空飛ぶクルマに乗って“誰もが自由に空を飛べる時代”が2050年に訪れる!?

幼少期に想像していたような未来に、あまりなっていない気がします。なにしろ、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でデロリアンが空を行き来していたのは2015年でした。

とはいえ、そんな未来には着々と近づいている模様。“空飛ぶクルマ”の開発・実用化に取り組む有志団体、「Dream On」代表の中村翼さんにお話を伺いました。

なぜ、“空飛ぶクルマ”に取り組むように?

以前、私はトヨタで量産車の設計をやっていたんですが小さいころからレースが好きで、トヨタに入った理由はル・マン24時間レースに出場するハイブリッドカーに携わりたいからでした。でも、レース部門に配属されるのって非常に狭き門なんですね(中村さん)

もともとはトヨタ自動車のエンジニアだったという中村さん。レース好きから“空飛ぶクルマ”に至る経緯は?

配属されるのが難しいなら『仲間を集めて勝手に新しいことをやってみよう』と、2012年に『CARTIVATOR』(Dream Onの前身)という団体を立ち上げたんです。何をしていくかみんなで100個ぐらいアイデアを出していった中で、次世代の人たちに一番刺さるんじゃないか?と思ったのが“空飛ぶクルマ”でした。発想もぶっ飛んでいて、『本当にできるんだろうか?』という思いもあったのですが、このぐらいやらないと新しい価値は生まれないんじゃないかと、取り組むことにしました。(中村さん)

とはいえ、最初は実用化まで考えておらず、「2020年のオリンピックの聖火台に“空飛ぶクルマ”で火を灯しにいこう」という“夢”を掲げたプロジェクトだったと言います。

途中から多くの仲間が集まるようになり、2016年にアメリカのUberが“空飛ぶタクシー”の事業開発を本格化させると発表してから、我々も実用化について、かなり現実味を帯びた議論ができるようになったんです(中村さん)

クルマが空を飛ぶだけでは“空を飛べる時代”は訪れない

実用化って、すごくないですか? どこかの飛行場で人知れずテスト運転されるだけでなく、我々の生活の中に普通に空飛ぶクルマが登場するわけです。

  • これが、現実に!?  ©️SkyDrive

でも、当然ながらハードルは高い。そもそも「クルマは本当に空を飛べるのか?」という問題があります。いや、飛べるんです。2020年に、すでに有人機デモフライトは成功しているのだから。

大型旅客機を作るわけではなく、従来のクルマを作るのともまた違う。“空飛ぶクルマ”は、その中間です。原理としてはドローンが近いのですが、大きさが全然違います。結局、誰もやったことのないことをやろうとしているんですよね(中村さん)

発想としては、「ドローンを大きくしたら飛ばせるんじゃないか?」というイメージが、技術的な第一歩目だったそう。しかし、やってみると勝手は違ったようです。

小さいドローンは安定しやすいけれど、“空飛ぶクルマ”はそうじゃない。大きいものが俊敏に動くって想像しにくいと思うんですけど、実際もそうなんです。機体が傾いたとき、姿勢を戻そうとしても本体は機敏に反応してくれなくて、ずっと傾いたままだったり…。ドローンより遥かに大きい、クルマサイズの空飛ぶ乗り物を作る技術的な難しさがありました。(中村さん)

  • たしかに、大きい……。 ©️SkyDrive

それらの苦労を乗り越え、2018年にスピンオフした(株)SkyDriveとの共同開発により、デモフライトに成功した中村さん。しかし、実用化への道のりは険しいままでした。乗り物が開発されたとしても、クリアすべきハードルが残されていたのです。

大きいのは、インフラに関する課題です。離発着場の確保が必要だし、空飛ぶクルマの位置を通信で把握する必要もあります。飛行機の世界だと、空港にある管制塔などから機体の衝突や渋滞を防ぐようコントロールするんですが、それ相当のものを街中や離発着するビルに設置しなければならない。それぐらいの規模で誰かが見ていないと難しいんです。(中村さん)

よく考えたら、当然です。「俺、“空飛ぶクルマ”手に入れたぜ」と、何の制約もなくビュンビュン飛ぶわけにはいかないし、勝手にどこかへ着陸されたら街は大混乱に陥るでしょう。

地上を走る場合、基本的に道と信号があれば交通は制御できます。でも、空飛ぶクルマはそもそも道がない。信号も置けない。すると、どうしてもコントロールシステムが必要になってくるんです。飛行機もそれで航空管制が生まれた。ただ、“空飛ぶクルマ”は飛行機と同じ道を辿るのではなく、飛行機の管制システムをもっとコンパクトにし、街の必要な場所に設置する…という形をイメージしています。(中村さん)

誰もが空を飛ぶには「クルマの自動運転化」が前提

もし、“空飛ぶクルマ”が実用化されたら、私たちの生活にどんな形で登場するのでしょうか。やはり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアン的な感じですかね?

メインとしては、“エアタクシー”を想定しています。乗り場まで行って、そこにパイロットが操縦した“空飛ぶクルマ”がやって来て、お客様を乗せて目的地まで行く…という形です。もちろん、地上のクルマのように、ハンドルを回すという意味の運転は訓練すればみんなできると思います。でも、『道がない空のどこを飛ぶのか?』とか、気象を見て『今日は空を飛んでいいのか?』を判断する航空気象の知識も、空飛ぶクルマには必要です。一般の人がそこまで勉強して飛べるのかというと、かなりハードルが高いんですね。(中村さん)

でも、CARTIVATORのホームページを見ると、「有人機販売開始(予定)」のタイミングとして2023年(今年!)を挙げています。さらに、「誰もが自由に空を飛べる時代」が2050年に訪れる、とも掲げられていました。

そもそも、有人機の販売って誰を対象としているのでしょうか? “空飛ぶクルマ”って普通に買えるようになる?

