【折原弘之の目】F1ドライバーを目指す小山美姫選手の挑戦
モータースポーツは数少ないジェンダーレス・スポーツだ
ほとんどのスポーツは基本的に、男子と女子に分かれ、それぞれのフィールドで戦うことが多い。
だがモータースポーツに関しては、その定義が当てはまらない。女性の競技人口が極端に少ないこともあるが、女性ドライバーは男性ドライバーと同じフィールドで戦わざるを得ないのが現状だ。
観客席から見ている分には、「モータースポーツってそんなに体力差が成績に反映しない」と感じてしまうかも知れない。普段の運転からも、いわゆるスポーツの要素は見出し難いのだろう。
だがサーキットで速く走るレースになると、話は変わってくる。
ブレーキや加速時にかかるGフォースは、時に4Gを超える(体重の約4倍)負荷がかかってくる。スーパーフォーミュラやスーパーGT500クラスになると、コーナリング中の最大心拍数は200を超え、平均心拍数は160を超えてくる。
その状態で約1時間、またはそれ以上の時間を運転し続けるのだからフィジカル的にもメンタル的にも過酷なスポーツであると言える。
夢は女性F-1ドライバー。小山美姫選手の挑戦
そんな過酷なレースに挑戦し続けている女性ドライバーが、小山美姫選手だ。
父の影響で初めてカートレースに出たのが5歳の時。まだ小学校入学前だったが、特別出場で小学生の部に参加してのデビュー戦となった。
その後13歳で海外レースにデビューし、F-1ドライバーになることを夢見るようになったとのこと。
そしてF-1で戦うために、英語の重要性を感じ、17歳で語学留学したと言う。
2015年には、FIA-F4日本選手権にチャレンジ開始。そこからの4年間はF-4でレースを学び、2019年からヨーロッパでWシリーズに参戦することとなる。
Wシリーズとは、2019年に発足した、女性ドライバー限定のフォーミュラカーレース。
DTM(ドイツスーリングカー選手権)のサポートレースとして6レースを戦うシリーズ戦で、将来的には女性F-1ドライバーを輩出することを目的として発足したシリーズである。
そのWシリーズが日本の女性ドライバー限定レースで、2年連続チャンピオンとなった小山選手の次のチャレンジの場となった。
世界30カ国、100名に及ぶ応募者が参戦を望む中、トップ当選した小山選手はこのレースでチャンピオンを獲りに行った。だが他のヨーロッパのドライバーと違い、初めて走るサーキットに、小山選手はランキング7位、と思うような成績を残せなかった。
それでも2020年はレッドブルのサポートドライバーとなり、チャンピオンを狙う予定であった。ところがコロナ禍で、シリーズ自体が中止となってしまう。
シリーズ再開した2021年には、レッドブルサポートドライバーとしてWシリーズに参戦を果たすも、ランキングは10位と、思い描いた成績ではなかったと思う。
しかしながら単身ヨーロッパに乗り込んで、この成績は立派と言えよう。そして帰国した2022年から、 DC(TOYOTA GAZOO RACING Driver Challenge)の一員としてフォーミュラ リージョナル ジャパニーズ チャンピオンシップにチャレンジすることとなった。
帰国した日本人女性最速ドライバー小山美姫の今後が楽しみだ
Wシリーズから日本に戦いの場を移した小山選手は、男性ドライバーの中に紅一点としてフォーミュラリージョナルジャパニーズシリーズに参戦している。レースフォーマットは、週末の2日間で予選と3レースを消化し、6会場18レースで年間チャンピオンを決める形式。
このシリーズで使用する車両である「童夢F111/3」は、FIA公認の世界規格車両であり、世界各国で使用されている。パワーユニットはアルファロメオ製の1750ccターボエンジン、最高出力は270ps。参考までにラップタイムはスーパーGTの300クラスと同程度のマシンだ。
このマシンで土曜日に予選、レース1、日曜日にレース2、レース3を戦わなければならない。ハンドリングがクイックなフォーミュラマシンで、このスケジュールは真夏には特に厳しいだろう。
それでも「F-1ドライバーを目指す」と言い切る小山選手からは、弱気な空気など微塵も感じられない。それどころか、他のどのドライバーより意志の強さを感じる。
現在4会場12レースを消化した時点で、小山選手の戦績は5連勝を含む6勝。勝率は実に5割に及ぶ。
しかも開幕戦から12レース連続で、一度も外すことなく表彰台に乗り続けている。このまま行けば、今シーズンのチャンピオンは硬いだろう。
そうなると2023年はさらにステップアップし、スーパーフォーミュラ ライツへの参戦が考えられる。そこで戦績を残せば、国内最高峰スーパーフォーミュラのシートも見えてくる。もしそうなれば、日本人女性初のスーパーフォーミュラドライバーが誕生することになる。
スポーツ界ではジェンダーの壁が、見た目より遥かに大きく立ちはだかっている。2021年にはタチアナ・カルデロン選手が女性ドライバーとして参戦しているが、1ポイントも取ることが出来なかった。予選では1秒以内に10台がひしめき合うこのシリーズで、小山選手が成績を残せば女性ドライバーたちの希望の光となる。
スポーツ界に純然立ち塞がるジェンダーの壁を、小山選手がブチ壊してくれることを期待してやまない。
(文、写真:折原弘之)
折原弘之 プロカメラマン
自転車、バイク、クルマなどレース、ほかにもスポーツに関わるものを対象に撮影活動を行っている。MotoGP、 F1の撮影で活躍し、国内の主なレースも活動の場としており、スーパー耐久も撮影の場として活動している。また、レース記事だけでなく、自ら企画取材して記事を執筆するなどライティングも行っている。
作品は、こちらのウェブで公開中
https://www.hiroyukiorihara.com/
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