【ダカールラリー2022】GRハイラックスが総合優勝!車両規定変更でおもしろくなった…寺田昌弘連載コラム

今回で44回目を迎えたダカールラリーは、1月1日~14日にサウジアラビアで開催されました。参加台数はバイク144台、クワッド20台、四輪は89台(改造部門86台、市販車部門3台)、ライトプロトタイプ48台、SSV47台、トラック56台そしてオープンクラス5台の合計409台です。四輪では、2019年以来2度目となるTOYOTA GAZOO RacingのGRハイラックスに乗るナッサー・アル-アティヤ/マシュー・ボーメル組が総合優勝しました。

今大会より車両規定が変更となり、4WD車両のタイヤサイズやホイールトラベル量を大きくできるようになり、GRハイラックスも大きくアップデートされました。ここ数年プジョーやMINIなどバギーがほぼ総合優勝をしていましたが、これでいいバランスが取れたと思います。今大会を観戦していて感じたことを書きます。

バギーはプライベーターがワークスと競い合うマシン

パリダカールラリー(以降パリダカ)が冒険行からモータースポーツに変わっていくなか、メーカーにとっては車両開発の実験場であり、プロモーションの場にもなって盛り上がり、総合優勝を目指し三菱やポルシェ、プジョー、シトロエンなどメーカーワークスチームが鎬を削る競走を展開していました。そのなか、メーカーワークスに挑んでいたのが、80年代後半から90年にかけ、ル・マン24時間耐久レースや世界スポーツプロトタイプカー選手権にチーム・ザウバー・メルセデスから参戦し、1992年から独自にバギーを作り、参戦していたジャン=ルイ・シュレッサーさんです。私が1998年にパリダカに参戦したとき、現場でお会いしましたがとても品のある紳士といった感じで、そのとき一緒にいたのが、現在FIAクロスカントリーラリー委員会の会長であるユタ・クラインシュミットさんです。彼女はシュレッサーさんのチームでバギーに乗って参戦していました。
そして翌年の1999年、ついに三菱ワークスを破って総合優勝しました。翌年も連覇し3連覇がかかった2001年、総合トップを行く三菱の増岡浩/パスカル・メイモン組をシュレッサーのチームメイトがスタート時間を守らず先行し、走路妨害をしたことが原因で増岡浩/パスカル・メイモン組のパジェロがサスペンショントラブルに見舞われる後味の悪い大会になりました。このとき総合優勝したのは三菱に移籍したユタ・クラインシュミットさんで女性ドライバー初の快挙でした。
その後、彼女は2003年からワークス参戦したフォルクスワーゲンに移籍しましたが、この大会のフォルクスワーゲン(以降VW)はバギーでの参戦。このバギーがシュレッサーチームのバギーにとても似ていたのを覚えています。VWは翌年からTDIエンジン搭載のレーストゥアレグとして4WDで参戦。2009年から3連覇し、このチームエンジニアたちが2013年からVWのWRC参戦マシンの開発、運営をしていきました。ダカールラリーでは同じドイツのMINIが台頭し2012年から南アフリカトヨタチームがハイラックスで参戦し、4WDどうしでトップ争いをしていました。
2015年、そこに分け入ってきたのが、プジョー。SUVの2008(2017年から3008)の名を冠したバギーで参戦し、翌2016年から3連覇しました。このときメーカーワークスは4WDで対等にすべきという議論があり、プジョーも4WDマシンにスイッチするかと思えば、急遽撤退。これで落ち着いたかと思われましたが、MINIが4WDマシンとは別にバギーを作り、2020年から2連覇。さすがにFIAも車両規定を見直す必要がありました。クロスカントリーラリー委員会の会長は、シュレッサーやVWのバギーでトップ争いをし、4WDマシンの三菱パジェロで総合優勝し、どちらのマシンもよく知っているユタ・クラインシュミットさんですから、バギーが有利だったタイヤサイズとホイールトラベルの大きさを4WDマシンにも適応し、T1+と新たなクラスを作りました。それにより今大会のGRハイラックスは、ホイールトラベル量が280mmから350mmになり、タイヤが32インチから37インチになりました。タイヤ幅も245mmから320mmとなり、砂丘では広い面で接地できるようになりよりスタックしにくく、トラクションもかかりやすくなりました。なによりタイヤサイズが大きくなったことでパンクしにくくなったことがなによりドライバーにとってよかったのだと思います。

時代が変わると悩みも変わってくる?

