【クルマ購入ドキュメント第2回】元少年ライダーが、中年になって選ぶクルマは?
クルマがなくても困ることはないけれど、もしクルマがあれば、世界が広がり人生がもっと楽しくなるという不思議な確信がわいてきた。なぜなら、クルマのことを考えただけで、すでにこんなにも楽しいからだ。
都心の駐車場事情を体験
ネックは、免許を取って20年乗っていないペーパードライバーであることと、維持費だ。維持費といえば、「税金」「駐車場代」と「ガソリン代」「任意保険」。なかでも、都心ならではの駐車場代の高さが最大のハードルだ。
車庫証明を取る駐車場は、自宅から2km以内がルールだが、近いにこしたことはない。私の住むエリアでは、月4-5万円前後が相場のようだが、これでも昔に比べてだいぶ安くなったそうだ。高いとは思うが、クルマを「移動もできるセカンドハウス」と考えると、納得できる金額ではある。
コロナ渦になってから友達と飲みにいかなくなり、浮いた金額が月に5万円だから、駐車場代もなんとかなりそうだ。ただし、自宅のすぐ近くで駐車場が見つかるかというと、それは別問題だ。
「〇〇町」「駐車場」「月極」で検索し、自宅から徒歩10分の駐車場を見つけ、条件を確認した。敷金と礼金、保証、仲介手数料が各1か月分。6か月以内の解約で短期違約金発生…とある。なんだ、短期違約金って。聞けば、車庫証明を取るためだけに契約し、すぐに解約する人がいるため違約金を設けているのだそう。いわゆる「車庫飛ばし」対策だろうか。もちろんそんなことはしないけれど、この先引っ越しする可能性も踏まえて、よく考えて探さないといけない。
駐車場付きマンションに引っ越して専用駐車場を借りることも考えたが、賃貸マンションの専用駐車場は、普通の駐車場より相場がかなり高いようだ。
ダメ元で、近所の顔なじみの不動産屋で聞くと、私の住むアパートの隣の駐車場が今日空いたと教えてくれた。しかも、屋根付きで相場より安い35,000円だ。もちろん、その場で即決した。聞けば、条件の良い駐車場はすぐに決まるので、webに載せずに不動産屋が専任で持っておくことも多いのだとか。
それにしても、駐車場に敷金1、礼金1、保1、紹介料1、さらに1年毎の更新料か…。3万円台の駐車場を借りると、初期費用で10万円以上が飛ぶ。羨ましがっても仕方ないことだが、都心に土地を持っているということは最強だなあ…。
妄想が楽しいはじめてのクルマ選び
さっそくクルマ選びをはじめた。仕事柄、デザインも重要だ。服の趣味もクラシックだし、フィルムカメラと機械式時計が好きなので、クルマもクラシックなのがいい。しかし、初心者なので古いものはメンテナンスが不安だ。いちばん古くても、2000年以降のクルマにしよう。
予算や状態を一切無視して、2000年以降で最もデザインが好きなクルマを選ぶとしたら、ダントツでトヨタ オリジンだ。取引先のある青山で見かけて一目惚れし、すぐに検索して調べたのがこのトヨタ オリジン。2000年に、トヨタ自動車生産累計1億台達成の記念車として、初代トヨペット・クラウン(RS型)をモチーフに1000台限定で作られたクルマだ。クラシックかつラグジュアリーな美しいデザイン、サイズもそこまで大きくない。ただ、走行距離が少なくて予算的に手頃な個体が滅多に見つからない。いつかは欲しいけれど、最初のクルマではないような気がした。
他に、自分に合っているかなと思うのは、小さくてデザインがかわいいクルマだ。なにせペーパー歴20年以上なので、小さいにこしたことはない。そうすると、カラフルな欧州車が目につく。
特に気になったのは、近所に停まっているフィアット 500、アバルト 595、ルノー トゥインゴ、アルファロメオ ミト、MINI コンバーチブルだ。昔は、欧州車というと壊れるというイメージがあったが、今はそうでもないようだ。さっそく、中古車サイトで検索したが、値段も手頃だ。どれも良さそうなのだが、私には何か決定打に欠けている。なぜか、「自分が最初に選ぶクルマではない」という違和感があるのだ。
