ダカールラリーで市販車部門7連覇。ランドクルーザー200が強さを証明

パリダカールラリーが始まった1978年12月26日より、サハラ砂漠を越える冒険者たちの相棒として多く選ばれているのがランドクルーザー。以来、毎回多くのプライベーターの夢を乗せ、希望を支え、ゴールの地、大西洋を眺めるラックローズの海岸へたどり着いていました。

私がランドクルーザー70で初参戦した1997年、そして市販車改造ディーゼルクラスが優勝した1998年も、私たち同様、多くのプライベーターがランドクルーザーとともにダカールにゴールしていました。そのランドクルーザーで参戦するチームのなかで、当時最も注目されていたのが「トヨタ・チームアラコ」現在のチームランドクルーザー・トヨタオートボデー(以降TLC)です。

ティエリー・サビーヌの時代からバイクやランドクルーザーで参戦。市販車ディーゼルクラスで優勝経験のある浅賀敏則さんとランドクルーザーを生産していたアラコが協力し、1994年に社員ナビゲーターの伊藤一さんとランドクルーザー80で参戦、市販車ディーゼルクラスで優勝しました。

翌1995年から「チーム・アラコ」としてパリダカールラリーに参戦し始めます。
その後、伊藤健司さん、藤澤隆さん、荒川大介さん、アラコの車両部門がトヨタ車体に統合後も沼田靖志さん、監督として森達人さん、そして現在社員ドライバーとして活躍する三浦昂(あきら)さん、監督として全体を指揮する角谷裕司さんと社員が中心となり活躍しています。

後に浅賀さんから伺った話では、当時ランドクルーザーを生産する会社がその信頼性、耐久性、悪路走破性の高さを自ら証明すること。さらに、世界に挑戦する会社を広く知ってもらい、この会社で働いてみたいというリクルーティングの一環。そして、社員の士気高揚と、現場を知ることを目標として立ち上がった、とのことでした。

三浦さんはトヨタ車体に2005年に入社。翌年TLCの社員ナビ候補に選ばれ、2007年に初参戦し、見事市販車部門でデビューウィンを飾りました。ナビゲーターとして7回参戦し、2016年からドライバーに転向。チームとしても発足時からのテーマをアップデートし、新たな扉を開け、挑んでいます。

今年のダカールラリーは、第1章のアフリカ大陸、第2章の南米大陸を終え、第3章として中東、サウジアラビアで開催されました。26回目の参戦となる経験豊富なチームと、オートカテゴリー唯一の日本人ドライバーですべての大陸を知る三浦選手は、チーム史上初となる市販車部門7連覇を目指し、チーム一丸となって新たな大陸に挑みました。

市販車部門は、生き残ることさえ難しくなったダカールラリー

アフリカ大陸時代のパリダカールラリーは、広大なサハラ砂漠でワークスマシンが軽々と登り切る大砂丘を、市販車部門のマシンで登り切れないことが何度もありました。

しかし、サハラ砂漠の経験を積んでくると、低い砂丘を見つけ迂回しながら、オンルートへ戻ることを繰り返しゴールしました。

南米大陸時代は、番号順に通過しないとクリアできないフィールドアスレチックのように、ロードブックに書かれたオンルート以外に迂回できる場所がなかったりと、違った難しさがありました。

そして、高速ステージが増え、強いだけでなく速いマシンしか生き残れなくなってきました。
サウジアラビアでのダカールラリーは、高速ステージはそのままに、トリッキーな砂丘、尖った岩がゴロゴロしてパンクのリスクが高いルートなど、緩急のついたレイアウト。

選手たちは毎ステージ気が抜けない。速く走るだけでなく、我慢の走りを強いられることも多い。広大なランドスケープの砂地を走っていると、乗り心地もよく車速が上がっていることを気にせず、急に現れた段差で飛び出して横転したりします。

岩場ではパンクだけでなく、サスペンションを壊してしまいます。ナビゲーションの精度、ドライバーの反射神経が高いレベルで試されます。今回はオート、トラックともに横転やサスペンション破損でリタイヤするチームが多かったことがその証拠です。

時には競い合い、時には助け合いながら部門ワンツーフィニッシュを決めたTLC

TLCは今回も2台のランドクルーザー200で参戦。326号車はベテランフランス人コンビのクリスチャン・ラヴィエル/ジャン・ピエール・ギャルサン組、338号車は社員ドライバーの三浦昂/ローラン・リシトロシター組。もちろんチームで助け合いますが、2台どちらも市販車部門優勝を狙うライバルでもあります。

