【折原弘之の目】ル・マン チャンピオン平川亮選手、凱旋レースWECでの戦い

今シーズンからFIA世界耐久選手権(WEC)にフルエントリーした平川亮選手に、ヨーロッパでの生活やル・マン24時間レースについて聞いてみた。

まずは、ヨーロッパでの生活について聞いた。

「シーズン通しての参戦は今シーズンが初めてですが、思ったほど苦労はなかったです。生活面の苦労というか日本との大きな違いは、食事の相性が大きいですよね。僕の場合、食事に関しては和食にこだわる方ではないですので苦労はなかったです。

生活する上でもヨーロッパには、16年と17年にテストで何度も来てましたので。それにチームには知った顔のメカニックも何人か残っていたので、すぐにチームにも馴染めましたから。
ただし日本のレースも並行して出ていますので、時差ボケには慣れず、ツライ部分ではありますね。」

と生活面に関して、時差以外にはさほど苦労しなかったようだった。

平川亮選手/TOYOTA GAZOO Racing

平川亮選手/TOYOTA GAZOO Racing

次に、日本のレースウイーク進め方とヨーロッパのレースの進め方の違いについて聞いてみた。

僕の印象ではヨーロッパはエンジニアの意見が強く、エンジニア主導でドライバーがエンジニアに合わせていく印象が強い。

「確かにヨーロッパのレースでは、エンジニアの声が大きい部分はあります。

僕もある程度は覚悟して望んだんですが、トヨタに関して言えばドライバーファーストの考え方が浸透しています。
ですから、ドライバーの言うことが通らずエンジニアが絶対ということはなかったです。

逆にドライバーの言うことをよく聞いて、反映できるところはちゃんとマシンに落とし込んでくれていました」

ヨーロッパのレースとはいえ、トヨタチームに関しては、レースの進め方も通常のヨーロッパのやり方とは変わってきているようだ。

  • WEC第5戦富士6時間耐久レース 平川亮選手8号車 初めてのホームレースで緊張気味に見えた

    WEC第5戦富士6時間耐久レース 平川亮選手8号車 初めてのホームレースで緊張気味に見えた

日本人ドライバーと欧米のドライバーの印象について聞いてみると、

「日本人も欧米人も、テクニックや能力については差がないように思えます。
ただ、レースの雰囲気は、だいぶ違いますね。レースに対するハングリーさと言うか、生き残るための必死さには違いがあると思います。

例えば日本のレースではメーカーと契約できれば、そのシーズンは安心できる部分はあります。
でもヨーロッパのドライバー達は、常に最後のレースと言う感じです。妥協しないし、常に個の力を最大限に出そうとするんです。レースでも1周目から全開なんで、様子見なんてしないんです。

ル・マンでも、全てのスティントがスプリントなんです。24時間スプリントレースが続く感じで、手を抜く人が誰もいないんです。セッティングでも妥協点が高く、誰も止めようとしないんです。そう言う意味では、より厳しい環境であることは間違い無いです」

とのこと。この言葉の裏には“競技人口の多さからくる、過当競争の厳しさも影響している”とも付け加えてくれた。

次に今シーズンのハイライトとも言える、ル・マン24時間耐久レースについて。

世界三大レースに数えられるレースを制したのだから、大きな満足感があっただろうと想像していただけに、意外な答えが返ってきた。

「よく聞かれる質問ですが、ル・マンで勝ったという感覚は、今でも無いんです。ル・マンの翌週は、日本でスーパーフォーミュラのレースがあったので浸っている時間がなかったと言う感じですかね。

もちろんWECもシーズン中で、チャンピオン争いをしている最中ですから感覚としては6レースの中の一つといった感じです」

シーズンを戦っているとル・マンでも“6レースの中の一つ“というのは、印象的な言葉であった。

シーズンを通して戦っていると、特別感は薄いものなのだろうか。さらに続けて話をしてくれた。

「ル・マンでは7号車にトラブルが出ていたので、同じトラブルがいつ8号車に起きても不思議ではない状況でした。
自分のスティントは問題なく消化しましたが、降りてしまえば神頼みしか出来ませんから。もうチェッカーまでは祈るのみでした。ですから勝った喜びより、ホッとした気持ちの方が大きかったです。