  • 空飛ぶクルマをVRで体験すると、こんな光景になります。©️Dream On

エアタクシーとしての活用がメインになると考えると、必ずしも個人の購入は多くなく、あるとすれば、一部の富裕層がプライベートジェットのように使用するケースが多いとイメージしています。(中村さん)

個人購入には金銭的なハードルの高さがあるようです。そしてもう1つ、道路から離着陸するようなシーンを実現しようとすると、避けられないのはインフラの問題でした。

地上のクルマがすべて自動運転化され、さらに“空飛ぶクルマ”も自動化されて、『空飛ぶクルマが今から着陸する』という信号を受け、地上のクルマが勝手に避ける…みたいな流れがネットワークとして連携できれば、そのようなシーンの実現は不可能とは言い切れないと思います。ただし、法規なども含め社会の基盤が整うまでは難しく、実現するのは少なくとも2050年以降だと考えています。(中村さん)

【動画】空飛ぶクルマ”SkyDrive”のある未来 Future World with SkyDrive
2050年には、こんな時代が到来する!? ©️SkyDrive

クルマの自動運転化を前提条件に、「誰もが自由に空を飛べる時代」は、やっと到来するのです。でも、交通機関としての活用はもうちょっと早いみたい。

予定としては、2020年代後半からのエアタクシー運航を想定しています。でも、あくまでそれは目標です。タイミングが先延ばしされる材料はたくさんあって、技術開発の遅れや住民からの理解などが課題です。なので、最初は人の住んでいない場所で海上交通からエアタクシーを始めるような展開を想定しています。(中村さん)

“空飛ぶクルマ”が実用化されると、どんな社会になる?

遠いようで近く、近いようで遠い、“空飛ぶクルマ”の実用化。この乗り物が社会実装されたら、我々の身近で何が起きるか。中村さんいわく、以下の3つの変化が挙げられるようです。

■都市(日本以外)

アメリカや東南アジアの都市部には、渋滞がひどいエリアがありますが、“空飛ぶクルマ”ならそれを回避できます。企業の社長など時間価値の高い人が、空を走って渋滞を避けるという活用法ですね。ただ、日本では着陸場不足の問題が避けられません。だから、ある程度土地が広い国である必要がありますね。実用化が進んでエアタクシーの利用金額が下がっていけば、一般にも広がっていくでしょう。実は、エアタクシーは地上のタクシーの1.5倍くらいの乗車料金を目指しています。そのぐらいじゃないと、一般で使われていかないですからね。(中村さん)

■地方(日本含む)

山や離島には、交通の便にお困りの方がたくさんいらっしゃいます。“空飛ぶクルマ”が自動運転化されたら、マイクロバスのように“地域の足”として活用してもらえるとイメージしています。ただ、ハードルが1つあって、やはりお金の問題です。『ビジネスとして成り立つのか?』という課題ですね。なので、最初は助成金を頼りにした社会実装になるとイメージしています。(中村さん)

■道路インフラがない地域(日本含む)

アフリカでは、1時間かけて徒歩で水汲みに行く人や、通勤・通学のために10㎞近く山を登り降りする人たちがいます。“空飛ぶクルマ”の利用金額が大幅に下がれば…という前提ありきですが、現地の人へのヒアリングの中で実際に活用したいという声はいただいており、将来的にはマイクロバスのような使い方ができればと考えています。(中村さん)

“誰もが自由に空を飛べる時代”は訪れる!

2050年に、「誰もが自由に空を飛べる時代」が到来すると掲げてきた中村さん。しかし、その一方で「夢を実現するための一歩目を踏み出すことは難しい」とも実感していたようです。

私が言う“一歩目”とは、心理的なハードルのことです。いくら、『空飛ぶクルマを作ろう!』と呼びかけても、『本当にできるの?』と言われてしまうことが多くありました。人間の無意識的なところで、前進に自らブレーキをかけてしまう反応ですよね。そこが越えられるかどうかが、何より大きいのかなと思っています。(中村さん)

そこをなんとか乗り越えてきたのが今のDream Onで、残るは技術的、そしてインフラの課題です。現実的な問題に直面しているとも言えます。これさえクリアできれば、「自動的に『誰もが自由に空を飛べる時代』は訪れると思っています」と中村さんは言います。

もちろん、困難な道だしいろいろな頓挫はあると思います。実現にたどり着くのが我々なのかどうかも、わかりません。でも、空飛ぶクルマ業界という総体で見れば、よっぽどのことがない限り実現すると思っています。2050年という目標も、『2050年までには、こういうことをやらなきゃいけない』という考えのもとに設定した数字です。今、対峙している現実的な問題の延長線上に、2050年の『誰もが自由に空を飛べる時代』があると考えています。(中村さん)

  • 「誰もが自由に空を飛べる時代」に向かって、試行錯誤の連続です。 ©️SkyDrive

「本当にできるんだろうか?」という思いから開発が始まった、空飛ぶクルマ。でも、実用化は決して夢の話ではありませんでした。あと約30年、交通のあり方が大きく変わりそうです!

(取材・文:寺西ジャジューカ/写真:Dream On/編集:木谷宗義type-e+ノオト)

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