中東初開催のダカールラリーでハイラックスはTOP5に3台入る大健闘
アフリカ大陸、南米大陸、そして今回から舞台を中東サウジアラビアに移して開催されたダカールラリー。
1月5日から17日まで12のステージ、SS(競技区間)は約5,000km、総走行距離は約7,800kmをバイク144台、クワッド23台、オート83台、SSV(小型バギー)46台、トラック46台の342台が新たな大地に轍をつけました。
オートでハイラックスやランドクルーザーなど、トヨタ車のエントリーは29台で全体の35%を占め、世界一過酷なラリーに挑む相棒として絶大なる信頼を得ています。
昨年、TOYOTA GAZOO Racing SOUTH AFRICAのハイラックスが総合優勝し、今回は「フェルナンド・アロンソ/マルク・コマ組」が加入し、新たにTOYOTA GAZOO Racingとして、ハイラックスの4台体制で挑みました。
そして、地元トヨタディーラーのスポンサーを受けたハイラックスも健闘し、総合優勝こそ逃したもののトップ5に3台が入り、大健闘しました。これらハイラックスの挑戦をそれぞれ振り返ってみます。
サウジアラビアは走り甲斐のある砂、砂、砂
私も2回選手として走り、5回取材で同行した南米でのダカールは、SSに大砂丘はなく山の法面に砂が吹き溜まったエリアや、ワジ(涸れ川)、フラットな農道、山岳路といった感じで、選手にもマシンにも最も辛かったのは、アンデス山脈越えの高い標高でした。
トップチームのエンジニアに聞くと、標高2,500mを超えたところから酸素が膨張し、エンジン出力が顕著に低下していくと言う。標高4,000m越えがあったり、3,000m以上でずっと走るSSがあったりと、マシンと選手にとって標高との戦いがありました。
サウジアラビアはモロッコやエジプトに似ていて、大きくはないが砂丘が続いたり、大きな石がゴロゴロした山岳路、フラットで全開で走れる締まった砂、ワジとバリエーションに富み、また、まるで惑星を走っているかのようなランドスケープが選手たちを魅了します。
今回、初開催地ということで、SSの難易度は極端に高くなく、事実、オートの完走率は68%と例年と比べると高め。低速でしか走れないテクニカルな砂丘より、走りやすいスピードが出せる高速ステージで、ときおり現れる大きな石や窪みがトラップになったようです。
スタートから3ステージは砂、岩、ワジとバリエーションに富んだスピードステージで、その後少しずつ砂丘が現れ、海を行く船のように、指示された方角へ、道のないオフピストを走ります。今までルートを指示するルートブックは前夜に配布されていたのですが、事前解析できないように、今回より当日朝のスタート前に配布するようになり、ナビゲーションの難易度が上がりました。
休息日を挟んで後半はルブアルハリ砂漠を中心に砂丘エリアへ。
10から11のステージは、メカニックのサポートを受けられないマラソンステージがあり、ダカール第3章と言われる今回は、最後まで気が抜けない筋書きのないドラマが待ち受けています。
- 砂丘の造形の美しさに目を奪われる
TGRに初優勝をもたらせたコンビは6分21秒差で2位
前回総合優勝した「ナサール・アルアティア/マシュー・ボウメル組(以降ナッサー)」は、2017年からハイラックスに乗ってダカールに挑んでいます。この年から私は、毎ステージごとにナッサーにインタビューしてきましたが、とにかくどんなメディアやファンに対しても丁寧に応対してくれる紳士で大好きなドライバーのひとりです。
ナビゲーターのマシューも地元フランスではSSVに乗ってレースに出たりアクティブなスポーツマンです。
彼らは初日からアタックするも、ソフトコンパウンドのタイヤが裏目に出て、3回のパンクを喫し、タイムロスして4位でゴール。
ステージ2、ステージ3と上位で走っていたのですが、追い上げてくる「カルロス・サインツ/ルーカス・クルツ組(以降サインツ)」に道を譲らなかったと判断され、3分のペナルティを受け、7分55秒差で2位に。
ステージ4では、3分3秒差と着実に総合トップとの差を詰めていきます。
ステージ5はゴールまでの30kmで、ナッサーのハイラックスと、MINIのバギーに乗る「サインツ、ステファン・ペテランセル/パウロ・フィウザ組(以降ペテランセル)」がサイド・バイ・サイドの走りを見せ、その映像を見る世界中のファンを熱狂させました。
ステージ6は砂丘の尾根と谷を登ったり降りたりしながら走るSSで、これら3台が抜き出てゴール。前半戦を終わり、トップはサインツでナッサーは7分48秒差の2位につけます。
後半戦に入り、ステージ7は今大会最長の547kmのSSで、比較的引き締まった砂と台地を平均時速130km/hで走りながらも、サインツとナッサーとの差は10分に開いてしまいます。
しかしステージ8はバイクがキャンセルとなったため、先行するバイクの轍がない中を、この3台が走らなければならなくなり、ミスコースをして揃ってタイムロス。ナッサーが総合トップを走るサインツより速くゴールしたので、6分40秒差に縮めます。
