ダカールラリー 取材同行の旅No.11

ダカールラリーのオートは大きく3つの部門に分かれる。総合優勝を目指すマシンが主となる改造クロスカントリーカー(T1)、俗に市販車部門と称される量産クロスカントリーカー(T2)、そしてT1よりは安価で、T2よりは補強や改造などの自由度が高い進化クロスカントリーラリーカー(T3)がある。年々T1のマシンの性能が上がるにつれ、競技区間の難易度は増し、同じルートを走る市販車部門(T2)のマシンは、より過酷な戦いを強いられる。市販車としてよほどの信頼性、耐久性、悪路走破性の高さがなければ完走さえできなくなってしまった。だからオートには111台がエントリーしているが、市販車部門はそのうち11台しかいない。今年は、この11台すべてがトヨタ車であったことをご存知だろうか。

市販車部門は生き残るためにみなトヨタ車を選んだ

オートのエントリーは111台のうち42台がトヨタ車で、完走した66台のうち28台がトヨタ車とダカールラリーにおいてトヨタ車の信頼性、耐久性、悪路走破性の高さは、世界中からダカールラリーに挑む選手たちに認められている。市販車部門は、生産台数やクルマの諸元、部品などFIAに申請して型式認定(ホモロゲーション)を受けたクルマしかエントリーできない。原則、自動車メーカーしか申請できないため、ホモロゲーションをメーカーが取得していなければエントリーすらできない。また過酷なルートは、バンパーをぶつけなければ越えられない箇所もあり、よほど市販車の耐久性が高く、メカニックなどチームワークがよくなければ完走できない。今年の市販車部門でマシンの内訳を見てみると、3連覇したチームランドクルーザー・トヨタオートボデーのランドクルーザー200を含み、ランドクルーザー200が6台。ランドクルーザープラド(120)が3台、ランドクルーザープラド(150)が1台そしてハイラックスが1台。前回大会ではフォード・F150ラプターや日産パトロール、いすゞMU-Xが参戦していたが、今年はどのエントラントもトヨタ車を選んだ。それだけ信頼と実績があるのがランドクルーザーとハイラックスだ。

ところどころ水たまりがあるワジ(涸れ川)を軽快に走る#343チームランドクルーザー トヨタオートボデーのランドクルーザー200

チームランドクルーザーが市販車部門3連覇

市販車部門を完走したのは6台。ランドクルーザー200が4台、ランドクルーザープラド(120)が1台、ランドクルーザープラド(150)が1台だった。その6台の順位をグラフにしてみた。

序盤は、総合優勝したチーム プジョー トータルのアシスタンスをするために参戦している#341のランドクルーザー200が速かった。総合優勝したステファン・ペテランセル選手やWRCのレジェンド、セバスチャン・ローブ選手、同じくカルロス・サインツ選手などのサポートのために、ワークスマシンがトラブルで停まっていたら、1秒でも速くその場所まで行かなければならないので、とにかく速かった。プジョーワークスが、メーカーの枠を超えるほどランドクルーザー200を信頼してくれているのはうれしい。
チーム プジョー トータルは、総合優勝を狙うマシンをサポートするために2台のランドクルーザー200を市販車部門にエントリー

そして今回で26回目の参戦となるベテランのザビエ・フォジ選手(#348 フォジ クーパータイヤ)は、過去ランドクルーザープラドで2度の市販車部門優勝をしているだけに、序盤は抑え目に走り、中盤から順位を上げてきている。今回は当初ペルーも舞台になる予定だったために、多くの砂丘を走るのに軽くて有利なショートホイールベースのランドクルーザープラドで準備していた。しかしペルーがキャンセルとなってしまったため、それからロングホイールベースのマシンを準備することが間に合わず、高速ステージが続き苦労したと言っていた。

ベテランのザビエ・フォジ選手(左)とコドライバーのイグナシオ・サンタマリア選手(右)
ショートホイールベースのランドクルーザープラドで市販車部門2位になった

#379 サウジ ラリーチームは、前回大会までチームランドクルーザー・トヨタオートボデーのマシン製作をしていた工場でマシンを製作してきたので、戦闘力も高い。しかしボリビアの標高の高いステージでドライバーが体調を崩し、最も得意とする砂丘ステージでマシントラブルを起こし順位を下げた。

2人のメカニックでサポートしながら挑む#379 サウジ ラリーチームのランドクルーザー200
ダカールラリーは2回目の挑戦となるドライバーのヤシル・シーイダン選手は、市販車部門優勝を目指していたがなんとか3位入賞を果たす

#402 エクストリームプラスのランドクルーザープラドは、こちらもバギーのポラリスで参戦しているマシンのサポートをしながら競技をしていたので完走が目標であり、ほぼ最下位での完走だ。

#402 エクストリームプラスのランドクルーザープラドは、奥に見える4台のポラリスのサポートをしながら走って完走した

チームランドクルーザー・トヨタオートボデーは、まさしくチームワークで市販車部門優勝を勝ち取った。優勝した#343のニコラ・ジボン選手にトラブルがあれば、その後ろを走るチームメイトの#342の三浦昂選手が助け、2度大転倒して大きなダメージでビバークまでなんとか戻ってきたら、メカニックたちが徹夜でマシンを直した。チーム一丸となって#343のランドクルーザー200を勝たせようと心をひとつにし、まい進したから優勝できた。

今大会唯一の砂丘であったフィアンバラを走る#343チームランドクルーザー・トヨタオートボデーのニコラ・ジボン選手。砂も雲も白くて幻想的だ
大きな溝に落ちてフロント周りをぶつけ、ラジエターを破損してしまった#343ニコラ・ジボン選手。自走が厳しかったため、#342三浦昂選手に牽引してもらってビバークに戻ってきた
トヨタ車体の社員として初めてドライバーとして参戦した三浦昂選手(奥)とコンビを組むコドライバーのローラン・リシトロイシター選手(手前)
トヨタ車体の社員として初めてドライバーとして参戦した三浦昂選手(奥)とコンビを組むコドライバーのローラン・リシトロイシター選手(手前)
沿道の観客に応援されながら疾走する#342のランドクルーザー200
壊れたラジエターを交換するメカニック
2度のクラッシュに遭ってもあきらめずに走った#343のランドクルーザー200
市販車部門優勝した#343ニコラ・ジボン/ジャン・ピエール・ギャルサン組。このポディウムに上がった全員のチームワークのおかげで優勝できた

市販車部門のマシンは、ルートの過酷さから必ずトラブルが出る。そのトラブルをいかにクリアして走り続けることができるかがカギとなってくる。そう考えると、ランドクルーザーであれば、多少のトラブルがあってもビバークまで帰ってこられる。この強さがダカールラリーだけにとどまらず、世界中の過酷な大地でも選ばれている理由だ。

(写真:寺田昌弘・トヨタ車体)
(テキスト:寺田昌弘)

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road