今回のダカール、今後のダカール[前編]
1985年にバイクで初参戦し3位入賞したフランコ・ピコ選手。65歳になって中東のダカールを体感するために参戦。
今年も1月3日から15日にかけ、サウジアラビアでダカールラリーが開催されました。コロナ禍で開催が危ぶまれるなか、開催国はチャーター機を用意したり、PCR検査を拡充して参加者を迎えました。参加台数はバイク101台、クワッド16台、四輪64台、軽量4輪61台、トラック44台の286台がエントリー。12ステージで総走行距離は約8,000km、SS距離は4,767kmを走破しました。
43回目を迎えたダカールラリーを緊急事態宣言が発出された東京でパソコン越しに観ながら、今回のすごかったことと今後について考えてみました。
二輪部門はホンダの2連覇がすごかった
砂塵舞う砂丘を越えてくるシーンは芸術的。ある意味サンドアート。
バイク部門優勝したケビン・ベナビデス選手。
今回のダカールラリーで選手たちを最も苦しませたのは、ロードブックの配布タイミング。以前はステージ後に配布され、選手たちは予習をしてから、翌日のステージに向かっていました。今回からスタート20分前に渡されるようになり、予習なきまま試験問題に回答しながらゴールを目指します。
あらゆる参戦者のなかで最初にスタートしていく二輪は、先行するオフィシャルの四輪の轍程度で、ほぼ目印のないなか、ロードブックを見ながら走るのでルートを見つけるのがとても難しい。その日のステージをトップでゴールすると、翌日は1番目にスタートするので大きなミスコースをするリスクが高くなります。
そこで翌日が未舗装路で道がある程度わかりやすいと予想すればトップを獲りに行きますが、砂丘ステージなど、道なき道を行く場合は、ライバルを先行させてあえてトップでゴールしないことも作戦です。今回、休息日までの6ステージを走り、タイム差がトップから20分以内に13台がいて、接近戦かつ心理戦が繰り広げられました。
後半戦に入ると、ペースが上がり、ヤマハやハスクバーナ、KTMのトップ選手がリタイアし、ホンダも2選手がリタイア。最終ステージを前にホンダ、KTM、ホンダの順で3選手が7分13秒以内。最終ステージで見事ホンダがワンツーフィニッシュを決めました。一昨年まで18連覇していたKTMを抑え、連覇することでホンダの真の強さを証明しました。
私がパリ・ダカールラリーに参戦しようと決めたのは、中学2年の1982年。シリル・ヌブー選手がXR500Rベースのマシンでホンダに初優勝をもたらせた大会でした。その後1986年からホンダはNXR750のワークスマシンで4連覇をし、そのレプリカモデル(XRV650/アフリカツイン)が日本でも限定発売され、それを買って1990年オーストラリア大陸を縦断するオーストラリアンサファリに参戦したのが、私の初海外ラリーでした。
そのため今回のホンダの連覇は、私が大学時代に熱狂していたパリダカの興奮を蘇らせてくれることとなりました。
クワッドは、ヤマハ、ヤマハ、ヤマハ
クワッド部門のマシンは、ヤマハ・ラプターのほぼワンメイク
クワッド(四輪バギー)は、舞台を南米大陸へ移した2009年から独立した部門となり、以来ヤマハの独壇場で13連勝しています。日本ではあまり馴染みの薄いマシンですが、北米、南米ではオフロードスポーツやアクティビティとしてとても人気があります。
2010年からアルゼンチンのパトロネッリ兄弟が4連覇をしたのですが、南米では著名なサッカー選手や俳優と肩を並べるほどの有名人になりました。クワッドは二輪に比べ車重が重く、サスペンションストロークも短いので、砂丘は楽しそうですが、フラットダートや岩石の多い山岳路は極端に乗り心地が悪く、バーハンドルを押さえる力も絶えず必要です。なので選手はみな背筋が鍛えられ、まるでハルクのような超人体型です。
またリエゾン(移動区間)で舗装路を300km走るときなど、ごつごつしたブロックパターンタイヤのせいでずっと振動があり、私もリエゾン中に何台も見かけましたが、とても辛そうでした。並走したときは、クワッドの選手が、運転を代わってくれとジェスチャーで示してくるくらいでした。それにしてもこの部門は、ヤマハというジャパンブランドのほぼワンメイクで連勝し続けているのは、とても誇らしいです。
トラック部門は日野に注目
ルーフにたなびく鯉のぼりがトレードマークの日野レンジャー
ドライバーは菅原照仁選手。ナビゲーターは染宮弘和選手と日野社員の望月裕司選手の3名乗車。
過酷な前半戦で傷んだマシンを休息日に徹底的に直す。
私がダカールラリーに初参戦した1997年。セネガル・ラックローズのゴールポディウムには、3台の日野レンジャーが悠々と並び、ワンツースリーと上位独占したことを鮮明に覚えています。タトラやカマズなど大きなトラックが多いなか、排気量10リットル未満のコンパクトな中型トラックで挑み続けるスタイルがダカールファミリーでもリスペクトされています。
トラック部門はスタート時刻が最後なので、日が暮れてからもステージを走ることが多く、難易度が高まるときもあります。砂丘では四輪の轍が多いのでナビゲーションのリスクは減りそうですが、四輪では走れても背の高いトラックでは走れない角度の砂丘があったりして、ドライバーの経験値、その場の判断がとても重要です。
今回HINO TEAM SUGAWARAは、競技車1台のコンパクトなチーム編成として挑み、クラス12連覇もすごいですが、30年連続完走という偉業を成し遂げました。
元々二輪、四輪で参戦し、日野レンジャーで新たな轍をつけ、日野とともに挑んできたダカールの鉄人、菅原義正さんから菅原照仁選手に引き継がれました。照仁選手は、マシン開発のロードマップ制作からセッティング出しだけでなく、チーム代表として運営はもちろん、FIAや他チーム代表とのレギュレーション会議のテーブルにつく、日本のレーシングトラック界を代表する選手です。
トラック部門の常勝軍団、カマズ・マスター
ルノーのハイブリッドトラック。残念ながらリタイアだったが、今後のアップデートに期待。
トラック部門は、すでにルノーのハイブリッドトラックが参戦していますが、今後クリーンディーゼルや電動化など2030年に向け、進化が求められていきます。
市販車としては世界的にも物流を支えるトラックのFC化が実証実験の段階に進み、2022年春から国内ではトヨタのFCスタック搭載の日野プロフィアの車両総重量25トンのトラックが走り出し、三菱ふそうバス・トラックも車両総重量7.5トンクラスのトラックの量産を2020年代後半にすることが発表されています。アメリカではトラックメーカーのナビスターがGM製燃料電池電源ユニットを搭載したトラックを2022年末頃に実証実験を開始予定です。
ダカールラリーの常勝軍団のカマズ、マズ、イヴェコなど大型トラックがどこへ向かっていくのか、これから大きなゲームチェンジがありそうで、日野がトヨタグループの協力を得ながら、あの1997年にみた優勝ポディウムに再び上がることを期待しています。そしてダカールラリーのステージで鍛えられながら、もっといいトラックづくりを各メーカーが挑戦してくれることを楽しみにしています。
<後編に続く>
文:寺田昌弘
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
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