ダカールラリー 取材同行の旅No.4

ダカールラリーはまるで遊牧民が大陸を移動するかのようだ。オフィシャルやプレスも含めると2,000人を越える集団が、ビバークを出発し、次のビバークを目指す。到着したビバークには水や食事、シャワーが用意され、そしてなにより仲間が待っている。遊牧民であれば生活に必要な家財道具などは馬に乗せて運んでいくが、ダカールラリーでは、どのように移動しながら衣食住を保っているのか。

レーシングスーツはいつ洗うの?

私がフランスのヴェルサイユ宮殿からスタートし、スペインを通過し、地中海を渡り、モロッコ、モーリタニア、マリそしてセネガルの首都ダカールにゴールした1998年時点でも、ヘルメットこそ必要だがレーシングスーツや耐火インナーの着用は義務ではなかった。現在のモータースポーツでは考えられないことだ。しかしラリーを競技としてではなく、冒険として捉えて挑戦する者のために、少しでも予算をかけずに出場できるようにと主催者が配慮していた。現在はもちろんFIA公認レーシングスーツ、耐火インナー、レーシングシューズ、グローブ、ハンス着用が義務。毎日、汗や砂埃で汚れていくので、洗濯したいが洗うにしても一晩で乾くわけもなく、何枚か替えを用意するか、そのまま着続けるしかない。トップチームはアシスタンスカミオンに洗濯機を載せて、カミオンのなかで干しながら移動することもできるが、そうでないチームは、アシスタンスが移動しない日(ビバークが同じ場所)に洗濯しておいてもらうか、休息日まで待つしかない。休息日は同じビバークに2泊するので、主催者がランドリーの受付をしてくれる。これはありがたい。

ステージを走り終え、ビバークに戻って着替えたらすぐレーシングスーツは干しておく
休息日に開店するクリーニング屋。朝出せば昼過ぎに、夕方出してもその日のうちに仕上がるとあるが、地元業者がクリーニングを担当するので、時間は定かではない
TOYOTA GAZOO Racing SOUTH AFRICAのジニール・デュビリエ選手のヘルメット。パーソナルスポンサーのRedBullと母国、南アフリカの国旗をうまくデザインし、彼の愛国心が表現されている。ヘルメットの下にあるのがハンス。ヘルメットに取り付け、肩の上に置き、シートベルトで締め上げることで、クラッシュ時の頚椎損傷を防ぐ役目をする
同じくTOYOTA GAZOO Racing SOUTH AFRICAのヤジード・アルラジ選手とコ・ドライバーのティモ・ゴトシュアルク選手のヘルメット。マイク内臓タイプ

1着のレーシングスーツで通す選手もいるが、多くの選手は2着持っていて、スタートやゴールポディウムは晴れ舞台なので、きれいなレーシングスーツで登場するためにうまくやりくりしている。

選手はいつ、どのようなご飯を食べているの?

マシンに燃料を給油するように、選手も食事をしなければマシンを走らせられない。基本的に主催者がビバーク内で毎日食事を用意してくれる。毎朝、最初にスタートするモト部門の1時間前から食堂で食べられる。朝食はパンとハムやポーチドエッグ、ヨーグルトにコーヒーといった簡単な食事が用意される。ここではミネラルウォーターとともにランチパックも受け取れる。ランチパックは選手の昼食で、甘いお菓子やジュース、ポテトチップスなど、ラリー中に失われがちな糖分と塩分が摂れるレーションだ。ただオート部門の場合、トップチームは午後2~4時くらいまでにビバークに帰ってくることが多いため、このランチパックはマシンに載せず、朝食をしっかり食べて、あとはビバークに帰ってきてから遅い昼食を食べるスタイルが主流になってきている。ビバークの食堂に行かず、選手の体調や栄養管理のためにチームに料理担当者がいる場合は、遅いランチを摂りながら、ミーティングしたりする。市販車部門などビバークの到着が午後5時以降になる選手たちでも、このランチパックの代わりに、ゼリー飲料や自分たちの好みの携帯食を積んでいることが多い。ラリー期間中はお昼に昼食という感覚はない。競技区間は1秒を競うステージなので、食べながら運転することもないが、競技区間に入る直前に食べたり、競技区間の所要時間が長い場合、より集中力を高めたり、リフレッシュするために、比較的運転しやすい直線区間などでゼリー飲料などを食べる選手もいる。また食べ物が我慢できても、絶対必要なのは水分。これはトレイルランなどに使用されるキャメルバックやチューブを取り付けた容器にミネラルウォーターなど飲料を入れ、ロールバーやドアに固定し、チューブをすぐ持てる位置にして走りながら水分補給できるようにしている。体内に吸収しやすい飲料にしたり、マラソンの給水ポイントで受け取るスペシャルドリンクのように各選手が自分に合った飲料を入れている。選手やその日の走行距離、所要時間によって違いはあるが、2~4リットルは搭載している。

