トヨタとホンダ グラウンドではライバル、イベントではワンチームで水素のチカラを魅せる・・・寺田昌弘連載コラム
ワールドカップでの大活躍で日本でも人気スポーツとなったラグビー。NTTジャパンラグビー リーグワンには、ディビジョン1に12チーム、ディビジョン2に6チーム、ディビジョン3に5チームと、計23チームが全国で試合を展開し、盛り上がりを見せています。
今回、「トヨタヴェルブリッツ」と今期ディビジョン1に昇格した「三重ホンダヒート」の<モビリティーダービー>がパロマ瑞穂ラグビー場にて開催されました。
グラウンドでは熱き戦いが繰り広げられる中、カーボンニュートラル実現に向けた水素利活用のイベントが開催されていたので、観に行ってきました。
Movingeで生み出す電力を供給
トヨタとホンダで共同構築した、水素で走行する移動式発電・給電システム「Moving e(ムービング イー)」。2020年9月から実証実験を開始し、2022年9月から福岡市が導入しています。
「Moving e」は、トヨタの燃料電池バス「CHARGING STATION」、ホンダの外部給電器「Power Exporter 9000」2台、可搬型バッテリー「Honda Mobile Power Pack」36個、「LiB-AID E500」20個、充電・給電器「Honda Mobile Power Pod e:」36台で構成。
トヨタの燃料電池バス「CHARGING STATION」にすべての機材を積み込んで必要な場所へ移動し、電気を供給します。
まずイベントの楽しみのひとつであるキッチンカーへ電源を供給します。従来であれば小型エンジン発電機を使っていますが、音がうるさいですし、火をつかうのでガソリン携行缶の取り扱いに気を遣います。
また試合を取材するプレスルームにも配置し、パソコンや機材充電などにも活用されています。最大のメリットは、燃料電池で発電された電力を使って充電しているので、CO2排出がなく、クリーンな電力を使える点です。
私も昨年、LUNA SEAの仙台でのライブで、グリーン水素を充填したトヨタ・ミライから楽器電源を供給しました。他にもホンダの可搬型バッテリーと給電器をスタッフルームやメイクルームに配置し、カーボンフリー電力でサポートさせていただきました。
今回のトヨタ&ホンダは、さらに大規模にイベントの電力をサポートしています。
クラウンFCEVはグリーン水素を充填してサポート
展示エリアでは、トヨタはクラウンFCEV、ホンダはBEVのホンダeから外部給電器を通じて電源供給するデモンストレーションが行われていました。
私は2001年、11代目クラウンのマイルドハイブリッドで日本縦断をしたことがありますが、のちにHEVがラインナップされ、16代目でFCEVがラインナップされたことに正直驚きました。
ただ新たな走りの上質感をもたらすには、静粛性やトルクフルな走りにモーターでの駆動は優位で、かつFCEVであれば航続距離も長くなって、クラウンのような高級車にマッチするパワーユニットだと思います。
今回トヨタの担当者は、2024年1月より名古屋城の西側にオープンした「名古屋城グリーン水素ステーション」で水素充填してきたそうです。
ここはオンサイト式(敷地内でグリーン水素製造)で、大量には水素製造ができませんが、充填は予約式で効率よくグリーン水素充填をしてもらえます。
水素ステーションの数は、愛知県が35ヶ所で日本一(2023年12月現在。東京は整備中を含め21ヶ所)ですが、グリーン水素が充填できるステーションは、今回初めて愛知県にできたのです。
私は東京・江東区に暮らし、東京オリンピック・パラリンピックのおかげで近所に水素ステーションが4か所あり、ふだんミライに乗っていて不便を感じることはありませんが、都内ではグリーン水素を充填できるステーションがないのでうらやましいです。
ホンダeは2024年1月で生産終了となりましたが、新たにCR-V e:FCEVが今夏登場予定です。さらに新たなEV、Honda 0シリーズのコンセプトモデル「SALOON」「SPACE-HUB」を発表。こちらは2026年に北米販売予定で、カーボンニュートラルに向け、魅力的なモビリティーが続々準備中ということで今から楽しみです。
CR-V e:FCEVは、燃料電池で発電した電気だけでなく、プラグインで充電可能で、バッテリーの電気だけで約60km走れる見込みとのこと。
ふだん街中で乗るくらいであれば、自宅で充電した電気だけでBEV感覚で使えます。なのでPHEVならぬPFCEVといったところでしょうか。ミライ、クラウンFCEVにCR-V e:FCEVが加わり、乗用車のFCEVに選択肢が増えることがユーザーにとってとてもいいことだと思います。
平時に使えて有事に役立つ。これが大事
このトヨタとホンダのコラボは、2019年の千葉での台風災害がきっかけで、電力喪失時に、電気を届けに行けないかということで生まれました。
トヨタは燃料電池バスの「SORA」をベースに、ルーフだけでなく床下にもタンクを増設し、水素搭載量を2倍にした「CHARGING STATION」を作り、ホンダは開発中だった可搬型バッテリーを加速度を上げて作り、給電器とともにパッケージ化しました。
福岡市では、ふだんはイベントの給電に活用し、災害時は給電できる体制を取っています。
今年は北陸での地震による災害が発生、関東でも地震が続いている状況で、万一に備えることはとても重要だと思います。また地球温暖化(国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「地球は沸騰化の時代」と警告)による干ばつ、山火事、洪水などの自然災害も、二酸化炭素などの温室効果ガスが原因のひとつと言われています。
このトヨタとホンダのコラボは、水素を活用した発電で二酸化炭素排出を抑え、自然災害が起きる要因のひとつを減らすことに貢献し、かつ災害時に電力供給できる体制を各地に作れていて素晴らしいことと思います。
そして、こういった仕組みを少しでも多くの方々に観てもらい、知ってもらうことが重要だと改めて考えさせられました。
写真・文/寺田昌弘
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
[GAZOO編集部]
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