市販車部門6連覇!ダカールラリーでランクルの強さを証明

41回目を迎えた今年のダカールラリーは、ペルー1ヶ国のみでの開催で、総走行距離約5,600km、うちSSが約3,100km(前回大会は総走行距離約8,500km、SS4,000km)と一見規模が小さくなったように見えます。しかし実際は移動区間を減らし、SSの約70%は砂丘と、ほぼ毎ステージで砂丘を越える過酷な大会となりました。フラットで走りやすい高速ステージが減り、スピードが出せない砂丘が増え、距離以上に過酷さが増しています。特にカミオン部門は41台中12台、実に34%の低い完走率、さらに3台以外はみなペナルティでタイムを加算されているところから、加速しにくい急斜面の砂丘や柔らかいフェシュフェシュ、細く荒れたワジ(涸れ川)など難易度がとても高かったことが見て取れます。そのため軽くてパワーのあるラリーのために製造されたマシンの参戦比率が増えるなか、トヨタ車体のチームランドクルーザー・トヨタオートボデー(以下TLC)は、自社で生産する2台のランドクルーザー200で市販車部門6連覇に挑み、見事ワンツーフィニッシュで達成しました。

セレモニースタートのポディウムに上がる三浦/ローラン組
セレモニースタートのポディウムに上がる三浦/ローラン組
  • 1号車の(左)ジャン・ピエール・ギャルサン選手。(右)クリスチャン・ラヴィエル選手
    1号車の(左)ジャン・ピエール・ギャルサン選手。(右)クリスチャン・ラヴィエル選手
  • 2号車の三浦昂選手とローラン・リシトロイシター選手
    2号車の三浦昂選手とローラン・リシトロイシター選手

もはや市販車では完走さえ難しいダカールラリー

2016年まで10台以上のエントリーがあった市販車部門ですが、前回大会では8台のエントリーで2台しか完走できませんでした。TLCも今回部門優勝し、経験豊富なクリスチャン・ラヴィエル/ジャン・ピエール・ギャルサン組も前回はリタイアしてしまうほどです。エアクリーナーは1日で目詰まりを起こし、微細な砂塵は電装系に不具合をもたらす可能性があり、巻き上げられる小石はラジエターなど冷却系を破損させることもあります。外装の変更が不可の市販車部門のマシンは、バンパーをぶつけなければ越えられないルートもあります。そして何より不利なのは車重です。総合優勝を狙うスーパープロダクション部門のマシンの車重は駆動方式にもよりますが、1,700kg程度。一方TLCのランドクルーザー200は3,000kgを超え、実に倍近い車重差があります。この車重が特に砂丘ではハンデとなり、スタックしやすくドライバーの高いスキルが必要となります。なので参戦する選手たちは、走りやすいスーパープロダクション部門のマシンを選びます。しかしTLCにとってダカールラリーの市販車部門に参戦することは、想定以上の過酷試験に毎日挑むようなもので、選手はもちろん、エンジニア、メカニックにとって「もっといいランドクルーザーづくり」をするには格好の舞台です。

初日から快走を見せるクリスチャン/ジャン・ピエール組
初日から快走を見せるクリスチャン/ジャン・ピエール組
フェシュフェシュに飛び込む2号車
フェシュフェシュに飛び込む2号車

