【クルマ購入ドキュメント第5回】はじめての自分のクルマ。これからは、「乗せられる人」から、「乗せる人」へ。

ついにこの日が来た。今日、私は、「クルマを持っている人」になる。しかし、今日は、はじまりにしか過ぎない。今日からはじまるクルマとの日々こそが、本当に私の欲しかったものなのだ。

自分のクルマで、初めての公道

スバリストのタクシーを降り、トヨタモビリティ東京 江戸川中央店に入った。

担当の細川さんに案内された席には、ウエルカムボードと花が。書類とキーを受け取り、説明を受けるが、なんだか現実感がない。

駐車場に案内されると、そこに、グレーのフォレスターが停めてあった。

「おめでとうございます。あなたのクルマですよ」

一目惚れしたグレーのフォレスターを前に、そんなことを言われると、少し気恥ずかしい。照れと緊張で汗が吹き出した。クルマの中で、一通りの操作のレクチャーを受け終わると、副店長が挨拶に来てくれた。

「どうぞ、お気をつけて」

「ありがとうございました」

2人に見送られ、緊張しながらゆっくりとアクセルを踏む。フォレスターはアクセルを踏む力に敏感に反応して進み、店を出て公道にその足を踏み入れた。

ここからは一人。自力で自宅の駐車場まで帰る、初めてのドライブだ。

江戸川中央店から、自宅のある新宿区の古い町までは、約40分道のり。雨も上がり、スバル車ならではの視界の良さが生きて、外の世界が手にとるように輝いて見える。思っていたより、心配はなさそうだ。これなら、どこまでも行けそうだ。

ハンドルを握る手には汗をかいているし、体も緊張で硬い。でも、楽しい。まだ怖いけど、不思議なくらい楽しい。

ナビ通りに進み、自宅近くの馴染みのある道に着いたときは、思わず深いため息をついた。

人生初の自宅車庫入れ、そして冷や汗…

自宅周辺は、特に道が細く、時間で変わる一方通行などのややこしい道が多い。都心でも難所として知られているエリアだ。

早朝出発の出張で、自宅前に空港ハイヤーを呼ぶことがあるが、ナビ通りに一本奥の道を使うと、大きなクルマは身動きがとれなくなる。一応、予約するときに、「道が狭いので、小さいクルマで太い道を通って来てください」と言うのだが、タクシー会社が気を利かせて、大きなリムジンで迎えに来てくれるせいで、予定時間の10分前に「身動きとれないので助けに来てください」と呼ばれることが多々ある。

近所には、大きな道に出やすい駐車場には大きなクルマが並ぶが、少し奥まった駐車場には、コンパクトカーしか停まっていない。私の借りた駐車場は、横一列にクルマが並ぶ真ん中だ。外側には大きめのクルマが並ぶが、内側にいくにつれ、停めているクルマが小さくなっていく。私の隣は、ミニとC-HRだ。

そんな場所での、初の車庫入れ。あっけないほど、サクッと入った。

「よっしゃ!!!」

思わず声が出た。心配するより、やってみた方が早いのだ。なんとかなるじゃん。いちいち大袈裟だけど、なんとかなるじゃあないか。

よし、夜だしクルマも少ないから、今のうちに何周かして、車庫入れの練習をしよう。いける!

調子にのって3度目の車庫入れに挑戦しようとしたときだ。

「後ろからクルマが…!」

道は狭いので、すれちがいはできない。車庫入れせずに直進し、突き当たりの、車が一台ギリギリ通れる細い道を右折しよう…と思ったら、その道から、この道に左折して入ろうとするクルマが見えた。やばい。この細い道で前後を挟まれる。

完全にパニックだ。前からこの道に入ろうとするクルマは、状況を見て、左折を諦めて直進してくれた。しかし、後ろのクルマに、車庫入れを待ってもらうのは申し訳ない。早く直進して突き当たりの細い道を右折しよう。かなり細いが、さっきも入ったし大丈夫。

徐行して右折と…。あれ?突き当りのカーブミラーにギリギリ?このまま進めそうだが、念のため一旦停止しようか。

「ピーピーピー」

なんだこの音。左側のバックミラーが点滅している。これが噂のアイサイトか?一旦停止して振り返ると、左からクルマが来ている。この警告音は、左から来るクルマを知らせてくれたのだろうか。それとも、カーブミラーとの距離が無いことを知らせてくれたのだろうか。アイサイトの説明書を読んでおけばよかった。

汗が止まらない。いったん落ち着こう。カーブミラーとの距離はギリギリありそうだが、万一のために少しバックして右折し直した。よし、無事に通過だ。

後で見たがバンパーに異状はない。納車日早々、バンパーを擦ったりしたら、かなり落ち込むところだ。

無事に車庫入れしたあと、懐中電灯を持って、さっきの途中でカクッと曲がっていて下部分が突き出しているカーブミラーを見に行った。根元には、何年にも及ぶ傷たちが何層にもついている。カーブミラーの上部分に目がいき、張り出した下部分に気付かなかったのだろう。まさに、バンパークラッシャーだ。