結局、欧州コンパクトカーはやめることにした。次の候補は、国産オープンカーとSUVだ。オープンカーで真っ先に浮かぶのは、子供の頃に憧れたポルシェ 911カブリオレ、ポルシェ 911タルガ、ロータス エラン、ユーノス ロードスターだ。ポルシェは初心者が乗れる代物ではないし、予算的に無理だ。マツダのロードスターは予算的にはOKだけれど、2人乗りなので、社員と一緒に撮影に行くのは厳しい。それならば、国産で4人乗りのオープンカーはどうだろうと考えた。
調べると、過去には国産4人乗りオープンカーがいくつもあったようだ。なかでも、特にデザインが美しいのがセリカ コンバーチブル後期型と、シルビア ヴァリエッタだ。セリカ コンバーチブルは横に並んだ4つ目がかわいく、デザインがドストライクだ。子供の頃憧れたアルピーヌ A110のようなラリーカーの美しさを持ちつつ、ジブリに出てくるロボットのようなデザインも絶妙だ。
同じセリカでも、「私をスキーに連れてって」に登場し、「しょせん、4駆の敵じゃないよね!」のセリフとともに4WDブームを巻き起こしたGT-FOURは四輪駆動だが、このセリカ コンバーチブルは二輪駆動のFFだ。ああ、セリカGT-FOURもかっこいいな。リトラクタブルヘッドライト、今は見なくなったな。
脱線したが、セリカ コンバーチブルは年式が少し古いので、私のような初心者には向いていない。リモート期間中に「ウォーキングデッド」や「Zネーション」などのゾンビドラマを見すぎたせいで、ゾンビや悪者に破られそうな「幌」も心配だ。
ということで、もう少し新しい電動ハードトップの4人乗りコンバーチブルを探すと、あった。レクサス IS250C、レクサス IS350C、日産 マイクラCプラスCの3車種だ。電動ハードトップなので、閉じるとオープンカーだとわからないし、ゾンビに幌を破られる心配もない。これは、1粒で2度おいしい。レクサスのコンバーチブルも日産 マイクラCプラスC も両方魅力的だが、スポーティーなレクサスに惹かれた。調べてみると、走行距離の多いものは予算内だが、低走行のノーマル車は高額で、予算オーバーだった。
4人乗りオープンカーのネックは、荷物が乗らないところだ。2人で旅行するくらいなら問題ないが、社員と4人で機材を積んで撮影に行くという使い方や、テントを積んでキャンプに行くといった使い方は厳しい。せっかくだからキャンプに行きたいし、車中泊して日本一周にも憧れる。スキーにも行きたいし、ちょっとしたオフロードも走りたい。そうなると、オフロードカーかSUVだ。かっこよさでいうと、トヨタ ランドクルーザーがダントツだけれど、なにせ大きい。借りる予定の駐車場に入る気がしない。
デザインだけで見ると、SUVではないが、トヨタ プロボックスをリフトアップ改造・全塗装してランドクルーザーの「TOYOTA」ロゴを付けたキャンプ仕様のカスタムカーがかわいい。しかし、リフトアップ改造が高速道路の走行安定性にどれだけ影響するのか不安だ。(トヨタさん、プロボックスベースのSUVを公式で出してくれたらいいのに。)
やはり、カスタムカーは初心者にはハードルが高いので、ノーマルのSUVで考えることにした。スペック表で、車幅と全長を調べ、狭い駐車場でも駐車できるサイズを検討すると、車幅が180センチ以内、全長470センチ以内が現実的のようだ。
レクサスRXとレクサスUXも気になるが、中古でも予算内に収まらないのと、サイズも駐車場に収まらない。他のミドルサイズSUVというと、トヨタ ハリアー、トヨタ RAV4、日産 エクストレイル、マツダ CX-5、ホンダ CR-V、スバル フォレスターが人気のようだ。このなかで、横幅が180センチ以内のクルマは、スバルの4代目フォレスターだ。
しかし、スバルというメーカーにイメージが湧かない。さて、どうしたものか。
「頭文字D」を観た、あのメーカに興味関心をもつ
一日中、頭の中はクルマ選び一色だ。仕事の合間や移動中も、時間を見つけてはクルマのことを検索する日々が続く。
そんなある日、心の中で封印してずっと避けてきたアニメ「頭文字D」を観ることにした。なぜ避けてきたのかというと、見たらハマって、クルマが欲しくなるとわかっていたからだ。