ステージ9でさらにサインツがミスコースとパンクで遅れ、2台の差は24秒に。
ステージ10は、砂丘がメインのナッサーが得意なSSでした。
この日のスタートは、ペテランセル、ナッサーの順でしたが、終盤2台ともミスコースをし、ナッサーは約20km近くオンコースを外れ18分近く遅れてしまいました。
スタート順の遅かったサインツは、先行するマシンの轍のついた走りやすいSSでタイムを詰め、ナッサーとの差を18分10秒に開きました。
ステージ11では総合2位のナッサーと3位のペテランセルの差がたった6秒と迫ってきます。
最終ステージ12、ナッサーはアタックを繰り返し、ステージ優勝を飾り、総合2位をキープしてゴールしました。残念ながら連覇とはなりませんでしたが、5,000km近いSSを走り、トップのサインツとの差は6分21秒。次回に期待が持てる走りをしてくれました。
- 酸化した鉄粉が赤くみせる砂丘を走る
- 総合2位のナサール・アルアティア(右)/マシュー・ボウメル(左)
リタイアしない男、ジニールの戦い
2012年から南アフリカトヨタのチームのエースドライバーとしてダカールに挑んでいるジニール・デュビリエとは、2004年セネガルのダカールで初めて会いました。
元々、南アフリカのサーキットでレーシングドライバーとして活躍し、2003年からダカールに初参戦。以来、昨年まで15回連続上位完走で、総合優勝1回、ステージ優勝は15ステージと、今回のTGRドライバーの中で、誰よりもダカールを知るドライバーです。
マシンのハイラックスの開発も手掛けるこのチームに、なくてはならない存在です。
とてもクールですが、2014年から2018年まで、毎ステージごとにインタビューをしてきたので、さすがに60回も取材していると、途中から私のことを“スマイリー(このチームのメカニックたちがつけてくれたニックネーム)”と呼んでくれるまで親しくなりました。
今までコンビを組んできたナビゲーターのドイツ人のディルク・ボン・ジツェウィッツがケガで出られないため、スペイン人のアレックス・ハロがコンビを組むことになりました。
アレックスは以前、ナニ・ロマとコンビを組んでハイラックスに乗った経験があり、前回大会はMINIで総合2位に入っています。アレックスはとても温和で献身的な選手です。
初日はパンクを4本もしてしまうアンラッキーなスタートとなり14番手。
ステージ2は先行するマシンを追い越しながら、見事ステージ優勝。クレバーな走りで定評のあるジニールは、その後もステージ3、4と順位こそ上がりませんが堅調に走り上位進出を虎視眈々と狙っていましたが、ステージ5で想定以上にジャンプしてしまい、着地で首を痛めてしまいます。
後半戦もなかなかステージトップにはなれず、ステージ8で4位、ステージ10で3位。それでも大きく順位を落とすステージがないのはさすがで、結果、総合5位に入りました。
- サーフィンをするように砂のリップでターンする
- 総合5位のジニール・デュビリエ(右)/アレックス・ハロ(左)
フェルナンド・アロンソは初参戦を総合13位でゴール
今大会の選手で最も注目されたのは、なんといってもフェルナンド・アロンソ。
二度のF1タイトルを獲得し、モナコGPでも優勝、FIA世界耐久選手権も王者になり、ル・マン24時間レースで二度のチャンピオンになり、あとはインディ500を優勝して、世界3大レースの王者を目指していますが、昨年、突然ダカールラリー参戦を表明し、ナビゲーターに同じスペイン人で過去バイクで5度の総合優勝経験のあるマルク・コマを起用し、万全の体制でダカールに挑みました。
初日は足慣らしで11位でゴール。
ステージ2は前を行くクルマと、バイクの砂塵で視界が悪いなか、左タイヤをヒットして外れるトラブルに見舞われます。外れたタイヤは30m後方に落ちていたそうです。修理に2時間ほどかかりましたが、無事リスタートでき、なんとか63位でゴール。早くもルーキーの洗礼を受けました。
ビバークでしっかり修理を行い、ステージ3では総合4位と早くもラリーでもトップドライバーとして通用することを証明してみせました。その後も着々と走り、前半終了時には総合16位まで順位を上げました。
後半戦2日目となるステージ8は、TGRでトップ、総合2位でゴールしました。
アロンソは「砂丘はあまり経験ないけど、砂丘だとなぜか落ちついて走れて好きです」とダカールが自分にマッチしていることに気づき始めます。
ステージ9は先頭を走り、正しい道を見つける斥候のような存在となり、ペースを上げられず9位。それでもここで総合順位は10位とトップ10入りしました。そしてメカニックのサポートが受けられないマラソンステージへ。
この2日間は、マシンにできるだけダメージを与えないことが最重要となりますが、アロンソは砂丘からジャンプしたまま横に2回転してしまいます。幸い致命的なダメージはなかったのですが、フロントガラスが割れ、フロントガラスがないまま走らなければなりません。