赤、青、黒、白…。様々な色のクルマたちがクラッシュしてきたのだろう。黄色のキャンバスに、色とりどりの線がパンバーという絵筆で描かれている。これは、一種のアートなのだろうか。それとも、この一つひとつにドライバーの怨念が籠り、さらなる悲劇を呼ぶ怪異と化しているのだろうか。今まで、何台のクルマがこのパンバークラッシャーに泣かされたのだろう。

いったん停車してよかった。あのまま進んでいたら、納車日早々にバンパーを擦っていたかもしれない。

車幅感覚を掴むためには慣れるしかない。それにしても、幅179.5センチの4代目フォレスターでさえギリギリだから、これより車幅のあるクルマにしなくてよかった。

衝突安全性や輸出の関係でそうなったのだろうか。日本の道幅は変わっていないはずなのに、クルマはどんどん巨大化していく。現行のフォレスターにしなかったのも、車幅が180センチを超えてしまったからだ。このまま大きくなり続ければ、22世紀には2mを超すのではないだろうか。iPhoneとiPadの大きさの差も埋まりつつある昨今、これは変えられない流れなのだろうか。

クルマに乗っている友人たちからは、「慣れるまでに、必ずどこか擦るよ!」と脅されていたが、それが今日でなくてよかった。やはり、いつか擦る日が来るのだろうか。

初日、いろいろあった。家に帰りベッドに横たわると、どっと疲れが出た。ヒヤリとすることはあったが、これからが楽しみだ。

「乗せられる人」から、「乗せる人」へ

この10数年ほど、週末にドライブに連れて行ってくれた大学時代の後輩、モリササ君が納車祝いに来てくれたので、2人でフォレスターに乗って、近所の東京大神宮に交通安全のお詣りに行った。

学生時代に仲が良かった友人は、大人になって就職すると、結婚したり子どもが生まれたして、どんどん疎遠になっていく。モリササ君は、そんな学生時代の友人のなかの、数少ない「よく会う友達」だった。

お互いに彼女がいないときは、週末になるとモリササ君のクルマで、パワースポットと温泉めぐりのドライブに行った。

私は、古いフイルムカメラを集めているので、何が買うたびに、そのカメラをテスト撮影に持っていった。

群馬県の榛名神社、赤城神社、四万温泉、伊香保温泉、沢渡温泉。栃木県の佐野厄除け大師と佐野アウトレットと佐野ラーメン。長野県の諏訪大社と諏訪湖。千葉県の成田山新勝寺、香取神宮、白子神社、犬吠埼温泉。茨城県の鹿島神宮、息栖神社、御岩神社。神奈川県の箱根神社、江島神社…。東京から日帰りでいけるパワースポットには、かなり行った気がする。

モリササ君も、私の影響で学生時代から古いライカを使っていた。郊外で就職し、通勤のために買った最初のクルマが古い三菱RVR、次が初代日産エクストレイルで、今は2代目トヨタ ランドクルーザープラドだ。

ペーパーだった私は、いつも乗せてもらうだけだったので、10数年間一度も彼のクルマを運転したことがない。助手席でポケモンGOをしたり、写真を撮ったり、音楽をかけたり好き勝手にしていた。今となっては、申し訳ない。

ずっと彼女のいなかったモリササ君は、10数年に及ぶパワースポット巡りと縁結び祈願のご利益があったのか、去年結婚した。

久しぶりに会ったモリササ君を、今度は私のフォレスターに乗せ、私がハンドルを握った。2人で何度もドライブしたが、私が運転するのははじめてだ。

2人で東京大神宮にお詣りしたあと、いつのまに授かったのか、モリササ君が交通安全のお守りを私に手渡した。

「おめでとう。気をつけて」

「ありがとう」

今まで友達に恵まれていたのもあった。いつも、誰かがクルマを出してくれたし、誰かが運転をしてくれていた。

これからは違う。私がクルマを出して、友達を乗せるのだ。

今日、私は生まれてはじめて、「乗せられる人」から「乗せる人」になれた。

クルマが結ぶクルマ好きとの縁

私の会社が「8割リモート」になってから一年が経つ。コロナ渦になる前は、平日みんなでランチに行くのが日常だった。

納車されてから、たまたま同僚たちが出社した日に、会社近くの赤城神社に「車祓い」に行った。同僚とは、仕事以外で会うことはないから、こうして揃うのは久しぶりだ。

東京の牛込地域の総鎮守、神楽坂の赤城神社は、群馬県の赤城山を御神体とする、全国に300社あるという赤城神社の一つだ。鎌倉時代に、赤城山の麓からこの地に移住した豪族によって創建されたといわれている。現在は、隈研吾氏設計のモダンな社殿が有名で、神楽坂のシンボルとして親しまれている神社だ。