高校生だった1990年-1993年、バイクに夢中だった。頭文字Dの作者、しげの秀一先生の「バリバリ伝説」の連載が終わった頃だ。時代は、レーシングレプリカブーム。16歳になるとすぐに中免を取り、郵便配達のアルバイトで貯めたお金で、中古のホンダ 88年式CBR250Rを買った。相棒のアベ君はスズキのバンディット250だ。
買ったばかりの中古バイクではじめて峠に行った日、偶然にも走り屋雑誌「バリバリマシン」の峠取材に遭遇し、写真が掲載されてしまった。その峠の常連たちは、はじめて来た私にも親切で、とにかくかっこよく見えた。
時代は、首に当たってかゆくなる学ランのカラーを外しただけで怒られる管理教育全盛期だ。高校はもちろん「三ない運動」が徹底されていた。もしバイクに乗っていることが見つかったら即停学だが、そんなことはどうでもよかった。その日を境に、毎週末、アベ君と2人で峠に走りに行くようになった。
高校生だから、とにかくお金がなかった。バイクを軽量化するのにはお金がかかるが、人間を軽量化するのはタダだ。速く走るために体重を50キロ未満に抑え、お昼代はガソリン代にまわした。ヤフオクもメルカリもない時代だから、姉の友人に頼んでボロボロの革ツナギとブーツを譲ってもらい、朝から晩まで走った。バイクに乗っているだけで幸せだった。
峠に通ったおかげで、高校の友人とは違う友達がいっぱいできて、週末が楽しくなった。バリバリマシンにも投稿し、街中でも声をかけられるようになった。型遅れの愛車・88CBR250Rに出会えたことが、青春の全てだった。
父は、私が大学進学で上京すると同時にパジェロを私の従兄弟に譲り、「もっと楽なクルマにする」と言って、ランドクルーザープラドに乗り換えた。本当は、私が実家から通える大学に進学するなら、パジェロを私に譲るつもりだったらしい。
上京するときにCBRは友人に譲ったが、数年してまたバイクに乗りたくなり、憧れだったロスマンズカラーの88NSR250SPを買った。しかし、1年ぐらいですぐに売ってしまった。都心では、バイクはクルマよりも駐車できる場所が少ないからだ。都心にバイクで出かけると、駐車する場所を探すのが本当に大変で、駐車中も心配なのだ。駐車場所を探すのに疲れ、だんだんと乗ることが面倒になってしまった。
20代で自動車免許は取ったものの、都心でクルマを持つことは諦めていた。ペーパードライバー歴が長くなると、運転に対する恐怖心が芽生える。さらに、時折「煽り運転」のニュースを目にするたび、車を運転することがどんどん怖くなった。こうして、バイクにもクルマにも乗らなくなってから20年が過ぎた。
そして今、はじめて最初から観る頭文字D。面白いのはわかっていたが、ドハマりした。走り屋同士の友情、峠に捧げる青春。そういう文化は過去のものだし、今の時代に公道でドリフト走行をしたり峠を攻めたいわけではない。クルマを買っても、コンプライアンス遵守で安全運転を心がける。しかし、作品に出てくるAE86トレノ、FD3S、EG6,ランエボ、R32…なんてかっこいいのだろう。気づけば頭の中で m.o.v.e のDOGFIGHTがループしている。そう、シビれたい夢ならここにある。やはり、私は「乗り物」が大好きなのだ。
作中で、高橋啓介が藤原拓海に言った「クルマが好きで、運転が好きなら走り屋だ」という言葉が胸に響いた。私はペーパードライバーだが、クルマが好きだし、運転だって「好き」といえるようになりたい。峠を走らなくても、安全運転でも、クルマは楽しいのだ。早く自分のクルマに乗りたい!
主役のトレノAE86以外で一番気になったクルマは、藤原拓海の父・藤原文太が「実用的で楽なやつだ」「俺もトシだからな」と言って選んだ、スバルのインプレッサだ。作中でもっと活躍しているかっこいいクルマがあるのに、妙にインプレッサに惹かれるのは、私の年齢が主人公の藤原拓海よりパパの文太に近いからだろうか。
いままで気にしたことのなかったスバルのクルマが、急に気になりはじめた。スバルとは、一体どういうメーカーなのだろうか。
次回もお楽しみに!
(テキスト:古山玄(そこそこ社)/イラスト:本村誠)
[ガズー編集部]
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