ライバルはクルマではなく、砂漠、砂塵、小石、岩。

西は太平洋、東はアンデス山脈に挟まれるペルーには、いくつもの砂漠があります。加速区間が取りにくい小さな砂丘が連続したり、大小が不規則に並んでいたり、また一見フラットな砂地に見えるところが、同じように見えてもフカフカで柔らかいところがあったりと、選手、マシンを苦しめます。また雨季にはアンデス山脈から太平洋に向けて、雨が川を作り流れていき、この乾季は渓谷やワジとなり、SSにも使われますが、ミスコースすると正規ルートに戻りにくかったり、狭い渓谷で1台がトラブルで停まってしまうと、追い抜くことができず、渋滞で大きくタイムロスすることもあります。またフェシュフェシュは、先行するマシンの巻き上げる砂塵で前が見えないだけでなく、自分のマシンが巻き上げる砂塵ですら視界を奪います。砂丘ではタイヤの空気圧を落としスタックしにくくしますが、抜けると今度は尖った岩がゴロゴロと転がっているルートが待ち構え、パンクのリスクが一気に高まります。ここで停まって空気圧を上げるか、それともパンクしないようにそのまま走り切るか。次の砂丘に入るまでの距離を計算しながら、どちらがより速くゴールできるか考えます。モータースポーツである以上、もちろんライバルはほかのマシンですが、このペルー独特の地形を理解しなければ速くゴールにたどり着けないため、本当のライバルはペルーの砂、岩など「道」そのものだと思います。

  • 快走を見せる2号車
    快走を見せる2号車
  • ビバークに帰ってくるとすぐメンテナンスが始まる
    ビバークに帰ってくるとすぐメンテナンスが始まる
  • チーフメカニックのフィリップ・シャロワ(左)とマシンについて報告する選手たち
    チーフメカニックのフィリップ・シャロワ(左)とマシンについて報告する選手たち
  • 角谷監督(左下)のもと、選手、メカニックが一丸となってゴールを目指す
    角谷監督(左下)のもと、選手、メカニックが一丸となってゴールを目指す

毎日生きて帰ってくることがランドクルーザーの使命

TLCの2台は初日から部門ワンツー態勢を築き、そのまま完走しました。前半こそそれぞれスタックやパンクをしながらも毎日ゴールしましたが、後半はより確実に完走を目指すために、2台が一定の距離を保ちながら走っていきます。ステージ7では1号車のクリスチャン・ラヴィエル/ジャン・ピエール・ギャルサン組が冷却系のトラブルで停まったが、2号車の三浦昂/ローラン・リシトロイシター組がパーツを持っていたので、4人で修理して1号車を助けました。その後もルートを見つけたり、スタックしたら助け合いながら、毎日チームが待つビバークを目指しました。勝負も大切ですが、やはりランドクルーザーの使命は毎日生きて帰ってくること。TLCのチームワークのよさが、ランドクルーザーをより確実にゴールへ進めてくれます。

山岳路を登る2台のランドクルーザー
山岳路を登る2台のランドクルーザー
大海原のような大砂丘を越える
大海原のような大砂丘を越える
  • 後半戦は2台でランデブー走行
    後半戦は2台でランデブー走行
  • 部門優勝に向け駆け抜ける1号車
    部門優勝に向け駆け抜ける1号車

戦闘力の高いTLCのランドクルーザー200

オート部門は100台が出走し、56台が完走しました。TLCの総合順位は1号車が24位、2号車は29位と完走したなかで中盤に入ります。スーパープロダクション(改造車)部門のマシンがほとんどの中で、市販車部門のマシンでこの順位に入ることは、レーシングカー相手に市販車で挑むようなものなので実はとてもすごいことです。スーパープロダクション部門のレベルに合わせたSSの過酷さを毎日乗り越えるためには、ランドクルーザーの信頼性、耐久性、悪路走破性の高さはもちろん、選手たちのスキル、そして何よりチーム全員でゴールを目指すチームワークが重要です。TLCはチームワークのよさでランドクルーザーをゴールへ導き、そしてもっといいランドクルーザーづくりのために、道なき道で鍛えられています。

ゴールポディウムで祝福を受けるクリスチャン/ジャン・ピエール組
ゴールポディウムで祝福を受けるクリスチャン/ジャン・ピエール組
市販車部門6連覇を達成し、満面の笑みのTLC
市販車部門6連覇を達成し、満面の笑みのTLC

(テキスト:寺田昌弘 / 写真:チームランドクルーザー・トヨタオートボデー)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


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