TOYOTA GAZOO Racing SOUTH AFRICAのランチョンミーティング。その日のステージを終え、プリンシパルにどのようなコースでマシンがどうだったかなど報告しながら明日のステージへ向け戦略を立てる
MINIで参戦するX-Raidはカミオンのコンテナ部にキッチンと洗濯機をレイアウト。炊事洗濯はこのカミオンが担当する
チーム ランドクルーザー トヨタオートボデーの選手たちがランチ代わりに摂るのは、カロリーメイトやソイジョイ、ファストブレイク。キャメルバックにはポカリスエットを入れる。ボンカレーは食堂のお肉に飽きたら食べる
これがキャメルバック。中央上部の青い丸いフタを開け、ここから飲料を入れる。開口部が大きいので、氷も入れられ冷たくして飲める
キャメルバックはシート後方のロールバーに取り付け、チューブをシートベルトに這わせて固定する。こうすれば走りながらでも簡単にチューブを口に持っていける

そして夕食はビバーク内の食堂で食べられる。アルゼンチンではメイン料理に圧倒的に牛肉が多い。牛肉消費量で隣国のウルグアイと世界1位、2位を競うほど、その生産量も多い。アルゼンチンにはアサードと呼ばれる牛肉を炭火で焼く調理法があり、食堂裏で炭を起こして、うまく焼き上げる。さらにミディアムレアとウェルダンと焼き方も2種類用意してくれる。余談だが、ブラジルの肉牛は山間部で放牧されるため、とても弾力のある肉質だが、アルゼンチンは広大な平原で放牧されているので、赤身だがとても柔らかい。また穀物ではなく草を食べているので和牛とはまったく異なる味だ。夕食ではステーキなどメイン料理のほかにパン、サラダなどのサイドディッシュ、チーズ、デザートそしてビールかワイン小瓶1本のどちらかが選択できる。ボリビアに入ると、キヌアやジャガイモなどインカ帝国時代から食べられていた食材が連日続く。特にキヌアは必須アミノ酸、ミネラルを多く含む完全食品として知られ、サラダやスープなど毎晩姿を変えて出てきた。食事は毎食1回と決められていて、参加登録時に受け取るIDで管理されている。しかしトップチームは、選手の体調や栄養管理のために自前の料理担当者がいる。食堂に食べに行くときもあるが、モーターホームなどで食べたりもする。

アルゼンチンステージでの夕食。炭火焼きの牛肉にフライドポテト、サラダ、スープ、パンにチーズ、スイカ。そしてビール
ボリビアステージでの夕食。インカのジャガイモとチキン、キヌアのスープ、サラダ、パンにスイカ。そしてコーヒーとビール
アフリカらしい演出をしようと、クスクスが出てくる日もある。アルゼンチンで出てくる赤ワインはもちろんマルベックと決まっている
食堂は午後7時からオープンし、だいたい午後8時から食堂前で明日のステージに関するブリーフィングが行われる
日本人の参加者のなかには、やはり日本食が食べたくなる人も多い。みそ汁や白飯があるとうれしい

睡眠はシュラフからベッドまでさまざま

アフリカ大陸時代は、選手のほとんどがテントのなかにマットを敷いて、シュラフで寝るのが一般的だった。トップチームはビバーク近くの村のホテル(といってもオーベルジュのような小さなホテル)、それがない場合は、民家を借りることもあった。南米大陸に移ってからも、基本はテント泊だが、どのビバークも近くに大きな街があり、ホテルに泊まる選手が多い。またアシスタンスルートはほぼ舗装路なので、ここ数年キャンピングカーやモーターホームをアシスタンスカーとしてビバーク内で宿泊することが流行りになってきた。これならプライベート空間を確保しながらビバークからホテルまでの移動時間を気にせず、またいつでもメカニックなどと話ができるのでとても都合がいい。ただこれは選手の話。メカニックやプレスの多くは、テント泊をしながら同行していく。ビバークにはシャワーやトイレも完備されているのでなんら問題はないが、砂埃や強風、雨が降ったときはさすがに困る。アフリカ大陸時代では砂漠地帯が多く、また季節が冬の乾季だったので雨の心配をあまりしなくてよかったが、南米大陸は南半球で季節は夏。突然雷雨になったりすることも多い。今年も数日は雨のキャンプとなった。

トップチームを中心に流行っているモーターホーム。日中はメカニックが乗り込み移動の足に使う。ビバークに到着したら選手のプライベートルームになる
チーム ランドクルーザー トヨタオートボデーのメカニックが寝るテント。暑いが雨に備えてフライもしっかりかける
テントの中。このように柔らかい草が生えた土の上ならばいいが、石がゴツゴツしていると痛く、アスファルトの上だと蓄熱で熱いのでマットを敷いてその上にシュラフを敷いて寝る
アシスタントカーにはこうしてルーフの上にテントをセットする人も。
モト部門に挑むTeamHRC。サービス内にテントを張る。ポップアップ式なので、袋から出して広げるだけでこのようにテントになって簡単

アフリカ大陸時代では、砂漠という自然を体感するキャンプスタイルだったが、現在のダカールラリーは、ホテルやモーターホームなど、自分の部屋を持ち込んで一緒に走るようなスタイルに変わってきている。

(テキスト/写真:寺田昌弘)

[ガズー編集部]