後に豊田社長から「トヨタではフロントガラスのある車に乗ってくれていましたが、それ以前の彼はフロントガラス無しのクルマに乗るのが得意だったと聞いています。もしかしたら、ガラスが無しの方が速く走れるからと、フロントガラスを外したんじゃないかと、そこからの追い上げを期待して見ておりました。」とウイットに富んだコメントが発表されましたが、その後の2ステージはフロントガラスをはめ、8位、4位と上位でゴールし、完走しました。
ダカール初参戦で総合13位で完走したこともすばらしいですが、特にステージ2位、4位と経験豊富なドライバーに打ち勝って上位に入ったり、もしフロントサスペンションを壊したり、砂丘で大ジャンプしていなければトップ5入りも夢でなかったので、
もし次回も参戦すればきっともっと上位にいけることは間違いないと思います。
- SSスタート直後にWRCのようなジャンピングスポットが
- 序盤は砂丘の形が読み切れず飛び跳ねてしまう
- マラソンステージ初日に横転してヘッドランプ、フロントウインドウがない状態に
- モナコGPやル・マン24時間レースの表彰台とはまた違った雄々しく清々しい笑顔のアロンソ
ベルナード・テン・ブリンケは最高の欧州コンビで総合7位
4台目のTGRドライバーは、オランダのベルナード・テン・ブリンケ。
以前は祖父が創業したキッチンメーカーのBribusの経営者をしていて、現在は木製サッシなどの木工会社を経営しています。普段は会社の舵取りをし、ダカールではハイラックスのステアリングを握ります。
ナビゲーターは、ベルギーのトム・コルソール。過去トラック部門に9回参戦し、総合優勝1回、ステージ優勝は27回のベテランで、オートでも総合4位を経験しています。
とても朗らかな性格で、周りを和ませるムードメーカーです。ベルナードは一発の速さがあり、私が取材で同行した2018年は、ステージウィンもしています。
今回は朝晩の寒さからか体調を崩してしまい、それでもコンスタントにヒトケタ台でステージゴールし、総合7位でフィニッシュし、ナッサー、ジニールとともにトップ10に入りました。
- 風でできる美しい砂紋を越えて走る
- 2015年以来の7位完走にほっとするベルナード・テンブリンケ(右)とトム・コルソル(左)
Overdrive TOYOTAから参戦のヤジードが4位
地元サウジアラビアから参戦するヤジード・アルラジは、2015年にダカールにハイラックスで初参戦。日本と言ったら鮨という親日家のヤジードは、休息日のリヤドに住んでいるので、たくさんの友達が応援に来てくれたり、自宅でのんびりできたりと母国での開催を楽しんでいました。
今回、全ステージトップ10に入り、安定した速さで4位になりました。
そして同じく、Overdrive TOYOTAから参戦する「ロナン・シャボ/ジル・ピロット組」のロナンは、フランスで“TOYS MOTOR”というトヨタの販売店を経営しています。
1995年にバイクで参戦し、アフリカ大陸、南米大陸のダカールを知るベテランドライバーです。トリコロールカラーのハイラックスで、ステージ8まで総合15位を走っていましたが、左タイヤを岩にヒットし、修理に時間がかかり、それでも総合23位と完走しました。
- 母国開催で慣れた砂丘を走る
- 4位入賞を喜ぶヤジード・アルラジ(右)とナビゲーターのコンスタンチン・チルソフ(左)
- トリコロールカラーがかっこいいTOYOTA GAZOO Racing FRANCEのハイラックス
長年コンビを組むロナン・シャボ(右)とジル・ピロット(左)
- 長年コンビを組むロナン・シャボ(右)とジル・ピロット(左)
2012年に南アフリカトヨタのチームとともにやってきたハイラックスは、その信頼性、耐久性、悪路走破性の高さから、今回も南アフリカはもちろん、スペイン、オランダ、カタール、サウジアラビア、フランスと世界各国のドライバーに選ばれ、ダカールに挑み、結果を残しました。
次回もサウジアラビアで開催予定ですが、個人的にはオマーンやアラブ首長国連邦、そしてエジプトなど国境を越え、いくつかの国を跨いだラリーになったら、観ていてより楽しくなるかなと思っています。次回の発表に期待しています。
- TGRのハイラックスを支えるメカニック
- TGRは全車完走でゴール後、笑顔がこぼれるメカニックたち。彼らは私をスマイリーとニックネームで呼んでくれる最高の仲間たち
(写真/TOYOTA GAZOO Racing・TOYOTA GAZOO Racing FRANCE・Yazeed Racingテキスト/寺田昌弘)
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
<関連リンク>
TOYOTA GAZOO Racing ダカールラリー公式サイト
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