ル・マンで勝ったという実感は、年末に行われるFIAの表彰式で感じることができるのではないかと期待しています」

ホームレースでの戦いについて

  • 手前から平川亮選手、ブレンドン・ハートレー、セバスチャン・ブエミ

    ピットウォークでは多くのファンにサインを渡していた

  • グリッドウォークにも多くのファンが詰めかけていた

ル・マンすら6レース中の一つと言う平川選手に、ホームレースである富士6時間耐久レースはどうなのか聞いてみると

「ホームレースである富士は、もちろん特別なレースです。

それだけに、今までのレースと同じ気持ちで挑まなければと思っています。ただ、今までのレースと違いサーキットを知っていると言うのはアドバンテージですね。
今シーズンは全てのサーキットが、初めて走るコースだったのでコースを覚えながら、時間がない中でセットアップしていました。でも富士はセットアップも含め、走ることにより集中できます。

今まで以上にチームに貢献できると思えるので、僕が一番楽しみにしているかもしれません。もちろん観客の皆さんの応援は力になるので、たくさんの方に来場してもらい、実際に見て欲しいです」

「ホームレースという意味以外でも、今ランキング2位なので富士で勝って、最終戦のバーレーンに繋げなければいけないと思っています。
そういう意味でも富士は重要なレースですから、空回りしないようにしっかりトレースしようと思います」

とホームレースへの強い想いはもちろんのこと、チャンピオンシップでも重要なレースであると語ってくれた。

WEC富士6時間耐久レースで見事優勝!

そして、9月11日に富士スピードウェイで行われたWEC富士6時間耐久レースでは、8号車が見事に優勝を飾った。

  • 予選1,2位のトヨタGAZOO Racingのハイパーカーがレースをリードする

    予選1,2位のトヨタGAZOO Racingのハイパーカーがレースをリードする

3人で6時間を走るこのレースは、各ドライバーがダブルスティントで走り、ピットストップのタイムを短縮させる。そのためドライバーは、2時間連続して走ることになる。トップスピードを維持したまま2時間走り続けるのは、鍛えられたドライバーとはいえ過酷だ。

しかも最終スティントを担当した平川選手は、大きなプレッシャーとも戦わなければならなかったはずだ。ホームである富士で、トップでタスキを渡された平川選手は、見事にその大きな仕事をやり遂げた。

  • 表彰式に向かう途中の平川選手の表情は、実に印象的だった

パルクフェルメにマシンを止めて、表彰台に向かう平川選手に「おめでとう」と声をかけてみた。

平川選手は、嬉しさと安堵が入り混じったような、最高に素敵な表情で人差し指を突き上げた。久しぶりに人間のむき出しの感情を目の当たりにした僕は、とても幸せな気持ちで表彰式の撮影に向かった。

  • 優勝を飾り、ポイントイーブンで最終戦にチャンピオン争いを持ち込んだ

  • シャンパンシャワーを受ける平川亮選手

この結果を受けてドライバーズポイントは、アルピーヌ・エルフ・チームと同点となった。
最終戦バーレーン8時間耐久では、前に出たもの勝ちのガチンコ勝負だ。
参戦1シーズン目でル・マンを制し、ホームレースで勝利し、シリーズチャンピオンまで奪えたら大きな快挙だ。
11月1日のバーレーンが今から楽しみだ。

  • 平川亮選手 8号車

    平川亮選手 8号車

  • 富士山を背にホームレースを走る平川亮選手

    富士山を背にホームレースを走る平川亮選手

(文、写真:折原弘之)

折原弘之 プロカメラマン

自転車、バイク、クルマなどレース、ほかにもスポーツに関わるものを対象に撮影活動を行っている。MotoGP、 F1の撮影で活躍し、国内の主なレースも活動の場としており、スーパー耐久も撮影の場として活動している。また、レース記事だけでなく、自ら企画取材して記事を執筆するなどライティングも行っている。

作品は、こちらのウェブで公開中
https://www.hiroyukiorihara.com/

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