでしょう。
――自ら加入を申し出ずとも、自動付帯される特約もありますよね。
河合:あります。一般的なのは「他車運転危険特約」です。
たとえば、自分のクルマに対して自動車保険を契約している人が、友人のクルマを運転し、事故を起こした場合。クルマの所有者の自動車保険を使うこともできますが、保険を使うと等級が下がって翌年から保険料が上がってしまうため、所有者の保険料を増額させてしまいます。
そこで、「他人のクルマを運転するときに、自分のクルマの保険を使える」というのがこの特約の内容です。これは多くの場合、自動車保険に加入すると自動で付帯されます。
――自動車保険の特約はいくつぐらいあるのでしょうか?
当社の自動車保険には、約100個の特約があります。しかし、主だったところの補償内容に直接影響する特約は、個人・法人契約ともに10~15個程度です。
では、なぜ全部で100にもなるかというと、保険料をクレジットカードで支払う「保険料クレジットカード払特約」、口座振替の場合の「保険料分割払特約」といった、補償内容に直接関わらないものが数多くあるからです。
特約による「プラスアルファの補償」が安心感に
――よく任意で付帯される特約にはどんなものがありますか?
河合:ロードサービス系の特約ですね。当社では「車両搬送費用特約」と呼んでいて、自力走行不能時のレッカー、バッテリーあがりやパンク修理などのときにロードサービスが利用できるものです。今では、こうしたロードサービスが「自動車保険に付いている」という認識が一般的になってきています。レッカーを利用できる回数や無料搬送距離が限られている場合もあるため、ご自身が加入されている会社のサービス内容をよく確認しておくとよいと思います。
それに並んで多いのが、「弁護士費用特約」です。自動車事故に遭って、相手方との交渉ごとがうまく折り合わないとき、弁護士に依頼する費用の補償が受けられます。
停止時に追突された場合など、いわゆる“もらい事故”は、ご自身(被害者側)に過失(落ち度)がないため、過失割合が「0:10」となります。こうしたケースでは、保険会社は示談交渉サービスをお客様に提供できないこともありますが、弁護士費用特約が付帯されていれば、弁護士に依頼する費用がしっかりと自動車保険で補償されます。事故時の不安解消のためにもオススメしていて、付帯される方が多い特約です。
また、運転中の損害に限らず、日常生活中の個人賠償責任事故を補償できる「日常生活賠償責任特約」もよく付けられる特約といえます。たとえば、自分が自転車に乗っていて歩行者をケガさせてしまった場合にも補償対象となるものです。
――「あまり知られていないけれどオススメ」という特約はありますか?
河合:「相手車全損時臨時費用特約」は、オススメしたい特約のひとつです。事故の相手のクルマを補償する対物賠償責任保険は、モノの価値まで支払えば、法律上は損害賠償責任を果たしたことになります。
しかし、古いクルマを相手に事故を起こし、あなたが加害者になった場合を想定した場合、その修理費用がそのクルマの残存価値以上になることがあります。
古いクルマは愛着を持って長く乗り続けられている方も多く、「50万円の価値しかないクルマだけれど、70万円かけてでも修理して乗りたい。残りの20万円も払ってほしい」と、交渉が平行線になるケースもしばしば。万一のときに備える意味でも重要な特約です。
そのほか、当社には「地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約」があります。車両保険に入っていても、地震・噴火・津波に関する損害は補償対象外ですが、この特約を付帯することでカバーできるようになる特約です。
この特約は、東日本大震災を機に地震・噴火・津波によって車両が全損となった場合、50万円を限度に復旧・復興のため一時金を支払って支援する目的でつくられました。
――時代やニーズに合わせて新たな特約ができているのですね。
河合:自動車保険は、保険商品として成熟しています。同時に、事故の多い保険でもあります。実際に起きた事案の中から「こんな補償があったらいいのに」「もし、補償があったらトラブルは起きなかったよね」というように、さまざまなニーズを汲み取って、新たな特約が次々に登場しているのです。
――保険会社によって特約のラインナップも違うのでしょうか?
郭:はい。独自性の高いものがあったり細かい部分で補償内容が違ったり、保険会社によって特約は異なります。
一例として、当社には「対歩行者等事故傷害特約」があります。交通事故で過失割合が生じる際、対人賠償では相手方の過失分は補償されませんが、相手方が歩行中あるいは自転車で通行している場合に相手方の過失分まで一括して保険金をお支払いするというものです。
歩行者が飛び出したり信号無視したりして、クルマとの事故が起きた際、歩行者側の過失を主張したいところではありますが、クルマと比較すると交通弱者にあたる歩行者のほうがケガの度合いが大きくなる場合が多く、道義的な環境から言い出しにくいこともありますよね。そんなときに役立ちます。
わからないことはプロに相談を
郭:自動車保険の内容には細かな規定や補償がたくさんあるため、自分で調べるのは大変だと思います。自分にとってなにが大事なのか、必要な補償はなにか、それをお客さま一人ひとりに合わせて提案してくれるのが、保険代理店です。相談やお見積りは無料ですし、万一の事故のときにも保険のプロの方がいてくれることは心強いので、ぜひ頼ってほしいですね。
河合:「クルマを買ったら自動車保険に入る」。そんな流れで、「なるべく安く入ろう」といった風潮があると感じています。しかし、保険の根本的な観点でいえば、「万が一に備えること」が最重要ポイントです。
事故が起きた際、しっかりと自分が想定していた補償を得られる内容になっているのか。契約をする主体としての責任は自分自身にあるので、見直しをしながら契約を続けてもらいたいと思っています。
更新時には特約も含めた見直しを
文字にすればたった二文字の「特約」。でも、その数は100にもおよび、さまざまなシチュエーションに対応する、きめ細やかな配慮がそこにありました。うまく活用したいものですね。
「加入時になんとなく付けた特約がある」、あるいは「内容をいまいち理解していない特約がある」という人も少なくないでしょう。次の更新時には、特約も含めて見直しをしてみるといいかもしれません。
<取材協力>
AIG損害保険株式会社
(取材・文:吉田奈苗/写真:AIG損害保険株式会社、PIXTA/編集:木谷宗義type-e+ノオト)
[GAZOO編集部]
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