【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第1話#11

第1話「セルシオ盗難事件を調査せよ!」

2nd マークX、千葉へ走る。
#11

しばらくすると、優しそうな制服姿の警察官が現れた。歳は周藤よりも少し上だろうか。背は高くないが、ガッチリとした体格で柔道か空手でもやっていそうな雰囲気だ。
「よお、周藤さん、久しぶり。元気かい」
どうやら顔なじみのようだ。「お陰様で」と親しげに答えている。
テーブル席に案内された。
「あれ、そちらのかわいいお嬢さんは」
カバンから慌てて名刺を取り出した。
「はじめまして、インスペクションで調査員をしています、上山ミキと申します」
名刺には、千葉県警柏警察署交通課係長・秋本とある。
「どうも、よろしくね。周藤さんにいじめられていないかい」
周藤を見ると、目が合ってしまい思わず苦笑いした。
「いえ。今日から下についたばかりなんですが、とっても優しいです」
「なんだよ、周藤さん。かわいい子には優しいのかい」
周藤がこっちを睨んできた。
「そんな冗談はさておき、今年、千葉県警さんが大きな摘発をしましたが、その後の動きはどうなんでしょうか」
秋本はまんざらでもない様子で語り始めた。
「そりゃあ、やつらも動きにくくなっただろうね」
千葉県警も千葉市も不名誉な自動車窃盗被害を撲滅するため、手をこまねいていた訳ではない。サイトでの広報を含め、あの手この手で盗難防止策を呼びかけている。
昨年は四街道市内や柏市内で起きた窃盗事件で、ブラジル国籍を持つ男2人を強盗傷害容疑で逮捕した。この事件で犯人が標的にしたのはスバル・インプレッサだ。深夜に民家の敷地に侵入して、窃盗を実行。しかし所有者に気付かれ、逃走する際、阻止しようとした男性を約20メートルに渡って引きずり、負傷させた。
また、10人近くの日本人の若者で構成された窃盗グループも摘発している。やはり、インプレッサの盗難に気づいて阻止しようとした所有者がその車にひき殺されるという痛ましい強盗殺人事件が起きたのだ。
インプレッサも海外での高値転売が可能な人気車種だ。ラリーなどでの活躍も人気に拍車をかけているのだろう。
そして今年、千葉県警と警視庁は、ナイジェリアやウガンダ国籍のほか、日本人20人以上を含む、50人を超す大規模な窃盗グループを摘発した。被害総額は30億円にものぼると見られている。彼らは、千葉県印西市にある、「ヤード」と呼ばれる自動車解体作業場を拠点にしていた。
調査係、実行犯、運搬係、車体修理・改造係、書類偽造係、売却係と、多くのセクションに分かれて組織的に犯罪を行っていたことがわかっている。
まさに組織犯罪。まるで、会社組織だ。
さっき受付で見かけた婦警さんがお茶を持ってきてくれた。頭を下げると、微笑んでくれてこっちまで笑顔になる。やはり友達になりたい。そう思った。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]