巫女さんに案内されて、クルマを階段下につけ、クルマが社殿に向くようにした。うん、絵になる。

赤い鳥居の先は、普段は関係車両以外侵入禁止で、クルマを停めては行けない場所なので、ここは、車祓いを受けるクルマだけの特権フォトスポットだ。

そういえば、幼い頃に、父にジムニーに乗せられ、近くの八幡宮に「車祓い」に連れて行かれたことがある。

私が子供の頃の70年代•80年代は、神社に「車祓い」に行くというのをよく聞いた気がするが、今はあまり聞かない。若い人に言うと、「車をお祓いするんですか?初めて聞きました」と驚かれる。もはや、すっかり廃れてしまった文化なのだろうか。でも、車祓いを受けると、「安全運転しよう!」っていう気持ちが高まる。

車祓いが終わると、お祓いをしてくださった禰宜(ねぎ)さんが話しかけてくれた。

「よくお詣りにいらっしゃいますよね。ご近所なんですか?」

「会社が、この近所なんです。ここに車祓いに来たのは、もちろん近所っていうのもあるのですが、頭文字Dって漫画が好きで、その作品に赤城山が出てくるからなんですよ。だから、赤城山を御神体にしているこの赤城神社に車祓いに来たかったんですよね」

「赤城レッドサンズですね。私もクルマに乗っていますよ。と言っても、私のはFDじゃありませんし、ロータリー使いでもないのですが」

「まさか、かなりクルマ好きなのでは?」

「大好きです。今は愛車のE46M3でサーキットを走っていますよ。ほら!」

「うわあ、マジっすか。かっけぇ!」

「楽しいですよねえ、クルマ。くれぐれも、交通安全で。お気をつけて!」

せっかくなので、一緒にお祓いを受けた同僚たちを記念撮影。交通安全、社内安全、社業繁栄。コロナ渦が早く収束しますように!

神楽坂の古い街並みにも溶け込むフォレスターで、赤城神社の真っ赤な鳥居をくぐった。今日も車庫入れが楽しみだ。

今日もいい日だ。

クルマのある生活のはじまり

まだ始まったばかりだが、クルマのある生活は楽しい。運転することはもちろん、行きたい場所へのルートを検索したり、ネットショップでカーアクセサリーを物色するだけでも楽しい。買う前に感じていた、「怖さ」や、「面倒くささ」も、みるみる消えていくようだ。

思えば、免許を取ったあと、ほとんど乗らずに20年以上が経っていた。上京して都心で就職し、毎日に追われているうちに、クルマを持つことなく、気づけばこの歳だ。もっと早く、若いころにクルマを買っていればよかったとも思う。そうすれば、ペーパーならではの、最初の怖さも、面倒くささもなかったのに。

若い頃は、興味とワクワクだけで、なんでも始めることができた。しかし、歳をとるにつれ、何かを始めるのに腰が重くなっていく。

もし一歩踏み出していなかったら、さらにペーパー歴が伸びて腰が重くなり、一生クルマを持たない人生になっていたかもしれない。先月、「欲しい」と思ったときに、すぐに行動してよかった。

めちゃくちゃハマった面白い映画や漫画を見終わったとき、はじめての貴重な体験をしたとき、こう思ったことはないだろうか。「記憶を消してまた観たい。また最初から経験したい」と。はじめてのクルマ購入、クルマのある生活。私は、この歳になって、そんな貴重な「はじめて」を体験している。

全てのドライバーが、最初は「はじめて」だ。あんなに運転の上手いあの人も、最初は初心者だったのだ。

とにかく心配性なもので、なにを始めるにも慎重な私だ。万全を期して、クルマがほとんど走っていない夜中にゆっくり練習しつつ、ペーパー講習にも通っている。

コロナ渦になってから、クルマを買うまでは、仕事が終わるとコンビニで一番搾り糖質ゼロの500缶を買って飲むのが日課だった。しかし最近は、深夜に少しだけ乗りたくなったりするので、ビールを買って帰るのをやめ、一滴も飲まなくなった。

深夜に、窓を全開にして近所を少し走るだけでも楽しい。なにせこれは自分のクルマだ。本当に、買ってよかった。

都心でクルマを持つことに対して、「移動コスト」や「リスク」の面から「合理的でない」という人もいる。でも、クルマを買って、人生って合理性だけではないなと、しみじみと感じている。

今週末は、友達の運転で何度も行った大好きな場所、あの憧れの「聖地」に、はじめての自分のクルマで、自分の運転で行こう。考えただけで、ワクワクする。

週末が楽しみだ。はやくドライブに行きたい!

次回、お楽しみに!

(テキスト、写真:古山玄(そこそこ社)、編集:GAZOO編集部 岡本)