  • シリーズハイブリッドで初参戦したアウディRS Q e-tron。Photo:Eric Vargiolu/DPPI

    シリーズハイブリッドで初参戦したアウディRS Q e-tron。Photo:Eric Vargiolu/DPPI

長きに渡り懸案となっていた4WDvsバギーの車両規定のバランスは、今大会で解消されましたが、時代も変われば新たな悩みも出てきます。今大会で最も注目を集めたのは、シリーズハイブリッドで初参戦したアウディのRS Q e-tron。サスペンション破損などダカールの洗礼を受けたものの、3人のドライバーがそれぞれステージウィンする活躍を見せました。しかしドライバーのひとりであるカルロス・サインツさんが、前回まで乗っていたMINIのバギーがよかったのか「タイヤ空気圧をバギー同様に車内でコントロールできるようにしてもらわないと不公平だ」と海外メディアのインタビューに答えていました。しかしユタ・クラインシュミットさんは「ヘリコプターに乗って上空から彼らの走りを見ていたが、彼らが不利であることはまったくない」確かに240km近くミスコースしたり、サスペンショントラブルなどヒューマンエラー的要素で順位が上がらなかっただけで、シリーズハイブリッドなど電気系にはまったく問題が出なかったことこそすばらしいと思います。DTMやフォーミュラEで磨いた技術を惜しみなく活用しながら、アウディは次回大会までに車重を軽くし、サスペンションなどを強化して参戦してくることを期待しています。

モータースポーツでクルマが鍛えられる。そしてもっといいクルマが生まれる

  • Bahrain Raid Xtremeは3台体制で、エココンシャスな燃料で挑んだ。Photo:Bahrain Raid Xtreme

    Bahrain Raid Xtremeは3台体制で、エココンシャスな燃料で挑んだ。Photo:Bahrain Raid Xtreme

今大会総合2位になったセバスチャン・ローブが乗るBAHRAIN RAID XTREME(以降BRX)のHUNTERは、前回大会から初参戦しましたが、サスペンションセッティングなど、ダカールラリーに合っていませんでした。しかし今大会は、GRハイラックス同様、T1+のマシンにして一気にアップデートしてきました。さすが過去スバルとともにWRCタイトルを獲ってきたマシンを作っていたPRODRIVEです。さらに今回から燃料「プロドライブ・エコパワー」まで製造してきました。主成分は農業廃棄物から製造された第2世代のバイオ燃料と、二酸化炭素を回収して生成されたeフューエルを合成した燃料。「プロドライブ・エコパワー」はガソリン対比で温室効果ガス排出量を80%軽減できるというものです。

マシンも鍛え上げられていきますが、こうしてエネルギーに関しても新たな挑戦が砂漠を舞台に始まっています。トラックでは日野自動車やルノーなどHEVでの参戦したり、FCEVのトラックやBEVのバギーなどデモランもあったりと、ダカールラリーは過酷な大地だけでなく、できるだけ環境負荷を抑える挑戦が始まっています。今後はたとえば給電、給水素などのポイントをルート上に設置したりするなどラリーの仕組みそのものを変え、BEVやFCEVが参戦しやすい環境作りをしていくかもしれません。またWRCのハイブリッドシステムの技術を活かしたマシンが登場するかもしれません。

しかしダカールラリーが終わってなにより一番驚いたのは、砂漠を越えて総合2位だったセバスチャン・ローブが、そのままラリー・モンテカルロにスポット参戦し、氷雪路を駆け抜け、総合優勝したことです。ドライバーやチームの技術、思いでマシンは走る。これだからモータースポーツは観ていてワクワクします。

(文:寺田昌弘)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


[GAZOO編集部]