ダカールラリー 取材同行の旅No.10

毎朝各マシンはビバークをスタートし、次のビバークを目指す。到着すれば選手たちにとっては安住の地だが、メカニックにとっては仕事場。基本的に一晩かぎりの街のようなビバークとはいったいどういったところなのか。

広くて管理しやすい場所がビバークになる

アフリカ大陸を縦断していた時代のビバークは、軍事施設や飛行場といった柵で囲われ、ある程度管理がしやすい場所がビバークとなっていた。それでもマラソンステージ(アシスタンスが入れず、選手と競技車しか入れない)では、砂漠の真ん中にあるひとつの井戸が目印といった日もあった。私も1998年にモーリタニア・イスラム共和国のエル・ムレッティという場所ではそうだった。もちろん電気ひとつないただの砂の広場。水道などないので、歯磨きは持っているミネラルウォーターを使って磨き、トイレは砂丘の陰に隠れてといったことも多かった。舞台が南米大陸に移ってからは、サーキットや競馬場、軍事施設、河川敷と2WD車でも入場できる施設が多く使われる。なので、施設にトイレやシャワーが完備されているところもあれば、主催者はシャワールームやトイレが設置されている40フィートコンテナをトレーラーで牽引してビバークに持ち込むこともある。また毎日飛行機で移動するオフィシャルやプレスがいるので、原則飛行場から比較的近い場所になる。そして主催者のディレクターやTV撮影クルー、医師が乗るヘリコプターが離着陸できるスペースも必要だ。

河川敷にある大きな駐車場をフェンスで囲ったビバーク。右上の建物は体育館で、プレスルームになっていた
サーキットがビバークになった例。コースが通路になりコースの外がサービスエリアに
ビバークのどこにサービスを設営するかは、プジョーやMINI、トヨタといった何台もマシンがあるチームの場所はあらかじめオフィシャルが決めている。各チームは選手たちがビバークへ着いたときにすぐ自分のビバークを見つけられるよう、大きな幟をトラックにつけている
この日のビバークは芝生だからいいが、砂の場合、ヘリコプターが降りてくるにつれ砂埃が舞い上がるので、このときばかりはヘリコプターを恨む

まるで小さな街のように充実した施設

ビバークには前述のトイレ、シャワーのほかに全員の胃袋を満たす大きな食堂がある。またケガや体調がすぐれない選手のために医務室がある。ここまでであれば校舎と同じ。更衣室に学食、保健室といった感じだ。ダカールラリーのビバークだからもちろん特徴的なものもある。まずはPCオーガニゼーション。ここは大会運営本部で、選手たちが今、どのあたりを走っているか、各マシンに装着しているGPS信号を発信する機器から位置情報を一度フランスで集め、ここで管理する。全体の進行が早いとか、どの選手が長い時間停まっているかなどを把握する。また選手やメカニックなどアシスタントがラリーの進行、自分たちのマシンが何位でどのあたりまで走っているかなどを確認できるダカールクラブ。ここではモニターを使ってほぼリアルタイムでの順位やチェックポイントの通過時刻などが確認できる。ホームページでも出ているが、ビバークはほぼWi-Fiはなく、スマートフォンを持った人々がその場所に増えるため、回線が一気に遅くなり、大概通信できないことが多いので、意外と便利だ。そしてタイヤサービス。大会オフィシャルサポーターのミシュランが提供してくれ、ホイールからのタイヤ脱着などのサポートが受けられる。ミシュランのタイヤでなくてもやってくれる懐の深さだ。オイルブランドのelf(エルフ)も同様にオイルをサポートしてくれる。またダカールラリーは国境を越えるので、ビバーク内にイミグレーションができる。だから国境で渋滞になることもない。国境を越える前に出入国の審査を完了できるのがありがたい。

大きなパラボラアンテナでビッグデータを受信する。ここが主催者の頭脳になる
ラリー情報が手軽に入手できるダカールクラブ
左がミシュラン、右がエルフ。フランスメーカーにとってダカールラリーは自国を代表する特別なモータースポーツだ
アルゼンチンの出国とボリビアの入国がその場でできるイミグレーション。帰りはボリビアのウユニのビバークでボリビアの出国とアルゼンチンへの入国ができる

メカニックの仕事場、それがビバーク

マシンが複数台あるチームは、あらかじめビバークのどのあたりにサービスを作るかを主催者が割り振っている。だからライバルがすぐ隣ということもない。しかし誰でも気軽に作業風景が観られるので、その日のステージでどれだけマシンがダメージを負ったかなどは見て取れる。ただプジョーだけは、チームクルーしか入れないように周りを囲み、細かい部分は見られないようにしている。このあたりがメーカーワークスらしい。

TOYOTA GAZOO Racing SOUTH AFRICAはマシンが3台
プジョー・スポールは4台のマシン。MRのバギータイプで、こうして簡単にフレームからエンジンが降ろせてメンテナンスができる
MINIのX-RAIDは4台のエースカーに、レンタルマシンなど含めると総勢12台。まさしくミニミニ大作戦状態だ
ルノー・スポールは2台のルノー・ダスターで参戦
パリダカ時代を一世風靡した三菱は現在、ブラジル三菱がチームを作り参戦
フォード・レンジャーはポルトガルやチリのレーシングチームが共同で走らせる
チームランドクルーザー トヨタオートボデーは2台体制。フランス人のチーフメカニックを中心に日仏合同体制でマシンをサポート
ペトロナス チーム デルーイ イベコはキャブオーバータイプと重心をよりセンターに寄せ、乗員にかかるGを抑えるボンネットタイプを走らせる
ロシアのカマズは4台体制。ロシア人で編成され、毎年ロシアを出発する際は、大統領やスポーツ関係の大臣に激励される。彼らは国の威信をかけてダカールに挑む。荷台に見えるところのなかはこのような感じ
日野チームスガワラは2台体制。サポートトラックは大型の日野プロフィア
999cc2気筒エンジンのポラリスは、コンパクトでこうして簡単に部品の脱着ができる。2人乗りでオート部門に挑む

どのチームもサービスはシートを敷いた上にマシンを載せ、テント下で作業するのがオーソドックスなスタイル。スペアパーツなどを載せたトラックをその前に停めるが、風向きを見ながら位置を決め、風除けも兼ねるのがダカールラリーらしい。

(写真 : 日野自動車・寺田昌弘)
(テキスト : 寺田昌弘)

 

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road