右から角谷監督、ラヴィエル選手、三浦選手、ギャルサン選手、リシトロシター選手。豊田社長から激励メッセージ動画を観ている
右から角谷監督、ラヴィエル選手、三浦選手、ギャルサン選手、リシトロシター選手。豊田社長から激励メッセージ動画を観ている

ステージ1は、序盤から338号車が先行しましたが、2本のパンクでスペアタイヤを使い切り、さらにパンクをして、後から来た326号車にスペアタイヤを分けてもらいゴール。

ステージ2では部門1位338号車、2位326号車の順で、早くも市販車部門3位に3時間以上の差をつけて盤石の態勢を作り上げます。その後、326号車が1位と順位を入れ替えながらも順調に走ります。

前半の山場の砂丘ステージでは、車重のある市販車部門のマシンでは真っ直ぐ登れない砂丘を選手たちのテクニックでカバーしながら乗り越え、失速しないように多少前後バンパーをヒットしながらクリアしていきます。

◆326号車

市販車部門のマシン、TLCのランドクルーザーの場合、車重が軽く3tを超えます。
ちなみに、今大会総合優勝したMINI John Cooper Works Buggyの車重が1.675 kgなので、ランドクルーザー200は、2倍近く重いマシンで、同じルートを走っています。

市販車部門の選手たちには、総合優勝を狙う選手たちとは、異なるドライビングやラインどりの難しさがあります。また、車重が重いということは、それだけサスペンションをはじめ、あらゆる箇所により負荷がかかります。

そのため、休息日の時点で5台のエントリーがあった市販車部門で生き残ったのは、TLCの2台のランドクルーザーのみとなりました。市販車部門のマシンにとって、いかに過酷なステージが続いたかを物語っています。

 

◆338号車

そして、後半は大きな砂漠が横たわるエリアへ。
326号車はステアリングに違和感を感じ、緩んでいたボルトを締めたり、338号車はスタックやリム落ち(タイヤがホイールリムから外れる)こそあったものの、タイムロスを最小限に抑えて確実に前に進みます。

メカニックがサポートできない2日間のマラソンステージでは、1日目に338号車がフロントサスペンションを強打しましたが、ランドクルーザーの耐久性の高さに救われ、走行にはまったく問題なし。2日目の砂丘を越えるステージでは、2台で連なりながら、どちらかにスタックや不具合があれば、すぐサポートできる体制で走り切り、最終ステージも乗り越え市販車部門ワンツーフィニッシュ。

チーム史上初となる部門7連覇を三度目の正直で達成しました。
そして今回も、ランドクルーザー200の信頼性、耐久性、悪路走破性の高さをここサウジアラビアでも証明しました。

またSSV(小型バギー)などをサポートするために、同じステージを走る2台のランドクルーザープラドも、しっかり完走していて、市販車に補強をしただけで完走することは、いかにランドクルーザーが市販車として信頼性、耐久性、悪路走破性の高さがあるかを証明しています。

サウジアラビアのトヨタ販売店は主催者にランドクルーザー200を貸与
サウジアラビアのトヨタ販売店は主催者にランドクルーザー200を貸与
トヨタ車体 増井敬二社長とともに市販車部門7連覇を喜ぶTLC
トヨタ車体 増井敬二社長とともに市販車部門7連覇を喜ぶTLC

ダカールラリーの総合順位では、4WDマシンより軽い車重、より大きなタイヤ、サスペンションストロークを長くできる2WDのバギーがトップ10に4台入り、また比較的予算を抑えながらも市販車部門に近いタイムで走れるSSVが人気になってきました。

しかし私は、ふだん街中を走っているクルマが、この世界一過酷なラリーを走っていること自体に親近感を覚え、走る実験室としてのリアリティーを感じています。だからアフリカ大陸時代のように純粋なモータースポーツとしてだけでなく、壮大なアドベンチャーとして市販車部門に挑む冒険者たちが増えることを期待したいです。そして、そのトップランナーとして、TLCにはもっとランドクルーザーを鍛えてもらいたいと思っています。

(写真/トヨタ車体 テキスト/寺田昌弘)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


<関連リンク>
チームランドクルーザー・トヨタオートボデー オフィシャルサイト
https://www.toyota-body.co.jp/dakar/

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